同窓会パニック!カニ先生が泣いた日(中編) (Page 1)
Page: 01 02 03

再びあたるサイド。松井はイベントの司会のアルバイトをやっているだけあって、
こなれた感じで、サクサク会を進行していった。
ビンゴゲームが行われ、あたるとしのぶは好成績を残し、商品を獲得した。
メガネ、パーマ、チビ、カクガリの4人がカラオケを歌うなどして、会は大いに盛り上がった。
料理もなかなか美味で、もう言う事なしの楽しさだった。この人物がいること以外は。
この人物とは、このクラスの担任であった、蟹江金蔵のことである。
今年で40歳のベテラン教師である彼は、2年前、あたるたちの担任だった。
担当は英語で、曲がったことが嫌いな性格であったので、予習をしてこなかったり、
授業中居眠りをしようものなら、容赦なくオシオキをした。
その凄まじさは、あたるの今の担任で、同じく英語教師である温泉マークなどとは比べ物にならなかった。
当然その1番の「犠牲者」は、あたるだった。それと松井もだった。よく2人で放課後遅くまで説教された。
しかし高校のときとは異なり、反抗しようという気は両者とも起こさなかった。
実は彼は、柔道、剣道、空手、合わせて10段というつわもので、
逆らえばどんな目に遭わされるかは火を見るより明らかだった。
実際あたるの先輩に、再起不能にさせられかけた人がいた。しかもその姿をあたると松井は見た。
それ以来、彼は2人の苦手になってしまった。そんな彼を2人は、「蟹江先公」略して「カニ公」と影で呼んでいた。
そんなわけであたるはもちろん、松井も司会をやりながらも、蟹江とは目を合わさないようにしていた。
しかし、しのぶを含め、他の多くの生徒はこのことを知らなかった。戒口令(つまり口止め)が行き届いていたからだ。
そのため、外部では専ら、「生徒思いのいい先生」で通っていた。
だからしのぶが、
「ねえ、2人とも先生に挨拶に行きましょうよ」
というのも当然だった。
あたると松井は当然嫌がったが、しのぶが2人を無理やり引っ張って行こうとしたところを、蟹江に見つかってしまった。
終わった・・・このとき2人はそう思った。
「おおーっ、諸星、松井!それに三宅も久しぶりだなー!!どうだ?こっちで少ししゃべらんか?」
2人が断れるはずがなかった。そんな2人の胸中など露知らず、しのぶはええ喜んでと言ってカニ公の横に座った。
しのぶは優等生であったから、やはり蟹江も割と気に入っていたようである。
しのぶも中学時代の思い出といえば、真っ先に思い出すのが彼のことなのである。
彼には勉強のことや進路のことでとても世話になっていた。
蟹江は酒を飲んでいるわけでもないのに、トークは軽快だった。そんな中、
「諸星と三宅は確か付き合っていたよな?お前ら、今も続いているのか?」
と切り出すと、しのぶが、
「やぁだぁー、先生!とっくに切れちゃったわよ、こんなヤツ!」
と、あたるの頭を平手で叩きながらすかさず返した。
あたるは何も言わない。いや言えない。それぐらい緊張していた。
しのぶがさらに、
「あたる君は、それに松井君ももう結婚しちゃってるんですよぉ!松井君なんか子供までいるんですから」
と言うので、あたると松井が慌てて、
「ば、ばかっ。何言ってんだよお前!悪い冗談言うな!!」
としのぶの方を見て言ったが、しのぶは、
「あーら、たとえ正式にはしてなくても事実上はそうじゃないの。
それとも18になっても婚姻届出さないつもり?あんたたち」
と冷静に返した。そんな3人のやり取りを聞いて蟹江は、
「そうか、お前らが・・・そうか」
と完全にしのぶの言うことを信用していた。まあ、あながち嘘とも言えないが。
そして、慌てて弁明しようとする2人のことなど気にも留めずさらに、
「いいかお前ら、18になったらちゃんと婚姻届出すんだぞ。
それをするとしないとじゃ、お前らのその相手の女性に対する責任の持ちようというものが・・・」
こんな感じで小一時間話が続いた後、
「・・・いいな、2人とも、夫として責任ある行動をしろよ。特に松井は子供もいるんだからな、父親としてもだ。
もし女房や子供を泣かすような事をしたら・・・いつでもオレがオシオキしに来てやるからな」
と締めくくった。2人は背筋をピンと伸ばし、はいと大きな声で返事した。
しのぶが驚いた様子で、
「エッ、先生って、生徒を怒鳴ったり体罰したりなさるんですか?」
と蟹江に尋ねた。当然である。
前述のとおり、蟹江の怖さはあたるたちを含めたわずかな人間しか知らないのだ。
「当然だろ?悪いことをした者を制裁するのは。愛のムチと言って欲しいねェ」
蟹江はあっさりと答えた。しのぶはこれで分かった。
「ははーん、なるほど。だからあんたたち、あんなに嫌がってたのね」
しのぶは2人に向かって言った。
あたると松井は彼の長い話が終わった後、緊張が解けてほっとした。
それと同時に、意外だという気持ちだった。
いくらあたるにはまだその自覚がないとはいえ、妻帯者であると思われ、そのことを蟹江に詰られるだろうと思っていたからだ。

Page 2
戻る
Page: 01 02 03