友引町を奪還せよ-act2- (Page 3)
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「帰るとこねーんだ。ほら、テレビで見たろう?友引町が空に浮いたって。だから元に戻るまでウチで止めて良いかな?」
コースケは何も喋らないあたるを見ながら言った。
「ええ、大歓迎よ」
本当に嬉しそうに言った。コースケは高校時代の思い出を時々話していた。そのとき絶対出てくるのがあたるなのである。
コースケの妻はその話を聞く度にあたるをウチに招きたいと言う。しかしあたるは危険だといつもコースケが止めていた。
今回は、ラムのこともあってちょっかいは出さないと思ったコースケは、気の毒な気持ちもあり、家に泊めることにしたのである。
「食事にする?それともお風呂?」
良くある言葉である。
「夕飯から」
「だったら、少し待って諸星さんの作るから」
台所に向かった。包丁の音やいろいろなにおいが漂ってくる。
コースケはあたるをリビングに案内した。そしてソファーに座らせた。
「じゃ、俺、着替えてくるから」
そう言って、コースケは部屋を出ていった。あたるは上着を脱ぎ、ネクタイをゆるめた。
するとコースケの妻が入ってきた。手にはお盆があり、そのうえにコーヒーが二つ乗っていた。
「はい、これでも飲んで暖まってください」
そう言ってテーブルの上に乗せた。
「今日は残念でしたね。ラムさんのこと心配でしょうに・・・」
「ラムのことなら大丈夫だと思う。電撃持ってるし空も飛べるから・・・」
あたるの方は高校時代に会っているせいか、ため口だった。
するとコースケの足音がした。コースケの妻はその音を聞くと
「失礼します」
といって部屋を出ていった。コースケを見ると、おそるおそる訪ねた。
「どうしたの諸星さん。なんか元気がないみたい。ラムさんがいなくなっても強がる人だったんでしょう」
「お前は気にしなくても良いよ。俺が元気づけてやるから」
そう言って部屋に入った。あたるは下を向いて座っていた。ソファーにすわるとコーヒーを一口飲んであたるに言った。
「理由を教えてくれ」
単刀直入に言った。手にはコーヒーを持ったままだった。
「お前はラムさんが急にいなくなったりしたら誰よりも一番に行動してたじゃねえか」
あたるは顔を上げた。
「おまえ・・・ここから武藏友引駅まで遠いではないか」
あたるは開き直った顔をした。話を逸らそうとしたのだ。
「ごまかすな!んなもん、面堂の刀と一緒でしらんでも良い!」
コースケの言葉にあたるは諦めた。
「・・・やっぱり・・・話した方がいいか?」
あたるは深刻な顔をした。そのとき
「不吉じゃ〜、ラムに何かが起こるぞ〜」
チェリーが突然現れた。
「ええい、とっくに起こっとる!!」
コースケは木槌でぶっ飛ばした。
「ったく・・・」
木槌をぽいっと捨てた。そしてあたるの方を見て言った。
「話してくれ」
立ち直りが早かった。チェリーが現れた意味はなんだったのか。
再び部屋は静かになった。屋根に開いた穴から直接、夜空が見えた。
「・・・俺、ラムを助けにいけねえんだ」
コースケは訳が分からなかった。
「どういう意味だ?」
コースケはコーヒーを飲もうとした。
「もし今、戦ったらおれは死ぬかも知れねえんだ」
口元までいっていた手はそこで止まった。
「なっ・・・」
コースケは言葉がなかった。
「三年前、何か頭に違和感を覚えた俺は、ラムに進められて病院に行った。別にたいしたことはないと思ってたんで、
医者の説明をあまり聞いてなかったんだが、このまま暴れたら死ぬって言われた。何でも頭の中の血管に変な塊があって
それが今までの乱闘のツケだった。もう一度暴れたら死ぬ確率が高いんだと。だから俺は行かない」
外は雪が降り始めていた。屋根の穴から雪がパラパラと落ちてくる。
「ちょ、ちょっと待ってくれ、屋根を修理するから・・・」
そう言って部屋から出ていった。庭の倉庫から大工道具を取り出し、はしごで屋根の上に登ると修理を始めた。
雪がしんしんと降る。
(ここからの話、あんまり聞きたくねえな)
コースケはこういう悲しい話に弱かった。意識的にゆっくりとしたスピードで、出来るだけ時間を稼いだ。
だが、時間は無情にも流れ、コースケはあたるのはなしを聞かざる終えなかった。
玄関から入り、雪を払うと、辛いながらも部屋に入った。
ソファーに座ると
「続きを・・・」
と言った。
「お前・・・、手術はしないのか?」
コースケが先に言った。がたがたと窓が鳴った。風も出てきたらしい。
「・・・塊があるのは頭の中だ。下手に手術すれば、危ないことぐらい分かるだろう」
「・・・で、でも、早めに手術した方が良かったんじゃないか?ラムちゃんに心配かけないためにも・・・」
「そうしようと幾度と思ったさ。でも・・・出来なかった。死ぬのが怖かった・・・」
「ラムちゃんは知ってるのか、そのこと」
「知らない、下手に言ったら楽しく暮らせないと思ってな」
部屋は静まりかえった。時計の音がやけに大きく聞こえた。コースケが沈黙を破った。
「お前・・・大人になったな・・・」

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