BD2 夢の未来 (Page 5)
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その老人は白髪だらけで、しわがたくさんあるが、どう見てもあたるである。
「やはり・・・。夢邪鬼の仕業か・・・」
老人あたるはぼろぼろの上着のポケットから、小さな紫色に光るビー玉のようなものを取り出した。
「ここはな、夢の世界なんかじゃない。お前たちがいままで見てきたことも夢ではない・・・。正真正銘の未来だ・・・。
お前たちは夢邪鬼に夢なんか見せられていないんだよ。すべてこのビー玉が未来につれてきたのだ・・・」
老人あたるは、先ほどのビー玉をラムに手渡した。ラムはそのビー玉を眺めるの中に何か恐ろしいものが写った。
ラムはそれを見ると思わず、ビー玉を放り投げた。あたるの目の前に転がってきたビー玉はあたるの顔の正面で止まった。
あたるもそれを眺めていると、やはり恐ろしいものが写った。決してはっきりと見えるものではない。たが、心底恐怖感を
感じさせられる不思議なビー玉なのだ。
「おい、じいさん、これは・・・」
「それはわしが、まだ若かったときのことだ。ラムと宇宙を旅していた時のことだ。わし達の船は途中で燃料が切れ、とある未開拓の星に不時着した。
そこでは人はおろか、生き物は草木に至るまで存在しなかった。絶望にくれていたわしらに夢邪鬼が現れた。いや、夢邪鬼に化けた悪魔だった。
その悪魔はわしらに命を助けてやる代わりに、このビー玉を手放さないよういわれたのじゃ。わしらは何も疑わず、そのビー玉を受け取ってしまった。
そしてビー玉がある日、わしらの心に話しかけてきた。これは未来を絶望にする玉だと・・・、絶望の未来にしたくなかったら自ら自害しろと・・・。
わしらは正直言って死ぬのが怖かった。その恐怖心に負け、その一ヶ月後、同盟と帝国の戦争は始まってしまった。そのあと、わしらは罪の意識から
逃れようとして、宇宙に旅立ったが、途中で帝国の追跡に遭い、ラムはそこで死亡。わしは何とか逃げ切ったが、ラムを失った悲しみから、息子の
こけるを育てる気力をなくし、いとこに預け、戦争が終わるまで旅に出た。そして三年前この待ちに戻ってきたとき、戦争は終わっていて、
面堂やメガネは戦死、ほかは行方不明・・・。そして今に至るまで、ここで暮らしてきた。決して楽ではなかったがな・・・」
そして老人あたるはふっと息をつくとうつむいて、黙り込んだ。ラムは黙り込んだ老人あたるに近寄り、肩を揺らしたが、あたるがそれをやめさせた。
「これ以上、生きるのに疲れたんだろ・・・、眠らせてやれ・・・。なにしろ悲劇の連続だったからな・・・」
ラムは老人あたるから貰ったビー玉を右手で握りしめ、老人あたるを見つめていた。横ではあたるが老人あたるを横にすると、手を胸の前で組ませて、手を合わせた。
「なあ、ラム。これからどうする?」
「とにかく、現実に戻らないと・・・」
「そうか・・・」

「おきろ、おきろあたる!朝だ!起床時間だ!おい!」
あたるが目を覚ますと目の前にはメガネの姿が見えた。どうやら修学旅行のバスの中のようだ。あたるは現実に戻ったことを悟った。
まだメガネが自分の肩を強く揺らしている。あたるは目が覚めていることをメガネに言うと、隣に座っているラムを見た。
肘をついて外を眺めていて、ぼーっとしたまなざしだ。
「ラム・・・」
「ん?」
「おまえ、何が起きても生きるのと、命を捨てて絶望な未来を救うのとどっちがましだ?」
「さあ、そのときにならないとわからんっちゃ・・・」
今は高校生という時の流れを歩んでいる。さきの事はそのとき決めればいい。あたるはそう思った。そしてあの夢邪鬼は何だったのかそれも解らない。
バスは九州自動車道に入ったようだ。
〜完〜




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