Once again 第一章 (Page 2)
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 いくつかの受講を終えて、しのぶが友人たちと肩を並べ談笑しながら歩いていくと、二人組みの女子生徒に追いすがるように話しかける あたると出くわした。
  
  「え〜っ、でも諸星くんって結婚してるんでしょ?浮気しちゃだめだよ」
  「いったい、どこからそのようなデマが……?」
  「デマなの?ラムさんと一緒に暮らしてるって聞いたけど」
 擦れ違うしのぶに気付きもせずに、あたるは熱心に口説き続ける。
  
  「しのぶ、あれ、なんとかした方がいいんじゃないの?」
  あたるが離れるのを待って、しのぶと歩いていた友人たちが足を止め、顔を顰めながら言った。
  「なんであたしがっ?」
  「幼馴染みなんでしょ?あなたの言う事なら聞くんじゃない?」
  「ほっとけばいいわよ、どうせ誰も相手にしないんだから」
  そう言って、またしのぶが歩き出す。
  そのまま、しばらく歩いていくと校舎の角から、さっきとは別の女子学生にモーションをかけている あたるが現れた。
  「ん、もうっ、しつこいなぁ、他を当たってよ!」
  あたるを邪険に振り払い、その学生は足早に去っていった。
  「そんなこと言わないでさぁ、十分だけでもいいから!」
  それでもあたるは諦めずに、彼女の後を追いかけていく。
 彼女は追いすがる彼の腹に肘打ちを見舞い、腹を抱えて呻くあたるを置いて立ち去っていった。
  
  「しのぶ……」
  その様子を見ていた友人が、しのぶに訴える。
  「もうっ、分かったわよ!あたしが行けばいいんでしょ?」
  苛立たしげな様子で言うと、しのぶはあたるの方に歩み寄っていく。
  
  「あたるくんっ、ラムがいないからって見境なく ちょっかい出すのやめなさいよ、
 もぉっ!
  みんな迷惑するでしょ!」
  しのぶの声に振り向き、あたるも何食わぬ顔で近づいてきた。
  「よぅっ、講義はもう終わったのか?この後時間ある?」
  「ないわよ、帰ってレポート書かなきゃ」
  「あ、そう」
  しのぶの返事に素っ気無く答え、彼女の背後で様子を見てた友人たちに目を向けた。
  「諸星くん、もう高校生じゃないんだから少しは落ち着いたら?」
  あたるの視線を受けて、友人が呆れた様子で言った。
  「俺、落ち着いてないかな?まぁ、そう変わらないかもね。
 それにしても、可愛い服だね……よく似合ってる。そのイヤリングもお洒落だね」
  「あ、ありがと……でも、あたし誘っても無駄だからね……彼氏いるから」
  「えっ、いるのっ?」
  あたるではなく、しのぶが驚いて尋ねた。
  友人は咳払い一つして、目でしのぶを牽制する。
  「あ、ごめん!
  分かった、あたるくん……一時間くらいなら時間あるから」
  だが、あたるの表情は冴えない。
  「そっちの子の方がいい」
 あたるは後ろの彼女を指差して、物をねだる子どものような口調で言った。
  「あんたねぇ、このあたしが付き合うって言ってんのに、その態度はないでしょっ?」  しのぶが あたるの襟首を高く掴み上げた。
  あたるの足が大地を離れ、中空を蹴っている。
  「じゃ、じゃあ、しのぶ……あと任せるから!」
  友人二人は、その様子をみて表情を強張らせると逃げるように去っていった。
  
  「今度、カラオケでも行こうよ!」
  しのぶに持ち上げられたまま、あたるが彼女たちに声をかける。
  「考えとく!」
  二人とも振り返り、微笑みながら軽く手を振った。
  
  「まったく、懲りない男ね……」
  あたるを降ろし、しのぶが呆れて溜め息をついた。
  「あの子、スタイルいいなぁ……彼氏いるってホントかな」
  しのぶの肩越しに、もう見えなくなった友人の姿を見送りながら、あたるが呟く。
  「いたって不思議じゃないでしょ?ほら、どこに行くの?」
  あたるの耳を思い切り引っ張って自分に向かせると、しのぶが言った。
  「……適当に歩くか」
  耳をさすりながら呟き、あたるはキャンパスを校門に向って歩き出す。
  「あたしだと適当なのね」
  「お互い様だろ」
  「……まぁね」
  二人は肩を並べて歩きながら、吹き抜ける風に目を細めた。
  南風、もう夏の入り口に差し掛かる季節になっていた。
  
  
  駅前の本屋を覗き、参考書を見て回ったあと二人はアミューズメントスポット、いわゆるゲーセンを訪れた。
  体感ゲーム機やカラオケ、ボーリング場などもあり、とりあえずここに来れば遊びに困らないという便利な施設である。
 今も、多くの若者が店内で楽しげな声をあげていた。
  
  あたるとしのぶは、大きな画面のパズルゲームに興じていた。
  上から落ちてくるブロックの色を合わせて消していくゲームだ。
  「あっ、あっ、ズルいぞ、しのぶ!」
  「なにがズルいのよ、こういうゲームなの!」
  序盤こそ互角だったものの、連鎖消しを多用するしのぶの前に、あたるはたちまち窮地においやられていた。
  連鎖消しをすると、その数に応じて相手に障害ブロックが送り込まれる仕組みになっており、終盤にこれを大量にやられるとお手上げなのだ。
  

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