時は夢のように・・・。 (Page 2)
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 どうやら、父さん達の知り合いらしいって事は分かった。
唯「おはようございます。おじ様! 父がいつもお世話になってます!」
 彼女は俺の父さんに向かってペコリと頭を下げた。
父「いやいや、こちらこそお世話になりっぱなしで・・・。」
 父さんがぽりぽりと頭をかいて頭を下げた。
母「さぁさぁ、こんな所でお辞儀のしあいしてないで、おあがんなさい。」
父「訳は中で話すから、あたる、お前も来なさい。」
 訳も分からずだったが、とりあえず、俺は彼女の足もとのバックを持ち上げようとした。その時初めて気づいた。
あたる「な・・なんじゃこれは!!」
 玄関の外には『黒犬宅急便』と、でかでかと犬の親子のロゴマークの入った、大きなダンボールがいくつも積んであるじゃないか。
唯「あ、これは私の荷物です。運送会社の人が、この後予定が詰まっているとかで困っていたようなんで・・・、そこに置いていってもら  ったの。」
あたる「なんて無責任な!」
 確かに俺がなかなか玄関に出て来なかったって言ったって、ちょっとくらい待ってくれよなぁ。ほんの2・3分じゃないか。
あたる「まぁ、荷物は後にして、中入りましょ。」
唯「はい。お邪魔します。」
 彼女は玄関に入り、靴を脱いだ。
 玄関を入るとすぐ右手が二階への階段になっていて、一階の一番奥は台所、その手前の左手が茶の間になっている。とりあえず彼女を茶の間に招き入れた。

                           *
茶の間。
父「まぁ、適当に座りなさい。」
唯「あ、はい。」
 彼女はテーブルの前にちょこんと正座した。彼女の行う仕草はどことなく清楚さをも漂わせている。
あたる「んっ?」
 茶の間から外を見ると、バイクが止まっていた。赤と黒のグラデーションで彩られたデザインで、カウルの付いた完璧なまでにスポーティーなやつだ。
あたる「あのバイクは?」
唯「あ、そのバイクは私のです。ここまで乗ってきたんですけど、まさか道路に止める訳にはいかなかったんで、勝手にお庭に止めちゃい  ました。ごめんなさい!」
 バイクのシートには、ヘルメットと皮のつなぎが置かれていた。
あたる「カッコイイのに乗ってんだね。」
唯「バイクに乗るのって高校生の時からの憧れだったんです。バイクに乗ってる女性って、なんかカッコイイじゃないですか。だから学校  卒業したらすぐお父さんを説得して、買っちゃいました。」
 ニコニコして話しをする彼女。可愛くて、清楚さも兼ね揃え、しかもバイクに乗るようなワイルド指向。完璧『パーフェクト』だ。
 母さんがパタパタとスリッパの音を弾ませながら、台所からお茶の準備をして茶の間にやってきた。テーブルの前に座ると、横から彼女にお茶を差し出す。
母「お茶でも、どぉぞ・・。」
唯「あ、ありがとうございます。」
 軽く会釈する彼女。
 彼女が行う仕草一つ一つが、なんとも愛くるしく見えてしまう。
あたる「くぅーーっ! たまらんっっ!!」
 彼女の可愛らしさにまじまじと見入ってしまうあたる。
 一瞬、彼女と目が会ってしまった。
 しかし彼女は、そんなあたるの血走った視線にも動じず、ニコッと微笑んで答えてくれる。もしかして、彼女は俺に気があるのでは?
 ちょっとの間、静かな時間が過ぎた。しかし、父さんが何か察したのか、突然静寂を破った。
父「おほんっ! あー、あたる。ラムちゃん達はどうした?(あたるのあの血走った目き・・、きっととんでもない事考えてるに違いない、  ここらで止めにゃ・・。)」
あたる「まだ寝てるんだろ。昨日寝るの遅かったからな。」
父「そうか、まぁ、ラムちゃんには後で説明すればいいか。母さん、お茶。」
 母さんは父さんから湯飲みを受け取ると、こぽこぽと湯飲みにお茶を注ぎ、お茶を父さんに差し出し、定位置に座る。
 父さんは一口お茶をすすると口を開いた。
父「うぉっほん! あたる、あらためてこの方を紹介する。この方は、私の会社の同僚で友人の祈瀬クンの娘さんで、祈瀬唯さんだ。お父さ  んの祈瀬クンは海外に転勤になられてな、家族で海外に引っ越すことになられた。しかし、唯さんは日本に残る事を決意されたのだ。  そこで、一人暮らしを始める事にしたんだが、転勤の話しが出たのが急すぎたせいもあって、なかなか部屋が見つからないもんで、ま  ぁ、日ごろからお父さんにはお世話になっているということもあるし、恩返しという意味合いからも、一時的に唯さんを我が家でお預  かりすることになった。」
あたる「・・・・・・。」
 あたるは何も言わず、下をうつむいたままだった。
母「聞いてるの? あたる!」
 あたるの母が問いかけても微動だにしなかった。
 父の説明を聞いて、あたるの頭の中では、既に欲望の構想を組み立てていたのだ。

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