「ザット・クレイジー・サマー」第九話・後篇 (Page 3)
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するとどこからともなく穴が開いた。大きめの窓ぐらいの丸い穴で、あたるの父の夢が、穴を覗くと見える。三人が出てきて、移動を開始する。
船はふわふわりといった感じで浮いている。上下も左右もない世界のように感じられたが、景色は動いており、前方へ進んでいるようには思えた。
夢邪鬼は、船頭のように艪を操りながら船を操縦している。メガネと面堂の二人も、オールを漕ぎながら

メガネ(しかしまあ船といいえらく旧式…)
面堂(何ともまあ奇っ怪な…)

と思っていたが、そんなことは口には出さない。




メガネ「結局何時間ぐらい愚痴を聞いたんだろうな」
面堂「さあな。しかし貧乏とは悲しいもんだな、親にあんな夢を見させるほどとは…いやはや、あのアホは…」
夢邪鬼「さあ、そのあんさんが言うとるアホの夢やで」
メガネ「よっこらしょっと………………ん?面堂、お前こんのか?」
面堂「考えてみろ。大体あのアホが見そうな夢など、十中八九ハーレムの夢に決まっとる」
メガネ「見てみないとわからんだろうが」
面堂「ふん、諸星の夢など、見た方が毒されてしまうわ」
メガネ「そうか…脳科学的には貴重な体験だと思うがな…」
面堂「とにかく僕はそんな無為なことに時間を費やしたくはないもんでね」
夢邪鬼「ま、来ないならそれでもええけど、でもそこから動くんやないで。動いたらいろいろ保証しかねるさかい」
面堂「大丈夫だ。僕もそこまで軽率じゃない。」



ことのほか早く、メガネたちは戻ってきた。五分もたったかどうか。


面堂「どうだったか?」
メガネ「…………この顔見てわからんのか」 呆れたような、疲れたような顔だった。
メガネ「ああそうだよ、ハーレムの夢だったよ!まったく、あたるの野郎、一発殴ってやりたいもんだな」
夢邪鬼「それで本当に一発かまそうとしたからワイがあわてて連れ出したんや」
面堂「まあ、そんなところだろうとな、ふふっ…」
メガネ「おまえなあ、そんな皮肉ばっかり言っとったら友達いなくなるぞ」
面堂「だって事実だろう?」
メガネ「……………………
    
    おい、口直しだ、次はラムさんの夢に行くぞ、いいな」
夢邪鬼「口直しって、そんな。まだ懲りへんのかいな」
面堂「その表現はラムさんに失礼だぞ」
メガネ「ええい、ここまで来て何も収穫なしで帰れると思っとんのか!」
夢邪鬼「わての一番の目的やさかい、ええけどな…気分よくはならんと思うで」
二人「「どういうことだ?」」
夢邪鬼「ついてくればわかる。さあ動くで、オール漕ぎ」



夢邪鬼「しかし、あの諸星も、まあツミな男やな」
面堂「本当だ、あの男に惚れたばっかりにラムさんも…」
夢邪鬼「そういう意味で言ったんやない」
メガネ「そういう意味じゃなかったらどういう意味なんだよ!」
夢邪鬼「ええか、少しだけ教えたる。人間の思考というのは、例えるならば海や。
     今脳の中で考えていることは浅瀬、無意識に考えている深層心理は深海や。それらが干渉しあって、目に見える波になったりするんや。これが人の行う行動。
     他人の海を見ようと思うても、たいていそのさざ波しか見えん。自分の海も、淀み方によるけど、せいぜい浅瀬ぐらいまでしか見えん。
     夢っちゅうんはなあ、うん、しいて言えば浅瀬と深海の間にできるもんなんや。浅瀬が主になることもあるんやけど、深海から浮き上がってくることも多い。
     夢は、深海を見ることのできる唯一の手立てなんや」
メガネ「ん?夢ってお前が作るもんじゃないのか?お前の口ぶりだと人間が作りだしたようにしか聞こえんのだが」
夢邪鬼「あのなあ!夢を一からつくるというのは大仕事なんやで。この世には何十億と人間がいるんやで、そんなことしてたら日が暮れる。わての通常業務はただ、監視役にすぎんのや。
     一通り見て判押して…みたいなところや。まあ、現実で夢をつくってやったもんもいるけどな」
メガネ「…わかった。わかったんだが…さっきの『日が暮れる』というのは夜が明けるの間違いじゃないのか?」
夢邪鬼「…夜が明けて日が暮れる、それぐらい時間がたつということのたとえや」
メガネ「屁理屈上手だ」
夢邪鬼「理論武装ではあんさんにはかなわん」


面堂「…まあ、とりあえずそれは置いといて、要するに貴様は何が言いたいのか?」
夢邪鬼「この理屈で行くと、あの諸星の深層心理はハーレムということや」
メガネ「そんなの決まりきっとる事じゃないか!」
夢邪鬼「……そういうやろうと思うた。所詮他人の海は外しか見えへんのやから、まあ当然っちゃ当然やな。

     一つだけ教えとく。あいつの心理はスケスケや。本人も、自分の心理に気づいとる。
     でありながら、見えない振りをしとるんや、…どういうことか理解できへんやろう」


メガネ「……」
面堂「抽象的すぎてわからん」
夢邪鬼「そりゃ、わてもライバルの心理をべらべら喋ってやるほどお人よしやないからな。あとは自分で考えい。

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