時は夢のように・・・。「第八話」 (Page 1)
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 時は夢のように・・・。
 第八話『落とした物はどこへ行った?』

 久しぶりの教室は、3年4組だ。相変わらず、うるさいくらい盛り上がっていた。
 6月も残り数日で終わってしまう。
 ちゃんと席に座って話してる奴もいれば、机の上で騒いでる奴や、戸口や教室の後ろで奇声を上げる奴もいる。話のテーマはただ一つ、
男女の問題だ。男子と女子の差はあっても、興味の対象は同じらしい。人目をはばからず、ワイワイやってた。
 ・・・俺を除いての話だけど。
 この前の席替えで窓際になっていた俺は、やむ気配のないざわめきをよそに、窓から曇り空を見上げ、今日何度目かの大きなタメ息をつ
いた。
 ああ、雲よ、お前はどこへ行くんだ? 俺も連れてってくれ・・・。ふ〜・・。タメ息も止まらない。
 右肩をポンと叩かれたのは、もう一度大きくタメ息を吐いたときだった。
「その様子だと、ラムさんとは切れたみたいだな。」
 こんにゃろ・・・開口一番、これだ。
 不機嫌をそのままに振り返ると、オールバックのひねた面と目があった。
 ヤツの目尻は、しっかり笑みで歪んでる。
「反論しないところを見ると・・・図星だな? ご愁傷さま。」
あたる「面堂、おまぁな〜! 人を勝手に・・っ!」
 すると、そいつは二重のまぶたで瞬きし、
面堂「なんだ、違うのか? そいつはガッカリだな。」
 フッ、と肩をすくめてみせたので、俺は呆れた。
 面堂は空いてた前の席に座ると、今度は真剣な顔で、
面堂「冗談はともかく・・・、貴様とラムさんの、この微妙な距離はなんだ? それに貴様のタメ息は尋常じゃない。どうせ大したことじゃ
   ないと思うが・・・何があったか話せ。」
 俺は頷くと、
あたる「台風で家が潰れてなぁ。」
面堂「・・・なに?」
 きりりっとした眉の間に、いきなり縦皺が入った。
あたる「商店街のクレープ屋あんだろ。」
面堂「あっ、ああ。」
あたる「台風でなぁ。」
面堂「4日前だな。」
あたる「看板が俺の部屋に突っ込んでさ。」
面堂「ほ、ほぅ?」
あたる「一階は床上浸水だ。」
面堂「・・・ちょっと?」
あたる「住むトコなくなりそうでな。」
面堂「・・・。」
 目を閉じると、無言で面堂は立ち上がった。やけにやんわりと俺の肩を叩き、
面堂「諸星、きみは、もはや僕を超えた。後は己の力で道を切り開け。」
 ・・・すごいこと言うなぁ。
あたる「ハイブリッドなギャグか?」
 感心して見上げると、面堂はなぜか青筋を立てて俺を見下ろし、
面堂「ギャグをかましてるのはどっちだ? 真剣に話しかけた僕が馬鹿だった!」
あたる「ああ? なにを怒ってるのだ?」
面堂「うるさいっ! 貴様との仲もこれまでだ!」
 と、きびすを返そうとする面堂。
 俺は面堂の手を掴み、
あたる「待て、話を聞け!」
面堂「女々しいぞ、諸星! その手を離せ!」
あたる「こら、ちょっと待てったら! おまえ、なんか誤解してるぞ?!」
 パッと見こそ細身だが、釣鐘を割るだけあって、面堂は馬鹿力が凄い。だけど、俺も必死だった。
 ドタドタって足音が聞こえたのは、そんな時だ。
 細身で長身の人影が教室に飛び込んできたかと思うと、そのまま教卓を通り越して、俺たちの前で急停止した。突然のことだったので、
俺も面堂も動きを止めた。
 そいつは、しばらく肩で息をしていたが、急にガバッと顔を上げ、
「見たぞ、あたる! おまえんち、すごいことになってたなぁ!」
 面長の顔が額から汗を滴らせ、嬉しそうに言った。
あたる・面堂「パーマ!」
 俺と面堂は、同時に叫んだ。
 パーマは、ニヤッと笑って片手を上げ、
パーマ「よぉ、面堂。あたると手なんかつないじゃって、お前ら・・・ソッチか?」
面堂「たわけっ、たたっ切られたいか?! だがそんなことはいい。諸星のウチがすごいって、どういうことだ?」
パーマ「なんだぁ、知らないのかよぉ? 壮観だぞぉ、ポップアートみたいになってんだ。」
面堂「・・・ポップアート?」
パーマ「商店街のクレープ屋あるだろ? あそこの看板が、あたるんちの屋根に、逆さまに突っ込んでんだよ。そりゃもう、すごい眺めだぞ
    。前通るやつは、みんな立ち止っててよぉ。」
 そらみろ、と俺は面堂に目配せした。
 面堂は、俺とパーマを交互に見比べてたけど、
面堂「ええーい! いい加減、離さんかーっ!」
あたる「コラ、どうしてそうなるんだ?! ホントのことだったろが!」
 再び暴れだした面堂を押さえて、俺は叫んだ。
面堂「よけい悪いわっ! 貴様の潰れた家のことまでどーこー言えるか! 運が悪いと思って諦めるんだな! 僕より損保屋に話すべきだ!」
あたる「バーカ、違う! 家がどうのこうのは前フリだ、前フリ! ホントはさ、もっと大事なことをおまえに聞いてもらおうと・・・。」
 すると面堂は動くのをやめた。大きく見開いた目で、まじまじと俺を見つめると、
面堂「半壊した家が・・・前フリだと?」
あたる「ああ。俺がタメ息ついてた理由ってのは・・・。」

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