時は夢のように・・・。「第6話〜心と心は・・・。」 (Page 3)
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 唯や沙織ちゃんみたいに憧れの職業とかがあるでもなし、面堂みたいに頭がよくもない。パーマやメガネみたいな行動派でもない。
 俺の夢は・・・なんだ?
 単純で馬鹿で、なんとなく俺にも入れる大学にいけばいいなんて、子供みたいな考えしかなかった。そんな自分が恥ずかしくなった。
 他人の心配なんて、十年早いな・・。
あたる「分かった。部屋に戻って、自分の事をするとしよう。邪魔したね。」
 俺が立ち上がった時、唯は一瞬、すがるような眼差しをした。
 だが、それはすぐに消えて、本心を隠したやさしい微笑みがとってかわった。
 信用してくれてるんじゃなかったのか・・?
 俺は彼女の悩みを打ち明けてもらえないくらい、頼りなく思われてるのか。それとも年下だからかな・・。
 なんか、悔しかった。

                             *
 中間テストは終わった。
 試験期間中、学校は早く終わる。
 俺とラムは学校帰りに駅前のスーパーに寄った。母さんに、夕飯の材料を買ってくるようにと頼まれたからだ。
 人参、ジャガイモ、玉葱、豚肉・・・今夜はカレーだな。
 家に着いたけど、唯はまだ帰ってない。
 母さんがパタパタと小走りで廊下をやってくると、俺の顔を見るより早く、
母「あっ、あたる、帰ってたの。ついさっき、あんたに女の子から電話があったわよ。」
あたる「なにっ! 女の子って、誰から?!」
ラム「むぅー・・。ダーリンっ。」
 途端に顔色が変わるラム。最近、ちょっとした事で機嫌が悪くなるから困るよなぁ。
母「このメモの所に電話ちょうだいって。なにか急用みたいだったわよ。名前も言わずに切られちゃったんだけど・・。」
 そう言うと、母さんはエプロンのポケットから出したメモを俺に渡して、買い物袋を受け取ったら、パタパタと台所に行っちまった。
あたる「え・・と、番号は・・・○○○○-○○○○ か。」
 俺は言われるがまま、メモにあった番号に電話をかけてみた。
あたる「あ、もしもし、あの、諸星あたるっていいます。なんか電話を頂いたみたいで・・。」
「あたるくん! やだーっ、なによそいきの声出してるのよ。わたし、沙織!」
あたる「沙織ちゃん? なぁんだ、驚くじゃなぁい。」
ラム「なぁんだ、沙織だったのけ?」
 熱くなりすぎてバチバチと放電しまくってたラムは、電話相手が沙織ちゃんだと分かったら、急に冷めてしまったみたいだ。
沙織「なにか誤解させちゃったかな・・。ごめん、ごめん。・・・さっそく電話してくれたのね。ありがとう。ちょっと聞いていいかな?
   ねぇ、唯、どうしてる?」
あたる「どうって・・?」
 ラムにも話しを振ってみたけど、やっぱり「?」って顔してる。
あたる「まだ仕事から戻ってないよ。」
沙織「仕事?! あの娘、仕事に行くって出かけたの?」
 沙織ちゃんが電話の向こうで大声をあげた。
あたる「・・・? なにかあったんですか?」
沙織「唯ったら、今日は仕事に来てないのよ! わたし、同じ仕事場で、テニスサークルだもん。どっちにも顔出してないのよ。休みの届け
   も出てないし・・・・変だと思ったの。」
あたる「なんだって、そんな馬鹿な!?」
ラム「どうしたっちゃ? 唯がどうかしたっちゃ?!」
 隣に居たラムが、すごく心配そうに声を震わせた。
 俺はラムに「まぁ待て。」って具合に手で合図する。
沙織「う・・うん。・・・あちゃー、ちょーっとまずったかなぁ。」
あたる「あの、沙織ちゃん。唯ちゃんのこと、何か心あたり無い? 最近元気ないみたいで、気になっててさぁ。でも、俺には何も話してく
    れないんだ。」
ラム「それ、ウチも気になってたんだっちゃ。唯、最近つれないっちゃよ。」
 やっぱり、唯の異変に気付いてたのは、俺だけじゃなかったか。
沙織「それが、わたしもよく分からないのよ・・・・家族のことかな・・・・それか、アレかな・・。」
 沙織ちゃんはふと考え込むように、言葉をとぎらせた。
あたる「えっ?」
沙織「ううん、実はね・・・・あの娘が憧れてた、同じ職場の先輩がいたの。今年の春、転勤が決まって引っ越したんだけど、時々職場と
   かサークルに顔出してくれてた。あっ、もちろん、唯と先輩が付き合ってたとか、そういうんじゃなくて。唯って結構ぽーっとして
   て奥手だから、顔を見てるだけで満足してたみたい。それが、今月に入ってからぱったりと、先輩の足が遠のいちゃったの。でも、
   どうかなぁ、そのせいっていうのもちょっと納得いかないんだけどね。私も、最近あの娘が暗いからどうしたのかと思って・・・・
   しつこく聞いて、怒らせちゃったの・・・・でねあたるくん、聞いてる?」
あたる「あ、ああ。その人、先輩はなんていう名前なの?」
 俺はおもいのほかショックだった。その後は何を話したのか、よく覚えていないのだ。『先輩』の名前も聞いたけど、思い出せない。

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