Once again 第一章 (Page 4)
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「とりあえず、一年だけ店を手伝えば大学行かせてくれるって言うから、浪人したつもりで手伝おうかと思って。
どうせ、今んとこ何やっていいか自分でも分からないしな……」
今度はあたるの質問に竜之介が真顔で答える。
「体育関係とか向いてるんじゃない?学校の先生とか」
「俺が先生か?体育の?人にモノ教えるってガラじゃないんだよなぁ」
しのぶに言われて、竜之介が照れくさそうに頭を掻いた。
死別なのか逃げられたのか真相は謎に包まれているが、男よりも男らしい彼女は子どもの頃からの父子家庭であった。
父の商売下手もあって、藤波家の家計は常に危機的状況に置かれているのだ。
その父が大学の学費を出してくれるというなら、たしかにアルバイトする意義はあるだろう。
その約束を、父がちゃんと履行してくれればの話ではあるが。
「竜之介!」
彼女の父親、この店のマスターが竜之介を手招きする。
カウンターに行き、一言二言交わすと竜之介が戻ってきた。
「サービスだってよ、いつも世話んなってるから」
そう言ってタコヤキを一皿テーブルに置くと、竜之介は早速一つをつまんで口に放り込んだ。
「すみません、いただきます!」
「気が利くな、オヤジ!」
しのぶとあたるが礼を言い、マスターも笑顔で頷いてみせる。
「今日は、ラムどうしたんだ?一緒じゃねぇのか?」
竜之介は、あたるを見て言った。
あたるは、竜之介に視線を返しながらも答えず、まだ熱いタコヤキを頬張っている。
「実家に用事があるとかで出かけてるんだって。
朝からずっと同じこと聞かれてたから、ヘソ曲げちゃってるの」
あたるに代わって しのぶが答え、彼女も二つ目のタコヤキに手をつけた。
「あははっ、そりゃしょうがねぇよ……タコヤキにソースが掛かってなかったら誰だって探すだろ?」
豪快に笑いながら、竜之介はついに三つ目に手をだした。
皿に盛られていたタコヤキは八つ、三人で食べると誰かが二個しか食べられない事になる。
あたるとしのぶは二個づつ食べたので、今、皿に残っているのは一つだけだ。
二人の視線が、最後の一個に注がれていく。
ふと、しのぶはにこりと微笑み、あたるを見つめた。
「ん?」
あたるはその意味を考え込み、首を傾げた。
次の瞬間、しのぶが手にしていた爪楊枝が、最後のタコヤキを素早く貫き通した。
「あっ、俺のっ!」
あたるが慌てるが、すでに時遅く、タコヤキはしのぶの口の中に納まっていた。
「この間、面堂のヤツが来てたぜ」
二人の様子を見ていた竜之介が、微笑みながら言った。
「へぇ、そう言えば、卒業以来ずっと見かけてなかったな」
「彼、どこ行ったんだっけ?」
あたるとしのぶが、顔を見合わせる。
面堂終太郎は高校時代のクラスメートであり、あたるの好敵手でもあった。
面堂財閥の一人息子であり、容姿端麗にして成績優秀、運動能力も良好という逸材でありながら、要所で諸星あたるに出し抜かれ続けてきた不遇の少年である。
「なんか難しい言葉が多くて、何の話してんだかよく分からなかったよ。
とにかく、なんか日本で一番の大学に入って、もう卒業したあとに就職する会社も決まってるんだと……地元のエライさんとか役人とかにも挨拶して回ってるとか、すげぇ忙しそうだった。
うちの店にも五分くらいしかいなかったし……」
その時の様子を思い出しながら、竜之介が話した。
「まぁ、面堂財閥の跡取りだし……忙しくなるのはしょうがないわよね」
同じクラスで勉強し、何度か一緒に遊んだりもした仲間であった。
生き方は人それぞれとは言えど、かつての友人たちが散り散りになっていくのは寂しさを感じる。
物思いに耽るしのぶを見て、あたるがソースのついた爪楊枝を銜えながら意地の悪い笑みを浮かべた。
「何よ」
「惜しかったな、玉の輿狙ってたんだろ?
こうなったらもう、ただ会うだけでも簡単じゃないぜ」
「いったい、いつの話をしてんのよ……そんなの、とっくに諦めてるわ。
女の子はね、気持ちの切り替えが早いの!
いつまでも一人の男の事なんか構ってられないわよ」
呆れた様子でそう言い、冷めかけた紅茶を飲んだ。
「なるほど、そういうもんなのか……」
感心して頷いてるのは竜之介である。
「あんたも女でしょうに……」
しのぶが苦笑し、呟いた。
「まぁ、中にはラムみたいに一途な子もいるから一概には言えないけどね」
純朴な竜之介に対する影響を考慮し、発言を修正しながら あたるに貰ったぬいぐるみを膝に乗せた。
「あ、それ……」
しのぶの仕草を見ていた竜之介が、ぬいぐるみに興味を示した。
「これ?可愛いでしょ?」
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