Once again 第一章 (Page 1)
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第一章
楽しげな笑い声を振りまきながら、制服の学生たちが登校していく。
「いってらっしゃい、気をつけてね」
「おはよう、ねぇ、あれどうした?」
朝の挨拶が町のいたるところから漏れ聞こえる。
友引町、かつての狂乱も夢の彼方に過ぎ去り、穏やかで緩やかな日々を見送っていた。
通勤通学の乗客を満載したバスがエンジンを唸らせ、バス停を発車した。
「あっ、こらっ待てっ!俺が見えんのかっ!」
一歩及ばず、バス停に駆け込んできた一人の青年が、去り行くバスのテールを見送り嘆息した。
「まぁ、いいか」
彼、諸星あたるは呟き、忙しなく行き交う車の流れを眺める。
格子模様の入った、淡い青のボタンダウン。
あたるはその上に薄茶色のカーディガンを羽織り、袖を胸の前で結んでいる。
背負っていた巾着のバッグを降ろし、車道を背にしてベンチへ腰を下ろした。
彼の目の前を、制服のスカートをなびかせながら女子学生が自転車で走り抜けていく。 紛れもなく、彼の母校である友引高校のセーラー服だ。
あたるは目を細めて、名も知らぬ後輩を見送った。
諸星あたるは無事に高校を卒業し、今や三流私大生であった。
高校時代を共に過ごした悪友たちも散り散りになり、彼を取り巻く環境も若干の変化を見せていた。
友引町は都心から離れているためか、古い景色が多く残されていた。
木造のアパート、煤けた銭湯の煙突、狭い路地、神社の境内と気が遠くなるような樹齢の巨木。
諸星あたるにとってはすっかり見飽きた、しかし最も安心できる町並みであった。
「あれ、あたるくん今から?」
バスを待つ あたるの横から幼馴染みが声をかけた。
「おはよう」
「早くはないけどね、おはよう。今日、少し寝坊しちゃって……」
三宅しのぶが悪戯っぽい笑みを浮かべた。諸星あたるの幼馴染みであり、同じ母校をもつ学友でもあった。
トレードマークのおかっぱ頭は今も健在である。
僅かにピンクがかったブラウスに、オフホワイトのフリルジャケット、素材は麻綿である。スカートも綿で、ピンクの細かい花柄が入っていた。
肩からは麻のトートバッグを下げている。
「ラムは今日、一緒じゃないの?」
周囲を見回しながら、しのぶが何気なく言った。
「ん、実家に用があるとかで出かけてる」
「ふぅん……」
気のない返事を返しながら、しのぶは横目で彼を見た。
彼の側にラムがいないというだけで、こうも周りの景色が違うものなのかと改めて感じていた。
間もなく路線バスが停留所に到着し、二人は定期券を片手に乗り込んでいく。
車内は満席、吊り革に捕まる乗客の腕が林のように通路に並ぶ。
しのぶは手近な手すりにしがみつき、あたるは彼女の背後から同じ手すりを掴んだ。
お互いの吐息も聞こえる至近距離で、一瞬目を合わせる。
「よう、あたる!」
混みあった車内で、強引に乗客の中を掻き分けながら旧友が近づいてきた。
周囲から顰蹙を集めながらやってきたのは白井コースケであった。
かつては諸星あたると共に町内で悪名を轟かせた悪友中の悪友である。
「なにやってんのよ、もう!みんな迷惑するでしょ!」
彼を睨みつけ、しのぶが厳しい声で叱りつけた。
「よう、しのぶ!久しぶり、元気だったか?」
「一昨日会ったばっかりじゃないの……」
上機嫌にあいさつするコースケに対し、しのぶは嫌悪感を露骨に顔に表した。
「あたるぅ、今日はラムちゃん一緒じゃないのか?」
「ん?ああ、なんか用事があるらしい」
「なんだよ、用事って」
「知らん」
あたるは素っ気無い返事を返すと、何気なく窓の景色に目をむけた。
バスが大きく揺れると、乗客もそれに振られる。
あたるは足を踏ん張り、手すりを掴む腕に力をこめて踏みとどまった。
しのぶの背中に、僅かに触れたあたるの体温が伝わる。
彼女は、強く手すりを掴む彼の手をふと見つめ、彼の表情を窺い見た。
あたるは平然と、涼しげな表情で彼女を見返した。
「そう言えば、しのぶ……なんで あたると同じ学校にしたんだ?
結構成績良かったはずだろ?」
コースケが脈絡もなく、しのぶに尋ねた。
「別に……一番近い学校だったから」
「それだけ?」
「そうよ、どうして?」
しのぶが不思議そうに聞き返す。
「いや、なんとなく」
コースケはそう言い、あたるに目を向けた。
「お前ら、長いよな……」
コースケが言うのは、同じ学校に通った期間の事だ。
幼稚園から始まり、小中高とすべて同じ学校に一緒に通った。
「だって、近所だもん……当たり前でしょ?」
「……そう、かな」
事も無げに言うしのぶに、コースケは少し釈然としない様子だった。
晴れ渡った空の下、キャンパスを学生たちが闊歩する。
地元出身の学生が多く、高校時代に見かけた顔も少なからず見受けられた。
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