時は夢のように・・・。 (Page 3)
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あたる「(くくくく・・。こんなおいしいシチュエーションが許されていいのか? 理性が保たれるのか? 諸星あたる十七歳! いや・・、    我慢なんぞ出来るわけなかろうが!こんな美女と一つ屋根の下で暮らせるとは、何と言う幸運だ・・。うふふふふ・・・。)」
 あたるは、うつむいたまま、わなわなと肩を震わせはじめた。そんなあたるを見た父と母は、ビクッと驚いた表情を見せ、額から妙な汗を流していた。
父「あ・・あたる?」
あたる「くくくく・・。一つ屋根の下・・。こんな美女と・・。にひひひひ・・。」
母「あ・・あなた・・。また、あたるの悪い発作が始まったんじゃ・・?」
 ひそひそと父に耳打ちする母。
 と、突然あたるが立ち上がったのだ。
あたる「うおぉーーーっっ!!」
 ずざざっと、両親が後ずさりした。拍子に父さんの眼鏡がズルッとズレる。
 あたるは立ち上がったまま、右腕にこぶしを作りガッツポーズし、天井を見つめている。
唯「あのぉ、どうかなさったんですか?」
 目を真ん丸くさせ、あたるを見上げる唯。
 そしてあたるがマジな顔を作り、唯の顔に近づくと、そっと唯の手を取った。
あたる「祈瀬さん、運命です。あなたに会えたのは、きっと神様がお導きになられたからです。」
唯「はぁ・・?」
 不思議そうな顔をする唯。
 そんなあたるの行動を見て、父があたるに声をかけた。
父「あたる、ちょっと来なさい。」
 しかし、あたるの耳には父の声は届いてないらしく、
あたる「僕は・・・ずっとあなたを愛してました!」
父「あたる。ちょっと、聞いてるんですか?」
唯「あ・・あのぉ・・・。初対面・・ですってば・・・。」
父「こら! あたるってば!」
あたる「愛は時間をも越えるんです! そう、僕の愛は全てあなたに注がれて・・。」
父「あたるーーーっっ!!」
 あたるの耳元で父が絶叫した。 
あたる「な、なんだよ? そんなに大声出さなくても聞こえてるよ!」
父「まったく! ホントに聞こえてんの? ちょっと来なさいと言ってるんです!」
あたる「わーったよ。」
 名残惜しそうに唯から手を離すと、ぶつぶつ言いながら、腰重そうに立ち上がった。
あたる「父さん、眼鏡ズレてるよ。」
父「分かってます!」
 父があたるを連れて茶の間を出ていく。
 その後ろで母が呟いた。
母「はぁ〜・・、産むんじゃなかった・・。」

                           *
台所。
 父はズレていた眼鏡を人差し指でクイッと上げて、珍しく真剣な眼差しで俺の目を見据えた。そして、小さな子供を言い聞かせてなだめる様に語りかけてきた。
父「お前に一つ言っておきたい事があるんだよ。」
あたる「なんだよ? 急にあらたまっちゃって。」
父「あたる、父さんはお前を心から信用している。もちろん母さんだってそうだろう。信用してはいるんだが、友人から預かった大切な娘  さんだ。決して、欲望に任せて軽はずみな真似はしないようにな。」
 そりゃどーゆー意味だよ。信用してるなら、そんな言葉が出てくるはずがないじゃないか。しかも、茶の間に戻る時に一言、決定的な事を言いやがった。
父「いいかいあたる、『鬼畜厳禁』だよ。」
あたる「あのな父さん! たった今、心から信用していると言ったではないか!」
 ちっ、気にくわんっ。自分の息子を何だと思っているのだ。
 そんなこんなで、再び茶の間に戻ると、母さんと唯とで話しに花が咲いていた。
唯「あたるさんが高校生だなんて、年下なんですね、びっくりしました。」
母「出来の悪い息子で困ってますの〜。お恥ずかしいですわ〜。おほほほほ・・。唯さんが勉強教えてくれたらホント助かりますわ〜。」
唯「ええ、任せてください! バッチリ教え込みますから!」
 何の話しかと思えば、俺の事ではないか。いくら会話のネタが無いからって、俺を持ち出してほしくないもんだ。それも、出来の悪い息子ってどういうことだ?! 俺は、あんたらの息子だぞ! 大声で言いたかったが、お客さんの手前、やめた。
 父さんと俺は、定位置に座ると茶をすすって一息ついた。
母「あ、そうだ。唯さんの部屋なんだけど、二階の奥の部屋を使ってね。物置だったんだけど、昨日のうちに荷物は移動させたし、綺麗に  掃除しといたから、清潔よ。自分の家だと思って好きに使ってもらっていいから。」
唯「あ! ありがとうございます!」
 満面の笑みを浮かべてお辞儀する唯。その笑みはいつまでも見ていたくなるような、気持ちのいい笑顔だ。
 会話がちょっと切れ、静かになったせいで、二階がちょっと騒がしい事に気づいた。

                           *
あたるの部屋。
ラム「あーーっいっけなーーい! 寝坊したっちゃ!」
 ラムはいつも押し入れで寝ている。
 飛び起きたラムは、勢いよく押し入れの戸を開ける。
ラム「ダーリン起きるっちゃ! 寝坊だっちゃよ!」
 しかし、あたるは部屋に居なかった。

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