時は夢のように・・・。「第6話〜心と心は・・・。」 (Page 6)
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 俺たちは、真面目くさった顔を見合わせた。そして、誰からともなく、ぷーっと吹き出した。
ラム「ウチ、お料理をもっと頑張って、レストランのシェフになろっかな。」
あたる「あ、ラムはやめといたほうがいい。俺がなってやるよ、シェフ。料理の勉強して唯ちゃんをあっと言わせてやる。ほら、女子栄養
    料理科大学ってあるでしょ。」
唯「でも、そこは女子校よ。あたるさん。」
あたる「そうか、そうだよな。女子だもんなっ。」
 みんなちょっとキテた。ちょっとしたたわいもない事で、俺たちは笑い転げた。
 だけど、唯はいったい何を考えているのか、悩みはなんなのか・・・俺はそのことが引っかかって、頭から離れなかった。

                             *
 翌日、唯は、遊歩道の途中にある、友引町を見渡せる階段に座って、ぼーっと景色を眺めてた。
 俺がチャンスを待って、じりじりと接近しているとも知らずに。
唯「・・ラムさん・・・なんで、そんなに強くいられるの・・。」
 ポツリとつぶやくと俯いてしまった。すぐ背後まで迫ってた俺は、一瞬、声のかけるタイミングを失った感じがした。
 唯のつぶやいたセリフは、核心に近づいてる気がしたからだ。
 でも、ここは声をかけるしかない・・。でもぱーっと頭の中が真っ白になって、出てくる言葉がなくて、
あたる「こらぁーーっ、唯ぃーーっ!!」
唯「キャーーーーーアッ!!」
 唯ときたら、お風呂を覗かれたときよりすごい悲鳴をあげて、あわてて振り返った。
唯「あっ、あたるさん?! なぁんで、こんな時間にこんなところにいるのおっ! 平日よ、今日っ!」
あたる「ばかやろっ! そいつはこっちのセリフだっ。唯ちゃんこそ、なぁんで今頃、こんなところにいるんだよっ!」
唯「あ、あの、それはね、有給を取ったの。そう、今日は私お休みなのよ。」
 唯のヤツ、今更だっていうのに、この期に及んで、年上のプライドを取り繕う。
あたる「ふぅーん。今朝は『仕事に行ってきます』って言って出かけたのに?」
唯「えっ・・・そ、そうねぇ、ええと・・。」
 あせって必死に考えをめぐらす様子が可愛くて、俺はもう我慢できなくなって、笑い出してしまった。
唯「なっ、なによ、何も笑うことないじゃない。」
 唇を尖らせて、頬を膨らませても、唯はやっぱり可愛い。
あたる「だって俺、見てたんだよ。朝からずっと。」
唯「ええーっ?! 嘘っマジぃ!」
あたる「ホントだよ。言ってみようか。仕事場に行く時に通る交差点を、仕事に行くときは右折するけど、逆に左折しただろう。駅前の駐
    車場にバイクを止めて、駅前の商店街をぶらついて、アジアン雑貨の店に寄って、百円均一で歯ブラシを買って、近くの喫茶店に
    入ったよね。結構落ち着けるところだよね、あの喫茶店。それからアクセサリーを見に行って、それから駅前の本屋まで戻った。
    そのあとは、またバイクで走って、んで、最後はこの場所に来た。」
唯「なんでそこまで詳しく知ってるの?!」
あたる「今朝、家を出るときからずっとマークしてたんだ。流石にバイクには追いつけないから、ラムからコイツを貸してもらったんだ。
    唯ちゃん、ぜんぜん気付かないんだもんな、楽しかったよ。」
 ポケットから携帯発信機を取り出して、唯に見せた。
唯「これって・・・発信機? いったい、どうゆうことぉ。」
 唯は大きな目を見開いて、パチクリと瞬かせた。
唯「あたるさん。そういえばあなた、学校はどうしたの?」
あたる「今頃気付いた? 大丈夫、ラムにまかせてある。夕べ、電気が暴走して家が壊れちゃったから、後片付けしなきゃならないから休む
    って。」
唯「そんな無茶苦茶な話し聞いた事ないわ、ラムさんに嘘をつかせたのね・・。」
 唯は疑わしそうに、俺を上目遣いで見上げた。可愛い女の子がやると、こういう表情もまたゾクゾクしちゃうんだよなぁ。
あたる「それはね、マジで起こるからさ、ウチの場合。」
 いたずらっ気を出して唯に目配せすると、唯はぷいっとそっぽを向いた。
あたる「唯ちゃんこそ今日が初めてじゃないだろ、仕事サボるの。くせになっちゃうよ。昨日の夜は、新宿か渋谷辺りをふらふらして、怖
    い思いしたんだろう?」
唯「・・・池袋だもん。」
 俯いた唯が、ぽそっと言った。
 声が、震えていた。
 俺はなんとなく、彼女に手を差し伸べた。
 その差し伸べた手をすり抜け、唯は俺に飛びついてきた。
 両手で俺のシャツを掴んで、必死に泣くのをこらえてるみたいに肩を震わせている。
 柔らかい頬が触れる。肩の辺りが、俺にぶつかる。
 そっと、両手で唯の肩を抱く。
 その手には、唯の鼓動。響いてくるのは、激しく揺れる・・・彼女の心。
 唯のぬくもり。サラサラな亜麻色の髪からいい香りがして・・・。
 俺はもう爆発してしまいそうなくらい心臓が早鐘を打って、手が震えて。

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