『熱』 (Page 1)
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熱






ラムが熱を出した。

いつも元気のいいあいつが、朝からなんとなくおとなしくて、気にはなっていた。

でも俺の性格上、ラムに問いただすことも出来ず、結局そのままにしていた。




昼休み。

様子のおかしいラムに気付いて、しのぶが声を掛けた。

ラムは、そのまましのぶに付き添われて、教室を出ていった。

おそらく、保健室に行ったのだろう。

ラムそのまま早退することになった。

教室に帰ってきたしのぶの話によると、「過労による発熱」とのことだった。

サクラさんの診断だろう。

俺はそのまま学校に残り、午後の授業を受けた。




放課後。

いつものお目付け役がいないにもかかわらず、なんとなく気が乗らず、何処にも寄らずに家に帰った。

ラムはたぶんUFOに帰って寝ていると思ったので、奥の部屋に声だけ掛けて、そのまま二階に上がる。

自分の部屋に入ると、やっぱりラムの姿は無かった。

だが、押し入れから気配を感じてそっと開けてみると、そこにはラムが寝ていた。

襖が開いたのに気づいて、ラムが薄っすらと目を開ける。

「何だ、UFOに帰って寝てると思ったのに」

俺がそう言うと、ラムは少し掠れた声で言った。

「うん・・・うちもそうしようと思ったんだけど・・・なんか一人だと心細くて・・・」

「あれ?ジャリテンは?」

「テンちゃんには、薬を買ってきてもらうように頼んだっちゃ」

「そっか・・・」

確かに、病気の時って人恋しくなるもんだよな。

「しょうがねぇ。布団敷いてやるから、下で寝ろよ」

「え?そしたらダーリンは?」

「俺が押し入れで寝るって。さすがに俺は、病人を押し入れに押し込んどくほど、鬼畜じゃ無いんでね」

「でも・・・」

ラムは戸惑っているようだ。

俺を押し入れで寝かすのに、抵抗があるのだろう。

今更、気を使う仲でもあるまいに。

こういう所、案外こいつは律義だったりする。

「いいから、病人が遠慮すんなって!起きれるか?」

「ん・・・」

俺が言ってやると、ラムはやっと納得して、起き上がろうとした。

が、体がフラついて、そのまま前のめりに倒れそうになる。

「おっと!」

俺は慌てて手を出して、倒れそうになるラムを支えた。

・・・触れている肩が、異常に熱い。

宇宙人であるラムの体のことは、正直よく分からない。

だが、地球人の感覚で言うと、そうとう熱が高いみたいだ。

俺は、ラムをそのまま抱き上げて、一度床に降ろすと、布団を敷いてやった。

ラムは、壁にもたれながら、ぼんやりとそれを眺めていた。

「ホレ」

布団を敷き終わると、手を貸して寝かせてやる。

「ありがと、ダーリン」

そう言って見上げてくる瞳は、熱のせいか潤んでいる。

少し上気した頬・・・。

なんだか俺は、そのいつもと違うラムの姿に、思わず目を奪われてしまう。

柄にもなく、鼓動が早くなる。

いかん。

病人相手に、何やってるんじゃ。

俺は、あわてて自分を現実に引き戻すと、立ち上がった。

「じゃ、俺いくから。しっかり寝てるんだぞ」

俺は、部屋を出た。







その夜。

慣れない押し入れの中で眠ることが出来ず、俺は押し入れを抜け出した。

ラムの様子を伺う。

ラムは眠っているようだが、かなり呼吸が荒い。

俺はラムの横に座り、そっとラムの額に触れた。

すごく熱い・・・。

薄く開かれた唇から、絶えず苦しそうに息が吐き出されている。

俺は立ち上がって、部屋を出た。

台所へ行きタオルを水で濡らすと、部屋に戻って、ラムの額の上にそっとのせた。

一瞬、ラムの目が開いたように感じたが、またすぐ目を閉じてしまった。

しばらく俺は、そのまま、眠るラムの顔を見つめていた。

額のタオルに触ると、ずいぶん温まってしまっているので、何度かタオルを変えてやった。

・・・結局、俺にはこんなことくらいしかしてやれない。

ラムが病気になっても、医者に連れて行ってやることもできない。

ラムの体に合った薬を、買いに行ってやることもできない。

それに、今回ラムが倒れたのは、たぶん俺のせいだろう。

「過労による発熱」

サクラさんは、そう言っていた。

確かにこいつには、苦労ばかりかけているかもしれない。

俺が女好きで、所構わず口説きまわるというのを差し引いても、俺は昔から何かとトラブルに巻き込まれる運命のようで、

(こいつも十分トラブルメーカーだとは思うが)その度にいつも、こいつを巻き込んでしまう。

それでもこいつは、そんなこと物ともしないように、いつも元気で、笑ったり、泣いたり、怒ったり・・・・

だから忘れてた。

今、俺の目の前で、苦しそうに眠っているラム。

その布団からのぞいている肩も、首筋も、腕も、俺に比べてこんなに華奢なのに。

もっと気を使ってやるべきだった。

・・・それでも、あからさまにやさしくなんか出来ない自分の性格を、心の中で呪った。

いつしか、辺りは白み始めていた。

「少し寝るか・・・」

俺はまた押し入れに潜り込んだ。







朝。


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