時は夢のように・・・。「第八話」 (Page 5)
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 結局、俺たちは家までの十数分間、一緒に歩くことになった。
 俺は歩きながら、ラムの気分を害さないようにと、ずっとニコニコしていた。ちょっと無理して、いくぶん引きつってはいるけど。
 しかし、俺の笑みが逆に気に入らなかったのか、それまで無言だったラムが、大通りへと出た時点で、恨めしそうにこっちをねめつけ、
ラム「・・・もう、馬鹿にしてるっちゃね。憶えてるっちゃ。」
あたる「だ、誰も馬鹿になんかしてないよ。」
ラム「だって、さっきからずーっとニヤニヤしてるっちゃ。」
あたる「ひどいなぁ、ニヤニヤじゃなくてニコニコしてるんだよ。久しぶり二人で帰るから。」
 俺は笑いながら答えた。
 意外な言葉に、ラムはちょっとだけ赤くなったが、すぐにプイッと顔を背け、
ラム「そんなコト言っても駄目だっちゃよっ! ウチ、まだ怒ってるんだっちゃ!」
あたる「そ、その件なんだけどさ・・・。」
 グッドタイミング・・・揉み手をしながらだが、とにかく俺は事情を説明した。
 唯が俺をどう思っているのか、それに対して俺が思っていること、やましいことが無いこと、いろいろな後ろめたさのためにラムを傷つ
けてしまって申し訳なく思っていること・・・包み隠さず、全てをだ。
あたる「・・ってコトだからさ、別になんかあったワケじゃないんだよ。」
 俺はそこで言葉を切ると、歩きながらペコッと頭を下げた。
あたる「唯ちゃんが俺を好きだとしても、俺の気持ちは、唯ちゃんとラムとでは全く違う。はっきりしなかった俺が悪かった!」
ラム「う、ウチは別に・・・嫉妬とかヤキモチとか・・・そういうんじゃないっちゃ。ふーん。」
 チラッとラムを見ると、眉こそ怒ってるものの、口もとは笑いの形に歪んでた。
 だがすぐに俺が見ていると気付いたらしく、あわてて指を一本立て、
ラム「じゃあ、ハッキリしてもらうっちゃ! 諸星クンは、ウチと唯とどっちが好きだっちゃ?」
 キターーッ。やっぱり、この質問は免れないと思ってた。
あたる「そ・・そんなことこの場で言えるか! ・・・でも、俺のことは、いつも通り・・・その・・・“ダーリン”って呼べ。」
 どうにかこうにか口から出せたのは、なんとも歯切れの悪いセリフだった。
 くそぉ・・、歯が浮いてなかなか言葉が出てこないじゃないか・・っ!
 でも、あたるの言葉に、ラムは目をパチクリさせ、
ラム「・・・・わかったっちゃ。」
 俺の言葉にできないフクザツな気持ちが通じたのか、ラムは赤くなった。
ラム「でも今回だけだっちゃ。次にウチを傷つけたら、諸星く・・ダーリンなんて知らないっちゃよ!」
あたる「へへーっ、肝に命じておきますです。」
ラム「よろしいっちゃ!」
 エッヘン、とラムは腕を組んだ。偉そうにしてるつもりなんだろうが・・・可愛いぞ。
 やがて見えてきた道を右に曲がり、少し歩いて、俺たちは自宅の前で止まった。
 あの大看板は、相変わらず屋根に突き刺さってる。破損箇所こそ青いビニールシートで覆ってあるものの、あの邪魔な看板を取り払わな
いと、雨漏りは防ぎそうにない。修繕費は全額相手もちってコトで話はついたんだけど、業者の査定も入っていない状況。シートは二次災
害防止のためにって、消防署の人がかけていったものだ。
 こうしてみると、確かにパーマの言うとおり・・・ポップアートっぽいな。
 面白いことは、この時起こった。
 ラムが俺に向けて手を出すと、
ラム「ねっ、カバン貸すっちゃ。」
あたる「構わないけど・・・どしたんだ?」
ラム「今夜の夕飯は、外で食べようって唯と話してたっちゃ。先に、唯とテンちゃんは商店街に行ってるはずだから、ウチらも合流するっ
   ちゃ。どうだっちゃ?」
あたる「いいねー。乗った!」
ラム「じゃ、ちょっと待っててね。カバン置いてくっちゃ。」
 ルンルンと鼻歌うたってたところを見ると、すっかりモヤモヤは解消されて、清清しい気分だったんだろう。でも、それがミスだった。
 ラムは俺のカバンを受け取ると、ぴょんと飛び跳ねて玄関まで向かった。それからスカートのポケットに手を入れると、あるものを取り
出したのだ。
 家のカギである。
 ・・・んっ?
 俺が呆気にとられていると、ラムはドアを開けてカバンを置き、すぐに戻ってきた。
 ラムは、ニコニコしながら俺の顔を見て、
ラム「どうしたっちゃ? 変な顔してるっちゃよ?」
 自分じゃ、なにやったか気付いてない。俺は笑い出してしまった。
あたる「ククク・・・誰がカギを落としたって?」
ラム「えっ?」
 パチクリ瞬きしたかと思うと、ドアへ振り返り、
ラム「あ・・ああーっ!」
 ラムは悲鳴をあげて、俺の方へ向き直り、
 目を閉じて顔を真っ赤にし、手をブンブンと振り乱すラムの慌てぶりは、なかなか見応えがあった。

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