時は夢のように・・・。「第6話〜心と心は・・・。」 (Page 5)
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待ちくたびれていたころ、玄関でドアを開ける音がした。
あたる・ラム「!!」
俺たちは顔を見合わせた。
茶の間から駆け出して、玄関に向かうと、
父「ただいま。」
あたる「なぁんだ父さんか・・。」
ラム「お父様・・。お帰りなさいだっちゃ・・。」
はぁ・・、溜め息が口からもれる。
父「な、なんですっ?! なにか不満でもあるのですかっ?!」
父さんも帰ってすぐ、夕飯を済ませて、お風呂に入った。
母さんは、もう寝ちゃったのかな・・?
*
11時過ぎになって、バイクのエンジン音が庭先に響いた。
バイクの音が止まってしばらくすると、玄関のドアを開ける音がした。
唯「あっ、あの・・・た・・ただい、ま。」
唯がそうっと入ってきた。
玄関を上がろうともせず、しゅーんとしているから、俺たちは向かえに出た。
あたる「・・・お帰り。」
ラム「唯っ、こんな時間まで・・!」
頭ごなしに怒鳴りつけようとするラムを、俺は手で合図して制した。
俺だって、心底、あれもこれも言ってやりたい気持ちだ。だけど、身を縮めて情けない表情をしている唯を見たら、どうでもよくなって
しまった。
唯「あ・・・、いい匂いがする。」
唯の顔がパアッと明るくなった。
何か深刻な事で遅くなったわけではなさそうだ。安心して気が抜けた途端、とってかわって今度は怒りが込みあがってきた。
あたる「こらっ! あ、いい匂いがする、じゃないだろっ。唯ちゃんが帰ってくるのを待ってたんだぞ。」
ラム「そうだっちゃ! ウチら唯と一緒にご飯食べたいから、今までずぅぅーーっと待ってたんだっちゃよっ。」
唯「あ・・ありがとう・・。ごめんなさい〜。」
あたる「いいから、あがんなよ。」
唯が靴を脱ぐまで待って、ラムが唯の手をつかまえて台所に引っ張ってきた。
唯「あ・・あの・・ね、わたし・・。」
言いかけた時、唯のお腹が、ぐぅ、と大きく鳴った。
ラム「おなか、減ったっちゃね。」
唯は黙ってうなずいた。
あたる「早く着替えて、手を洗ってきたら。言い訳はいいから。」
唯「うんっ。」
唯はなんだか嬉しそうだった。トントンと軽快に階段を上がっていく。
いいことでもあったのかな?
まさか、先輩とデートとか? 大人のデートって言ったら、食事してカラオケボックスとか行って、密室をいいことにあんなことやこんな
ことしたりして、それから、それからぁ・・っっ!
妄想は底無しにエスレートしていく。
あたる「そ、それはないか・・・唯ちゃんはいつもと変わらないし、腹減ってるみたいだし。」
ラム「なにブツブツ言ってるっちゃ、ダーリン?」
あらっ、やばい。また考えてるコトが口に出てしまった。どの辺から言ってただろう・・。
冷や汗を手で拭いきったときだった。
唯「あたるさん、お腹すいた!」
子供みたいに、唯が階段を弾んで下りてきた。台所に来ると、俺の向かいの席にちょこんと座る。
俺はすぐに笑顔になったりするのは悔しいから、こらえて、無表情を装った。
ラムが湯気の立つなべから、ちょっと多めによそったご飯にたっぷりとカレーをかけた。
唯「うわー、おいしそうっ! いただきまーすっ!」
外で何も食べなかったのかな? 唯は『無我夢中』って具合に顔も上げずに、一生懸命になってカレーを食べた。
唯「おかわり、してもいい?」
あたる「うむ! ま、いいだろっ。」
ラムが唯からお皿を受け取ると、2杯目をよそる。
その2杯目のカレーライスをニコニコしながら口に運んでいた唯が、食べながら、ふと、ホロッと涙をこぼした。自分でも、どうして涙
が出てくるのか不思議そうに、涙を拭った。
ぽろ・・ぽろ・・・。
涙はとめどなく溢れ出て、唯の頬をつたって落ていく。
ラム「唯・・、どうかしたっちゃ?」
唯「・・・・おいしい。あたたかくて、とってもおいしい・・・・安心したの、そうしたら、急に、なんだか・・・私って・・。」
俺はティッシュ箱を手渡した。
唯はぽろぽろ涙しながら、カレーを食べた。食べては、目もとをティッシュで押さえた。それから、また食べた。
その夜、俺たちは唯に何も聞かなかった。
問いただしたらよかったのか?
でも、あてもなく、夜の街を歩く唯の姿が浮かんでくる。
タチの悪いオヤジとかニイチャンが声をかけてきたのかもしれない。きっと怖かっただろうな。
だけど、ただ歩いていたかっただけじゃないのか・・・。なんとなく、そんな気がした。
唯「あたるさん、ラムさんも、とってもあったかい。」
2杯目のおかわりを食べ終えた唯が、手の甲で目もとを拭ってつぶやいた。
唯「このカレー、好き。きっと一生忘れない。」
あたる「そんなに?」
唯「うん。大好き。・・・私にはマネできないや。」
涙のにじんだ目で、唯はくすっと笑った。
ラム「唯、そんな事言ったら、ウチの立場はどうなるっちゃ。」
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