それでもペアルックしたいあなたのために (Page 2)
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男はそう言うと、テーブルの下のほうからそのはんてんを取り出し、カメラの前で大げさに広げた。
「うわァーッ!」
「きゃあーっ!」
「ギョエーッ!」
男が広げたはんてんを見た後の、女、ラム、ランの第一声である。
「・・・素敵なはんてんですねー。一目見ただけで、まさにその名に恥じない商品という感じがします」
女は臆面もなくそう言い切った。しかし、このはんてんを始めて見た者の率直な感想は、むしろこれだろう。
「・・・あ・・・悪趣味な柄だっちゃー!!」
「さ・・・最低を通り越して、最悪やな」
ラムとランはカップを手にしたまま口を揃えてこう言った。一富士二鷹三なすびとは言うものの、これはひどすぎる。
しかしテレビショッピングの2人はそんなことを微塵も感じさせないような口ぶりで紹介を続けた。
「・・・でも私、花より団子なんですよねー。このはんてん、本当に効果はあるんですか?」
「そんな疑り深いあなたを安心させるため、今回は愛用者の一人の体験談をご紹介します。ご覧ください」
男がそう言うと、突然画面が切り替わった。
「あっ、ここ、惑星アルデバランじゃない?」
「そうみたいだっちゃね」
2人は見覚えのある風景を目の当たりにして、思わず口を開いた。画面の真ん中には、鈴木ぺら子という人が映っていた。
「・・・彼はなかなか結婚の話を切り出してくれなかったんです。そのときもう5年も付き合っていたのにですよ?
そんな時、このテレビショッピングでこの商品をたまたま見つけて、ワラにもすがる思いで電話をかけたんです。
商品が届いた後、私は一目散に彼にこのはんてんをプレゼントしたんです。そしたら彼が突然・・・」
ぺら子がこれだけ言うと、また画面が切り替わった。
「ぺら子さん、結婚しよう」
はんてんを着た男がぺら子に抱きつきそう言うシーンが映った。画面はまたアルデバランに戻った。
「私は今、大変に幸せです!ペアはんてん様様です」
ぺら子がそう言うと、再びスタジオに戻った。スタジオにいたサクラのおばさんたちも大歓声を上げた。
「・・・いかがですか?これでこの商品の威力はお分かりいただけたでしょう。このはんてんには縁結び機能があるんです」
男は誇らしげにそう言った。
「本当、すごいですねー。これなら私もぜひ欲しいですう。でもこの商品、お値段も相当、高いんでしょうねー」
女はまたしても、お決まりのセリフを述べた。
「いえいえ、今回はうきうきテレホンショッピング30周年記念の特別価格で、大変お安くなっております。
本来なら3万クレジットのところを、なんと1万5千クレジット、1万5千クレジットでご奉仕させていただきます!」
男がこう言うと、「安い」コールがスタジオ中にこだました。
「うわーっ!これだけの効果があって、たった1万5千クレジット!お買い得ですねー・・・」
女がこう言ったところで、ラムはテレビのスイッチを切った。
「そ・・・それにしても悪趣味な柄だったっちゃねー、ランちゃん」
ラムはランを牽制するように言った。
「え、ええ!どーせこんなのインチキよ。縁結び機能だなんて・・・」
ランも平静を装って答えた。
「あはは・・・」
「うふふ・・・」
2人は作り笑いをしながら、頭の中では別のことを考えていた。
(このはんてん買おうかな、なんて言ったら、きっとランちゃんウチのことバカにするっちゃ・・・)
(これでレイさんのハートをゲット、なんてゆーたら、ラムの奴、きっとワシのこと軽蔑するやろな・・・)
しかし「縁結び」という言葉の誘惑に、ラムは勝てなかった。3日後、ラムは届けられたはんてんを着て、
UFOから学校に向かった。その手にはあたるに着せたいもう一着のはんてんがあった。
ラムは空からあたるの姿を探した。約2分後、あたるを発見した。珍しく時間にゆとりのある登校だった。
(ダーリン・・・見つけたっちゃ!)
ラムはあたるの姿を見るや否や猛然とあたるに迫った。そして後ろに回りこみ、はんてんを着せようとしたが、かわされた。
「どうしたっちゃ?ダーリン。よけちゃダメだっちゃ!」
はんてんを両手で広げたまま、ラムは言った。
「何のつもりだ、お前は」
戸惑いながら、あたるは尋ねた。
「これはウチからのささやかなプレゼントだっちゃ!ウチとペアで着るっちゃ」
そう言うと、ラムはあたるにしつこくはんてんを着るように求めた。
「何い?ペアだと!?バカモノ!男がペアルックなんか着れるか!!」
あたるは怒った。
「だって・・・男が着なくちゃペアルックにならないっちゃよ」
ラムは穏やかに抗議した。その後は着る着ないで堂々巡りになった。そこにランが現れた。
「あーら、ラムちゃん。結局買っちゃったわけェ!?縁結びはんてん・・・」
そう言うランの目は、まさに軽蔑の眼差しだった。しかしラムは、ランの眼差しよりも言ったことが気になった。
「しーっ、しーっ!縁結びのことは言っちゃだめだっちゃ!」
ラムは小声でランに訴えた。しかし、手遅れだった。あたるはその場から脱兎の如く逃げ出した。

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