共に見る夜空 (Page 3)
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「ラムさんが亡くなられてからもう三週間か・・・」
メガネが机の上に手を組みながらつぶやいた。ラムのいた机に花が花瓶に差し込まれていた、かれることなく・・・。メガネはその花束にラムの姿を重ねた。
隕石の衝突によって友引高校も全壊した。が、壊れるを知っていてもそのままと言う言葉を知らないこの学校はいち早く元通りになった。
外を眺めると救助作業を終え、片付けがおわって後始末が始まっていた。
「俺の青春は・・・、もう戻らないのか・・・」
メガネは上を見上げながら言った。
「なあ、もう元気出せよ、メガネ・・・」
パーマが肩をぽんと叩いた。
ラムが死んで一番騒がしいのはメガネだと思われたが、葬式当日、そしてこれまでメガネはおとなしかった。ある程度クラスの雰囲気も元に戻ったが、
メガネとあたるはまだ元気は出なかった。メガネにはパーマの声が聞こえたのは少し遅れてからだった。
「パーマか・・・」
「おれじゃ悪いかよ」
「いやなに・・・、ラムさんのことを思いだしていたんだ・・・。すまない。それで用事は?」
パーマの元気づける声は聞こえていなかった。それに気付いたパーマは少し何を話すか考えていた。
「いや、何でもない・・・」
身を翻し、自分の席に向かった。メガネはその背中を目で追い、席に座ったところで、また妄想にふけっていた。あたるはあれ以来、授業も良くきき、エスケープもしない。
ましてやガールハントなどできようはずもなかった。あたるは毎日のように休み時間になるとカバンからラムの写真を取り出しては、微動だにせずながめていた。
その写真は最後の鬼ごっこで仲直り宣言を取材グループに発表したとき一人のカメラマンがツーショットを取りたいと願い出て撮ったものである。
珍しくあたるとラムがぼろぼろになりながらも純粋に笑顔を浮かべ、ピースサインをしていた。最初で最後の納得のいくツーショットだ。
あたるはラムが死んだことで自分の存在理由がわからなくなっていた。あたるの行動はラムがいるからこそその理由が最大限に発揮される。
あたるは自分を見直すため旅に出る決意を一週間前に決心していた。もちろん両親や温泉マークには話してある。その温泉マークが朝のホームルームを始めるため
ガラスと木でできたドアを開けて入ってきた。
「静かにしろ・・・」
珍しく生徒達は言うことを聞いた。最初は反抗の意志があった。だが、それをあたるが手を横に出し、無言で待ったをかけたのである。抗議するが、振り返ったあたるの
表情を見て仕方なしと席に座った。
「実はな、今日限りを持って、諸星が学校を止めることになった」
温泉の唐突であり、信じられない言葉が少しのざわめきを完全に無にした。皆、あたるを見ながら隣とひそひそ話をしたり、席を立ち上がるなどそれぞれの
驚きをあらわにした。
「な、何で!?」
この言葉を聞いた温泉はあたるを見た。果たして自分が言って良いものか、それを問うためだった。あたるは温泉の視線に合わせたが、すぐに目を閉じた。
温泉はこれを言っても良いと読みとった。実際そうである。
「諸星は・・・、長い長い旅に出るそうだ・・・。帰ってこれるかどうかわからんし、帰って来ても、もうそれは四年後のことだ」
「どこへ行くつもりだ!?」
それまで口を開かなかった面堂が突如立ち上がり、抗議するかのように言った。あたるは目を開き、前を見たままこう答えた。
「ラムの・・・、所だ・・・」
面堂の眉がみくっと動いた。そこで一同は動くに動けなかった。面堂は座るに座れず、かといって抗議もできずだだ単に立ったままだった。
「そうか・・・」
「ならば俺も!」
今度はメガネが立ち上がった。
「止めろ!」
面堂が割って止めた。メガネをまっすぐ見ている。面堂のその目には武士としてのどこか男らしさが輝いていた。
「だめだ・・・」
メガネは面堂の言葉に勢いを失うと共に、その意味がわかった。メガネは勢いで前に乗り出した体を少し元に戻した。
「で、出発はいつだ?」
面堂は視線を温泉マークに変えた。
「明後日だそうだ。明日は日曜日だから、諸星に未練が残っているものは明日じゅうにな・・・」
翌日
あたるは何か用もあるわけでもなく外を歩いていた。家を出てまず向かった先は表通りである。ここはラムとあたるの最初の決戦が行われた場所である。
その頃の面影は隕石の衝突によって何もなかった。道路は表面がえぐれていて、木がなぎ倒れていた。電線も木に引っかかったのか電信柱ごと地面に落ちていた。
近くではシャベルカーががれきの撤去作業を始めていた。あたるは歩道を歩いてみた。歩道の方も滅茶苦茶になっていたが、歩けないことはなかった。
転ばないように慎重に歩き、我が家を目指した。工事の音が作業員の指示をしにくくなっているのがわかる。口に手を添えて、何か叫んでいる。どうたらその現場の
最高責任者のようだ。サングラスを掛け、怖そうな罵声が四方八方に飛んでいた。

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