うる星やつら しのぶのストレンジストーリー(前編) (Page 3)
Page: 01 02 03 04 05

 「いいか三宅、お前は何も負い目を感じる必要はないんだからな。今まで通りに接すればいいんだ」と言った。温泉先生は、私を気遣って言ってくれたのだろうが、その言葉はかえって私にハンデがある事を実感させた。何故かと言うと、そういった言葉が出る時点で私の事をそう言う目で見ていると言う事だからだ。しかし私は、覚悟を決めて復学したのだ。今までと同じような学校生活が出来ない事は、百も承知だった。だいいち、そんな些細な事をいちいち気にしていたら、きっと半年も持たないだろう。そして私は先生に
 「わかりました。ありがとうございます」と言った。
 間もなく私達は、2年4組の教室の前に着いた。温泉先生は、私の方を見て軽く頷くと教室のドアを開けた。
 よくドラマなどで、そんなシーンを目にするがまさか自分がそれを体験する事になるなんて、夢にも思わなかった。しかし、今の温泉先生の頷きは何だったのだろうか?教室のドアを開ける事に対して、私の同意を求めているのか?それとも、私に覚悟を決めろと言いたいのか?はたまた、ただ単に格好をつけているのか?いずれにしても、全く意味の無い行動なのは間違いないと思う。温泉先生は、そんな私の考えに気づくはずも無くスタスタと教室に入り、教室の中から
 「おい、三宅。入って来い」と言った。私は意を決して車椅子を手で動かしながら教室の中に入った。すると、私が教室に入った途端、クラスのみんなが
 「しのぶー!お帰りー!」と言った。それを聞いた私は
 (み、みんな……私、まだ帰る所が有ったんだ)と思い、目からは自然と涙が溢れて来た。私は、震える声で
 「ただいま」と一言答えるのがやっとだった。こうして、私の新たな学校生活が始まったのだ。
 何日かして、私はある事に気づいた。クラスのみんなだけでは無く、学校中が私に対してまるで腫れ物に触るかの様な対応に思えたのだ。自分で出来る事までやってくれようとする。みんなの親切はとても嬉しく感謝しているのだけど、はっきり言って有り難迷惑である。自分で出来る事は自分でやらないと、私の存在意義が無くなってしまう様な気がしたのだ。でもただ1人、意外にもラムだけは違っていた。それはある日、授業中にいきなりチェリーが現れてクラス中が大爆発した時の事である。
 言い忘れたが、先程のチェリー出現などの出来事は、友引高校では、まして2年4組ではまさに日常茶飯事なのである。時にはラムの従弟のテンちゃんが授業中に教室でオモチャの戦争を始めたり。オモチャと言っても、宇宙人のオモチャである。破壊力は凄まじく、教室が破壊された事も有った。またある時は、竜之介君のお父さんが津波と共に教室に流れ込んで来たり、ラムの元婚約者のレイさんが天井を突き破って現れたりと、その度に大爆発が起きて教室は壊されるのだ。その日もチェリーの出現で大爆発が起きて、クラスのみんなは吹き飛ばされた。それは私も例外ではなく、吹き飛ばされて車椅子から投げ出されてしまった。あたる君達はすぐに立ち上がるとチェリーの所へ行き、殴る蹴るの連続でチェリーをボコボコにしていた。すると、近くに居た竜之介君が車椅子から投げ出された私を見て
 「おい!大丈夫か?」と言って、私を車椅子に戻してくれようとした時、突然
 「手伝っちゃダメだっちゃ!」と声がし振り向くと、そこにはラムが立っていた。それを見た竜之介君は
 「あ?おめぇ何言ってんだ?しのぶが倒れてるんだぜ?」と言ったが、ラムは竜之介君の問いには答えず私の方を向くと
 「しのぶ、自分で車椅子に乗るっちゃ」と言った。私は
 「え?そんなの……無理よ……」と言うとラムは強い口調で
 「何言ってるっちゃ!ここは学校だから誰かが助けてくれるけど、もしここが街中だったら?周りに誰も助けてくれる人が居なかったら?しのぶは、そうやって誰かが助けてくれるのをじっと待つっちゃ?しのぶはそれでいいっちゃ?」と言って私を見た。その目は、真剣そのものだった。そんなラムの言葉で私は、復学以来ずっと感じていた不快感の原因に気付いたのだ。それは私に対するみんなの気持ちだった。みんなが私に同情する気持ちを不快に感じていたのだ。今の私は、ハンデを持っているから同情されても仕方ないのだけど、やっぱり今まで通りに接して欲しい。それは私のわがままなのは分かっている、でも同情されると自分が惨めに思えて来てしまうのだ。でも、ラムは私を同情ではなく本当に友達として見てくれていた。そんなラムに私は
 「いいはずないじゃない!」と言って、自力で車椅子の所まで這って行くと、車椅子を起こして手をかけた。足が動かないと、自分の体を起こす事がいかに大変か改めて実感しながら、車椅子に座ろうとしても思う様にいかない。それでも諦めない私に、いつの間にかクラスのみんなの励ます声が聞こえて来た。
 「頑張れー!しのぶー!」

Page 2 Page 4
戻る
Page: 01 02 03 04 05