スクランブル!ラムを奪回せよ!!(2) (Page 3)
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錯乱坊は「南無阿弥陀仏」と教を唱えながら外に出て行った。
もしかすると、私の行動を予測して止めに来たのかもしれない。
私は五人分の牛丼代をカウンターに置いて、BIG BEEFを後にした。

勉強机の一番下の引き出しから、小学生の時に使っていた書道セットを取り出して、
墨を磨りはじめる。
階下からは、父が観ているバラエティ番組らしいテレビの笑い声と、母が皿洗いをす
る音が聞こえてくる。
先程の夕食の時、両親の顔を見るのはさすがに辛かった。
これから自分の行う行為が最悪の結果を迎えた時、二人がどれほど悲しむかと考える
と心が痛んだ。

両親に当てた遺書をしたため終え。
クローゼットから、過去一度の実戦投入を経て改良を施した自作強化服を取り出す。
頭部および胸部のアーマーは、レーシングカーやオートバイのカウル等に使うFRP
製の外装に、アメリカのデュポン社と日本の東レが共同開発した、ナイロン系アラミ
ド繊維であるケブラーで織った布を幾重にも重ねてサンドイッチしてある。
至近距離からのライフル弾は無理としても、拳銃弾位は防げるだろう。
バットをへし折れる事が実験済みのレッグアーマーは、野球のキャッチャーのレガー
トを参考にチタンプレートを削り出して自作した。
グローブのナックルにもチタンを埋め込んである。
ラムさんを護る為に、冬休みのバイト代とお年玉の殆どを注ぎ込んだ、対人用戦闘防
護服の自信作だ。
生徒手帳に挟んであるラムさんの写真を抜き出し、胸部アーマーの内側にテープで貼
り付け、全ての準備は終わった。
後は、両親が寝静まるのを見計らい、家を抜け出すだけだ。
壁のポスターの中で、相変らずラムさんが天使の様に微笑んでいた。
あの笑顔のためなら我が命など何程の物でもなかった。

徒歩で、無人の友引商店街を通り抜け、面堂邸を目指す。
ショウウィンドウに、自作強化服を装着した禍々しい姿が移し出されている。
ゴミ箱を漁っていた野良犬が、その姿に怯えて逃げ去っていった。

野良犬の逃込んだ路地から「横断中」の黄色い小旗を手に、米軍放出品らしい戦闘服
に白い鉢巻を締めたパーマが歩み出てきた。
戦闘服の切り落とした肩口からのぞく、オレンジのトレーナーが眼に映える。
立ち止まった私の目前で「右向け右」で正対し陸軍式の挙手の敬礼を行うと、照れた
ように笑った。

「パコーン、パッシ」「パコーン、パッシ」今頃、誰かがテニスの壁打ちか一人
キャッチチボールを行うリズミカルな音が商店街にこだましている。
不意に音が途切れ、ビルの陰からキャッチャーのプロテクターに工事用のドカヘルを
被ったカクガリが、転がったボールを追いかけて姿を現した。
ボールを拾いかけたカクガリは私達に気付くと、一度グローブを叩き気合を入れてか
ら歩み寄ってくる。
無言で差し出された右手を私は強く握り反した。

深夜便のトラックのヘッドライトが、野球のヘルメットと剣道の防具に身を固めたチ
ビの笑顔を浮かび上がらせた。
彼は我々の中で、一番気が弱く、臆病で、体力的にも恵まれていない。
おそらく恐怖と闘い、悩んだ末、ここに来たのだろう。
そして、漢らしく鮮やかに笑っている。
私はその笑顔にしばし見惚れた。

フェイスガードの下の眼鏡が曇って、視界がぼやけている。何か話せば、声が震えて
上手く喋れないかも知れなかった。
それを、三人に悟られないように無言で行進を続けながら、今回の作戦の成功を確信
していた。
たとえ面堂が、金に任せた軍隊でラムさんを守ろうとしても、我々の内、必ず誰かは
ラムさんの元へ辿り着いてみせる。

「皆よく来てくれたな」
閑静な住宅街と道一本隔てた面堂邸の巨大な正門の手前で進行を止め、三人に振り返
り、深呼吸をしてから、頭部アーマーを外して声を掛けた。
「お前に化けて出られたんじゃ、かなわんからな」
冗談めかしてパーマが明るく応える。
感極まったのか、チビは泣き始める。
「メガネ、お・・・俺・・・ね、・・・俺さ・・・」
チビの肩に手を架けて落ち着かせる。
「わかった、わかったから泣くな」
言葉など無くともチビの言いたい事は解り、私の気持ちも彼に伝わっている。
「メガネ、何か作戦は有るのか」
カクガリは現実的な問い掛けをしてくる。
「うむ、先ず正門横の詰所を強襲する。敵もまさか堂々と正面から来るとは思ってい
まい。で、そこで武器と乗り物を手に入れ、一気に本拠地を叩く」
「上手く行くかなぁ」
「やって見なけりゃ分らんさ」
「そう、やって見なけりゃ・・・誰だ」
聞き覚えのある声が、パーマ達とは違う方角から聞こえてきた。
「よお」
あれほど頑なに協力を拒否していたあたるが傍らの民家の塀から顔を覗かせた。
「あたる・・・」
何故と言う想いと、やはりと言う想いが交錯していた。
「どうしてここに」
「お前ら、そろいもそろって頭良くないからな。きっと正面から攻め込むだろうと
思って、待っていたら案の定って訳さ」

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