パラレルうる星小説PART1「高校野球編:第2話叶う夢・叶わぬ夢(後)」 (Page 2)
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『さあ、七回の裏、バッターボックスには先ほど三塁打を打った三鷹!』
三鷹もまたルパのポーズだ。あたるの顔に冷や汗が流れる。完全に余裕のない顔だ。
(あたる!)
コースケは思わず、心の中であたるの名を叫んだ。あたるが投げたボールはまるで中学生の投げる球だ。三鷹はそのボールの速さに慣れていないためか、
ストライクゾーンでも手は出さない。そしてフルカウントで投げたあたるのボールは三鷹のバッドによって外野の後ろにまで転がっていった。
完璧なピッチャー返しだが、あたるは動かなかった。あたるが取ると思ったショート・因幡と、セカンド・レイはボールを取ることが出来なかった。
さらに不幸なことはセンター竜之介の捕球ミスによって三鷹の三塁打を許してしまったのだ。
『さあ、やってきました!五番・五代!一刻商内ではもっとも器用なバッターであり、長打力のある五代!甲子園でもホームランの記憶があります!』
無情にも五代は余裕を無くしたあたるにとどめの如く、ホームランを打って見せた。フォームはルパのそれではなく、五代そのもののフォームだ。
それでも打たれた。

外野席
「諸星っ!!」
面堂はついに怒りの頂点に達した。ポケットの中のボールを地面にたたきつけた。そのボールは跳ね上がって高く上がる。
「終ちゃん・・・?」
飛麿は羅刹のような形相の面堂に恐れを感じた。面堂の握るその拳は激しく揺れ、血管さえ見えるようだ。
「帰るぞ、トンちゃん。あいつはもう甲子園に来ない!」
「でも、一刻商が来るんだったら、見ておいてもいいんじゃないの?」
「一刻商のデータは揃っている!見る必要もない!」
面堂は自分でも気付かない内に友高を応援していた。しかし外野席からではあたるはやる気のないプレーをしている様にしか見えない。
「まて、面堂・・・」
温泉が球場を後にしようとする面堂を止めた。
「何でしょうか?」
怒りが治まらないのか、少し強目の声だ。
「いま、あいつは試練を受けているようなもんだ」(温泉)
「は?」(面堂、飛麿)
「気付かなかったのか?一刻商のバッターは五代以外全て、友高の前キャプテン・黒川のフォームだ」
「え・・・。しかし何故それが試練なんですか?」(面堂)
「あいつと黒川の間になにかあったんだよ。お前達の話によると諸星は黒川を尊敬していた。しかし、恐らく黒川は例の事故で自分を尊敬してくれている
 諸星が潰れるのを恐れたんだ。諸星は黒川以上の素質を持つピッチャーだからな・・・。そこで諸星が潰れる前に自分から引き離なれる様になにかとがめたんだろう。
 だが、諸星はそんなことでルパから引き離れなかった。逆にショックだけが残ったんだ。そして一刻商はその情報をキャッチしていたんだ。一刻商はビデオか
 なんかで黒川のフォームを完璧に模写した。そして、万が一の時のためにそのフォームで練習をしていたんだろう。五回までいつものような打撃力が出なかったのは
 黒川のフォームに力を入れすぎていたからなんだ」
「でも一刻商はどうやってその情報を?」(飛麿)
「いるだろうが。一人だけ、のぞきのプロが・・・」(温泉)
「あ、四谷!」(面堂)
「そうだ。四谷は黒川が諸星をとがめる所を見ていたんだ」(温泉)
「しかし情報源がのぞきっていうのは少し非常識な気がせんか?」(飛麿)
「差詰め、これしか思いつかなかったんだろ、作者が」(面堂)
「相変わらずの無能ものだ」(飛麿)


七回の裏、一刻商は四点を追加し、ついに逆転。ペースも完全に一刻商に傾いている。
ベンチに戻るナインはあたるにドンマイの声をかける。だが、メガネはあたるをとがめ、殴りかかろうとさえした。幸い、パーマがそれを止めたが、
メガネの言うことがナインの気持ちに一番近かった。
ベンチに戻ると親父が立ち上がり、あたるの前に仁王立ちで立った。
バキッ!
ベンチ内に強烈な音が響き渡った。親父があたるを殴ったのだ。
「とうちゃんっ!!」(ラム)
幸い、試合関係者にはその様子は見られておらず、没収試合と言うことにはならなかった。床に倒れ込んだあたるに親父が声を低くして言う。
「お前、何様のつもりじゃ?黙って見てりゃ、ふざけたボール投げくさって・・・。ルパとの間に何があったかはしらんが、野球は個人競技やない。
 お前一人のために何十人っておるナインの夢をぶちこわすことになるんやで。やる気がないんなら、今すぐ野球部を辞めい!」
あたるは抑えた頬を少し、右手で覆って、親父を見上げた後、下を向いて静かに口を開いた。
「分かりました・・・。俺を代えてください・・・。試合が終わったら俺・・・、野球部辞めます・・・」
コースケはあたるから心に矢を打たれた気持ちになった。ナインにも心に大きい弓矢が刺さり、目から生気が消えた。
「あたる!ふざけるなァ!!」(コースケ)
唯一生気を失わなかったコースケはあたるの胸ぐらを両手で掴みあげ、強く揺さぶった。コースケの心にも弓が刺さっている。しかし、

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