それでもペアルックしたいあなたのために (Page 4)
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もっとも、あたるの近くにいる連中もとばっちりを受けていたが。
「ほ〜ら。あったか〜いはんてんだっちゃよ〜」
体の右半身が凍結しているあたるに対し、ラムは目の前ではんてんをちらつかせ誘惑した。
「フンッ」
しかしあたるはやせ我慢を続けた。目もそらし続けた。
「も〜う、意地っ張りなんだからぁー!!こうなったら・・・最大風速だっちゃ!!」
ラムは風速調整ボタンを目いっぱい回した。
「ド・・・ドワーーーッ!!!」
あたるはガラスを突き破り、空に向かって飛んでいってしまった。
「あっ、ダーリン!もう、どうしてそんなに逃げるっちゃっ!!」
あわててラムも後を追いかけた。
「おい、メガネ・・・あれって逃げたんじゃ・・・」
「・・・ないよなあ。パーマ」
メガネとパーマの2人はお互い顔を突きつけながら呟いた。
「ぜ・・・全員注目!授業を続ける!」
そこに、しばらくの間ラムの行動にただ呆然としていた温泉マークが、授業再開を促す声を上げた。
「先生!お言葉ですが、今すぐ再開というわけにはいかないと思います」
すると面堂が立ち上がり、こう発言した。
「ど、どういうことだ?」
「室内をよくご覧になってください」
面堂にこう言われると、温泉は教室内を見回した。すると、半分以上の生徒が氷付けになっているのに気づいた。
「な・・・なるほどな。で、この氷はいつ融けると思う?」
「さあ?ボクにはなんとも・・・」
「あ、そう・・・ハハハ・・・もう・・・やだ・・・」
温泉はこう言い残すと、教室内に倒れこんだ。
その頃あたるは、ラムの巨大扇風機の風によって空を飛ばされていた。そんな彼の目の前に大きな木が見えてきた。
(よしっ、あの枝につかまって着地じゃ!)
あたるが枝をつかもうとしたその時だった。
「危ない、ダーリン!」
ラムはあたるの学ランをつかんだ。そのため急速に勢いを失ったあたるは枝に思い切り顔をぶつけてしまった。
「お・・・おのれはっ!!」
あたるは赤くなった顔でラムのほうを向いて怒鳴った。
「そこでおとなしく待ってるっちゃ。ウチははんてんを回収してくるから」
ラムは木の枝につかまっているあたるにそう言い残し、風下のほうに向かった。
はんてんが向かっている方角の先であった。そこで時代錯誤なファッションをしている男が女をナンパしていた。
「ヨーヨー、ねーちゃん、オレとちょっと付き合えよー。この街を一緒に歩こうぜぇー」
声のかけ方も古臭く感じた。
「な・・・何よあんた・・・いまどきベルボトムなんてはいて・・・それにそのベルトのバックル・・・シャツの柄・・・」
女が言うとおり、男はベルボトムをはき、蝶の形のバックルに星の形のプリントTシャツを着ていた。
「どうせ1人で暇してんだろー?ちょっとぐらいいいじゃんよー」
男はグラサンをかけた顔で女にさらに詰め寄った。
「ち・・・近づかないで!あたしを誰だと思ってんの!?あたしはファッションデザイナーの尾上千鶴よ!
あんたが着てるようなセンスのない、いいえ、悪趣味な服を見ると悲鳴を上げたくなるのよ!」
そんな2人の眼前に、あのはんてんが降ってきた。
「キャアーーーッ!!」
そのはんてんの柄は、彼女に悲鳴を上げさせるには十分すぎた。彼女は一目散にその場から逃げた。
「あっ!」
ラムとあたるは、ほぼ同時に反応した。
「はんてんはあそこだっちゃね!」
ラムは空から男のいるところに向かった。
「これは女性の悲鳴!お嬢さーん!今ボクが助けに行きますよー!!」
あたるも木を猛スピードで降り、悲鳴のほうに向かってダッシュした。
「何でえ、あのアマ・・・でもこのはんてん、イケてんじゃん!」
男は手にしたはんてんを広げると、思わずそうこぼした。そこにラムが現れた。
「これはウチのものだっちゃ。返してもらうっちゃ!」
「おおっ!最高じゃーん、彼女オー!オレとペアルックしよーぜー!」
はんてんをつかんでそう言うラムに対し、男は懲りずにアプローチした。しかしラムは相手にしなかった。
「冗談は服だけにするっちゃ。離すっちゃっ!」
「オレとデートしてくれたら、返してやってもいいぜぇー」
2人はこんな調子ではんてんの取り合いをし続けた。そこに今度はあたるが現れた。
(な・・・なにやっとんじゃあのアホ。電撃かませ、電撃!)
塀の向こうに身を隠して、あたるは頭の中で言った。
「もう!しつこいっちゃねー!!」
ついに堪忍袋の緒が切れたラムは電撃を男に食らわせた。はんてんが気絶した男の手から離れようとしたその時だった。
ドドドドド・・・
道路工事だろうか。けたたましいドリルの音がラムの耳に響いた。その音に驚いたラムははんてんから思わず手を離してしまった。
しかし、これがいけなかった。はんてんは強風にあおられ、またどこかに飛んで行ってしまった。
「あっ!待つっちゃー!!」
ラムはまたはんてんを追って風下に向かった。あたるもその後を追った。
「よーし。そろそろいいだろ」
けたたましい音の正体は、電柱の取替え作業の音だった。

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