共に見る夜空 (Page 4)
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表通りを抜け、ちょっとした住宅地に足を運んだ。しばらく行くと昔しのぶと共に遊んだ公園が見えた。そこは建設物が周りに少ないため子どもが遊ぶには十分な広さが
確保されている。事実、少し凸凹しているが何人かの子どもが鬼ごっこをしているようだ。
その中にあたるにそっくりの髪型の子と、髪が黒だがラムのような髪型をした子もいた。あたるの髪型の子が今は鬼らしい。そしてラムの髪型の子はその子に追いかけられている。
しかしラムの髪型の子は足が速く、また身のこなしが軽かった。そのたびにあたるの髪型の子は顔を電柱にぶつけたり、高いところから落ちたりと危なっかしいことばかりしている。
それでもめげずにラム髪の子ばっかり追いかけている。他の子は逃げる素振りも見せず、ただその二人をじっとながめていた。
あたるはそこに自分たちの鬼ごっこが幻として見えた。現実の二人の子と幻のあたるとラムが同じ行動を取っている。あたるはその幻に、見切りを付けてから
再び歩み出した。
しばらくして全壊している諸星家についた。その玄関前に何人かの人盛りができている。四人組と面堂、しのぶ、竜之介、コースケである。
「諸星・・・」
面堂が最初に気付いた。その声に合わせるように残りの六人があたるの方に体を向けた。あたるは一度驚いたようにその足取りを止め、そしてまた暗い表情で歩み出した。
「どうした?」
やはり元気のない声である。メガネは大きな花束をあたるに差し出した。菊の花である。
「これを・・・、ラムさんに・・・」
あたるはそれを受け取るとしっかりと握った。
「入るか?汚い家だけど・・・」
「ああ、大歓迎だ・・・」
あたるは玄関の鍵を両親に預かってきた。ぼろぼろではあるが、まだ家としての機能は生きている。
諸星一家はラムの葬儀が終わったあと、仮設住宅に住んでいる。数日間家を空けると家の中は汚くなるので時々あたるは整理に来ていた。
九人が家にはいると汚らしいが、がれきの整理や倒れたタンスなどはきちんと片付けられており、掃除さえすれば、すぐさま家として使えるのがわかった。ただし、
電気、水道、ガスは使えない。あたるは居間に入っていった。八人がそれに続くように入っていく。あたるは仏壇の前に正座して座っていた。
その先にラムの写真が笑いながら置いてあった。あたるはそっと手を合わせ、目を閉じた。線香の煙は一直線に上に伸びていた。
するとメガネはあたるの右斜め後ろに座り、同じく目を閉じ、手を合わせた。居間のテレビには多少の埃を被っており、その上には季節はずれの
ミカンが置いてあった。庭はしばらく手入れをしていないため、草が伸びきっていた。その中にバッタが見える。
あたるはそっと目を開けるとメガネもそれに合わせ立ち上がった。
「ラム・・・」
あたるは無意識のうちにラムの名を呼んだ。あたるが口を開いたとき、周りは少し驚いたような顔を見せていた。
「俺はな、旅をしながらラムと新婚旅行に行こうと思う・・・」
あたるは仏壇をながめながら言った。最初は誰もが馬鹿げたことを言っていると、死んでいる人間と新婚旅行が出来るはずがないと思った。
あたるもそのことはわかっている。ラムの死体も墓の中に眠っているし、火葬されもう骨だ。だが、見えなくとも魂だけでも一緒に・・・、それが
あたるの言っている新婚旅行だ。きっと今も近くにいるに違いない、そう信じてあたるは言った。それを悟った一同はラムに呼びかけるかのように天井を見た。

その夜
あたるは旅の準備をすませ、後は出発の明朝を待つだけであった。あたるは一人で屋根の上にいた。そこで荒れ果てた友引町を何の当てもなく見回した。正面には
荒れ果てた町に元に戻った友引高校が目立って見える。あたるは両手を頭の下に敷き、上向けに寝っ転がっていた。周りの光がないせいか、夜空がいつもより
数倍綺麗に見える。
その表情には何を考えているのかわからなかった。
「やっぱりここか・・・」
と、言う声が頭の向いている方向から聞こえた。あたるは首だけを動かし、目線を上に向けた。そこにいるのはコースケである。コースケはよっと手を軽くあげ、
あたるの右隣に座りこんだ。コースケもまた夜空を見ていた。
「こんな綺麗な夜空、ここら辺で見るのは初めてだな・・・」
あたるは反動を付けて起きあがり、コースケと同じような体勢で座った。
「そうだな・・・」
「お前・・・」
あたるはコースケの顔をみた。それでもコースケは夜空を見ている。
「この景色、ラムちゃんと見たいとおもったんじゃねえか?無いだろ、一緒に見たこと・・・」
「ああ・・・。でも・・、もう遅いんだよな・・・。一緒に見れないんだよな・・・。あの世で同じ夜空を見てることを願うしかないか・・・」
あたるはまた夜空をみた。一緒のものを見ていても、一緒に見れない事にあたるは後悔した。
「いや、あの世じゃない。まだ成仏できないんだ、きっと。もしかしたらここにいるかもしれない。でもそれは不本意のはずだ。

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