それでもペアルックしたいあなたのために (Page 1)
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ここはどこかの大学のキャンパスの構内である。
「ダァーリィーン!」
「ん?」
緑色の長い髪をした女に呼ばれると、ベンチに座ってタバコを吸っていた男はタバコを銜えたままその声のほうを向いた。
その女はすぐにその男のそばにたどり着いた。
「ダーリン。タバコの吸いすぎは肺ガンになるっちゃよ!いい加減やめたら?」
「うるせえなー。オレの勝手だろうが、そんなの。お前、そんな事言うためにわざわざ呼んだのか?」
男はタバコを灰皿でもみ消しながら面倒くさそうに応対した。
「もう、ダーリンたら!未来の妻に対してもっと優しくしたらどうなの?」
「何が未来の妻じゃ!だから何の用なんだよ?さっさと言えよ!」
男を指差しながら抗議する女に、男は愛想なく言った。
「ん、もう!わかったっちゃよ・・・あのね、今日の午後で最終の映画のチケット、サークルの先輩にもらったっちゃ」
「ホー。それで?」
「ダーリン、今日の午後、暇だっちゃ?」
「いや、法曹論が3限目にあるけど」
「そんなつまんない講義、サボっちゃうっちゃ!お天気もいいし、一緒に行こうよ!ね?」
「天気の良さは関係ないと思うが・・・まあ、たしかにいい天気だな。じゃあ、行くか」
「キャーッ!嬉しいっちゃ!」
「こ、こら!人前で抱きつくなといつも言ってるだろうが!」
男と女は腕を組んで正門のほうに歩いていった。そんな仲睦まじい2人は、お揃いの白いセーターを着ていた。
「見て見て!あの2人、この前のダンスパーティでキングとクイーンになった2人じゃない?」
「ホントだ。真昼間から腕なんか組んじゃって・・・ラブラブだねー。お揃いの服まで着ちゃってさー・・・」
そんな2人を見て、周囲の学生たちが妬みにも似たひそひそ話をするのはもはや日常茶飯事となっていた。
この2人はキャンパス内では知らないものはまずいない評判のカップルである。
(ウフフ・・・ダーリンの心はすべて、ウチのものだっちゃ!でもウチの心は・・・全部ダーリンに盗られてしまったっちゃ)
女は男の腕を抱きながら、有頂天になっていた。
「ウフフ・・・ウフフフ・・・」
「・・・おい、ラム!ラム!」
「あ・・・あれ?」
あたるに何度も自分のことを呼ばれて、ラムはようやく我に返った。このときは朝食の途中だった。
「なにやっとんじゃお前?メシの最中にニヤニヤしだしたかと思ったら突然ボーっとしやがって・・・」
「ううん。何でもないっちゃ。夕べはちょっといい夢を見たから、それを思い出していたら、つい・・・」
「夢・・・?どんな夢だ?」
「ううん。そんな大した夢じゃないっちゃ!ごちそうさまだっちゃ!」
「おい、ラム・・・」
尋ねかけるあたるを避けるように、ラムは食事を済ませその場を立ち去った。
「そういえば・・・今日は日曜日か・・・」
あたるはカレンダーをチラッと見ると、そう呟いた。
部屋に戻ったラムは、自分の携帯電話でランの携帯に電話をしていた。
「・・・とってもおいしい紅茶が手に入ったっちゃよ。今日は日曜だし、ウチのUFOに来ないっちゃ?」
「行く行く!じゃああたし、三葉虫のタルト持ってラムちゃん家に行くわね」
「じゃあ、待ってるっちゃよー」
ラムがこう言うと、ランは電話を切った。
「さてと・・・」
ラムは窓から飛び立ち、自分のUFOに向かった。
「こんにちはー、ラムちゃーん!」
「あっ、ランちゃん。待ってたっちゃよ」
ラムがUFOに着いて数分後、三葉虫のタルトを土産にランが到着した。2人のティータイムが始まった。
ラムがあたるとペアルックを着てキャンパスライフを満喫している夢を見た話をすると、ランは羨ましそうに聞き入った。
「やっだぁー、ラムちゃんたらぁー!夢の中でもダーリンのことばかり考えてるなんて。
でもどうして大学生っていう設定になっているのかしら?」
「さァ?ウチ、わからんちゃ」
「でも、ペアルックなんて、いいわねぇー。あたしも憧れちゃう。レイさんと一緒に・・・きゃん!ランちゃん、はずかシイ!」
2人がこんな話をしていると、テレビからテレホンショッピングの映像が流れてきた。
「・・・さて、次は、これさえあればテレビの前のあなたも幸せになれる!究極のペアルックはんてんの紹介です」
画面の真ん中に立っている男女のうち、男のほうがそうアナウンスした。
「うわさをすれば何とやら・・・ね!ラムちゃん」
「ホントだっちゃ!すっごく興味があるっちゃよ。もしかしたらさっきの夢、正夢になるかもしれないっちゃ・・・」
横目でラムにそう告げたランに、ラムは目を光らせながら答えた。2人はスクリーンに食いついた。
「エッ!?着ただけで幸せになれるペアルックはんてん!?それって、どんなはんてんなんですか!?」
女のほうが大げさに驚くのも、テレホンショッピングの常套手段だろう。2人は画面を興味津々と眺めた。
「あわてない、あわてない!あわてなくてもはんてんは逃げたりしませんよ。では早速、ご紹介しましょう。こちらです!」

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