父親の威厳を取り戻せ! (Page 3)
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不安げにそう語る父にはお構いなしに、黒子はあたるにそうしたようにウェアに着替えさせた。
「よ、よーし。やるぞー」
震える気持ちを吹っ切り、父はボールを力いっぱい叩いた。
バシュッ
打球はあたる同様、きれいな放物線を描いた。そして、球は何とピンの3ヤード手前に落ちた。
そのすばらしいショットの後、しばらくは誰も言葉を発することができなかった。体が石になった。
「お・・・おおーーーー!!」
「キャアーーー!!」
あたると了子のこのそれぞれの叫び声で、4人の石化は解けた。
「父さん!すげえーーーー!!信じらんねえーーーー!!」
あたるの興奮はなかなか収まらない。
「いや、ハッハッハ・・・まぐれだよ、まぐれ」
まあまあとあたると了子の興奮を冷ますように両手でジェスチャーをする父だったが、心の中は誰よりも興奮していた。
その興奮を何とか抑えつつ、2打目を行った。余裕でカップインし、いきなりアルバトロスを達成した。
(アルバトロスなんて・・・接待ゴルフでもやったことないのに・・・)
心の中でこうささやきながらも、顔はにんまりとしていた。
そんな父の作り出したいいムードに乗せられたのだろうか。ナイスアプローチであたるはイーグル、了子はバーディーを達成した。
しかし、そんなムードにひとり、乗り損ねた男がいた。今にもその自慢のオールバックが崩れ去りそうな面堂である。
「たりゃあああーーーー!」
掛け声はいいのだが、結果が伴わない。1打罰のため3打目となったこの打席も、打球は無情にも池にポチャンと落ちた。
「アラー、面堂君。これは確か・・・池ポチャって言うんじゃ・・・また1打罰・・・」
「うっ・・・うるさいっ!」
これしか言えない始末である。結局このホールは8打、トリプルボギーに終わった。
その頃ラムとあたるの母は、今日の午後2時から始まるブランド品のタイムセールが行われるデパートに到着していた。
「あと10分しかないわ。急ぎましょう」
「わかってるっちゃお母様。あっ・・・」
「あっ・・・」
入り口を急いで通り抜けようとしたラムの目の前に、見慣れた顔が2つ並んだ。しのぶとサクラだった。
「しのぶ・・・サクラ・・・2人もお目当てはバーゲンだっちゃ?」
2人を指差し、ラムは尋ねた。
「もち!だって最大で9割引でしょう?こんなチャンスめったにないもの」
「新聞に広告が挟まっていたのでな。それを見て来たのじゃ」
4人はにこやかに会話をしながら上の階にある催事場に向かった。
しかし内心はいかに他の連中を出し抜いてやろうかという気持ちでいっぱいだった。
再びこちらは面堂家のゴルフ場。第2ホールは先ほどとは一転して150ヤードのショートホールとなった。
「さっきは動揺してタッチが微妙に狂ったが・・・今度こそ・・・!!」
震える手でクラブを握り、先ほどより力を加減してティー・ショットを行った。球は見事にグリーンに落ちた。
「おっ?そろそろいつものプレイか!?」
茶化すようにあたるは言った。
「えーい!黙ってろっ!気が散るっ!!」
面堂は左手を左右に振り、あたるを遮るようにした。続けて2打目を打つことになった。
「この距離なら楽勝ですわよ。ねえ、諸星様」
「そりゃ、そうだよねー。まさかこれを外すわけはないよ、了子ちゃん」
了子とあたるの2人は巧みに面堂にプレッシャーを掛けた。
「えーい!!プレイ中は静かにするのがマナーだろうが!!」
たまりかねた面堂はさらに2人を大声で怒鳴りつけた。
「あら、ごめんなさい。お兄様。でも私、決してそんなつもりはなかったのですのよ」
いやらしい笑みを浮かべ、了子は平謝りした。それがさらに面堂のイライラに拍車を掛けてしまった。
「あーっ!!」
面堂は手元が思い切り狂った。ピンそばを無情にも通り抜けてしまった。
「ほらー!!お前たちがいらんことするから・・・!!」
面堂はあたると了子のほうを指差し、子供みたいな見苦しい言い訳を展開したが、2人ともツーンとした態度をとった。
結局このホールもボギーに終わってしまった。
「さあ、お兄様みたいにならないように・・・と」
了子はわざと兄に聞こえるようにささやきながら球を打った。打球はナイスコースだった。このホールはパーに終わった。
あたると父も絶好調で、ともにパーでこのホールを終了した。
(おのれぇー・・・、諸星めぇー・・・!!了子とグルになってこのボクを散々愚弄しやがって・・・!!
このままでは・・・このままでは済まさんぞ・・・!!)
あたるへのうすら寒い怨念で凝り固まったこの男に、もはや冷静なショットを期待することは不可能だった。
その頃、デパートのバーゲン会場では、女たちの激しい争いが繰り広げられていた。
「なにするっちゃ、しのぶ!このワンピースはウチが先に取ったっちゃよ!!」
「それはこっちのセリフよ!いいからその汚い手を離しなさいよ!破れちゃうじゃない!!」
「こんな胸元の大きく開いたやつ、しのぶには似合わないっちゃよ!!いいからウチに渡すっちゃ!!」

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