時は夢のように・・・。「第八話」 (Page 4)
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   とになってるんだぞ? 解決方法は単純、素直に心を聞かせるだけだ。」
 隣でパーマも、うんうん頷いた。
あたる「でも・・・さっきも話しただろ? ラム、俺の話なんか聞いちゃくれな・・。」
面堂「それは違うな。」
あたる「・・えっ?」
面堂「違うって言ったんだ。さっきの話しぶりから察すると・・・諸星、きみはどこかで自分も被害者だって思ってるんじゃないか?」
 面堂は鷹みたいに目を細め、ズバッと言った。
 俺は絶句してしまった。
面堂「ふん、やっぱりそうか。だからそんなことが言えるんだ。どんなに冷たくされようと、本気になれば、言い訳できないはずがない。
   きみがそれをしないのは、自分は唯さんから告白を受け翻弄されているっていう被害者意識を、どこかに持っているからだ。ラムさ
   んからすれば文句のひとつも言いたくなるのは当然だと、ぼくは思うが、きみはそれすらも言われる筋合いのない嫌味だと受け取っ
   てる節がある。どうだ、諸星? 違うか?」
 面堂は居丈高に、俺を見下ろした。
 こいつ、時々ものすごく鋭いコトを言うんだが、ここまで鋭いのは聞いたことがない。
 そして、俺も頷いた。それは・・、
あたる「そ・・・そうかもな。心のどこかで・・・そんな風に考えてたのかもしれない。」
面堂「それがわかったのなら、自分でなんとかするんだな。やましいところはないから黙ってればいいと思うのは、きみの勝手な考えにす
   ぎない。本当に相手を想う気持ちの中には、自分のことを考える隙間なんてないはずだ。自分の状況どうこう以前に、まずはラムさ
   んのモヤモヤを取り払ってやれ。それが終わって、なおかつ問題が起きたなら、その時は、また相談に乗ろう。じゃ、諸星、そうい
   うことだ。」
 スッと手を上げ、面堂はきびすを返した。
 俺が茫然と見つめていると、その後をパーマが追い、
パーマ「おおーい、面堂! 俺はおまえに憧れたぜぇ! 今日から師匠と呼ばせてくれ!」
面堂「フッ・・。ついてくるのは勝手だ。」
パーマ「おおッ、師匠ぉ! あんたは男の中の男だっ!」
 そのまま、二人はスタスタと行っちまった。
 ああいうのを見ると、面堂がどこまで本気なのか疑わしくなるが・・・、少なくともあいつの言葉が、俺の胸をえぐったのは確かだ。
 そうだよ・・・ラムを傷つけちゃったのは、俺なんだ。
 気持ちを新たに、俺は顔を起こした。

                               *
 放課後。
 ゲーセンにでも寄ってかないかというパーマの誘いを、考え事があるからと断り、俺は校門に向かって、ひとりで中庭を横切っていた。
 足が重い。
 帰りたくないんじゃない。ラムに素直に話す覚悟もできてる。ただ・・、なんて切り出したらいいのかわからない。どう言えば最後まで
聞いてくれるか、見当がつかなかったのだ。
 ・・・こんな調子じゃ、ロクな考えは浮かばないな。
 俺は頭を振って、思考を切り替えようとした。
 おかしな光景が目に入ったのは、その時だ。
 門柱のところに、髪の長い女性が立っている。
 紺色のスカート・・・脚はすらっとしてて、すごく長い。上に着てるのは、白の半そでシャツで、襟元は黄色のスカーフで隠れてる。
 ・・・おやぁ?
 眉をひそめ、俺は視線を首から上に移した。
 見知った美貌が、そこにあった。水色の大きな瞳、ちょこんと上を向いた鼻、まるく整った緑色のロングヘア・・・彼女の名前は、いま
さら語るまでもない。
 ラムだ。
 ただし、その表情は芳しくなかった。門柱にすがって、憂鬱な眼差しを空に向けている。両手で鞄をぶら下げていた。金具にくくりつけ
た、いつかのお守りが、そよ風で揺れている。
 幸運か不運か・・・。こんなトコでラムに逢えるなんて、神様も意地悪だよなぁ。
あたる「おーい、ラム! どうしたんだ、先に帰ったんじゃなかったのか? 俺を待っててくれたのか?」
 声をかけて、俺はラムの前で停まった。
 ラムは俺と視線を合わせると、パッと赤くなり、
ラム「べ、別に・・・そうだけど・・・でも違うっちゃ!」
 どこか怒ったように、ラムは言った。
 いつものラムらしくない。言葉の前後関係がムチャクチャになってるし、顔は怒ってるのに、なぜか赤いし・・・サッパリわからん。
あたる「なにかあったのか?」
ラム「お・・落としたっちゃ・・・ちょっと。」
 ラムは視線を逸らして答えた。なぜかものすごく言いづらそうだ。
あたる「落としたって、財布か?」
ラム「さ、財布落とすほどウチはドジじゃないっちゃよ! 違うっちゃ!」
あたる「じゃ、なに落としたんだよ?」
 するとラムは俯くと、
ラム「・・・カギだっちゃ。」
あたる「は?」
ラム「だから・・・家のカギだっちゃ!」
 辺りを見回し、ラムは小声で叫んだ。
あたる「はぁ。」
 俺は瞬きしてしまった。
 ラムはバツが悪そうにしていたが、俺を見る目は、しっかり怒っていた。


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