うる星やつら しのぶのストレンジストーリー(後編) (Page 1)
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      うる星やつら
しのぶのストレンジストーリー(後編)

 子狐が洞窟を進んで行くと、やがて先の方に光が見えてきた。子狐は光に向かって全速力で走ると、そこは洞窟の出口だった。出口を抜けた子狐は、目の前の光景に驚き声も出なかった。そこには月明かりに照らされた今まで見たことも無い大きさの巨木がそびえ立っていたのだ。
 子狐は、ゆっくりと近づくとその巨木を見上げ
 「これが三四郎さんの言っていた世界樹っていう木かなぁ?」と呟いた。そして子狐は躊躇する事無く、その木を登り始めた。決して木登りが得意ではない、いやむしろ苦手と言ってもいい子狐は、何度も滑り落ちそうになりながらも、なんとか木の実のなる枝までたどり着いた。子狐はゆっくりと枝の上を進み、どうにか木の実のところに行くと木の実を取り、肩から下げている小さな袋に入れた。しかし子狐は、無事に木の実を取れた事に安心して、つい下を見てしまった。その瞬間、子狐はあまりの高さに足がすくんでしまい体が硬直して、その場から動けなくなってしまったのだ。子狐は、なんとか動こうとするが体が全く言う事を聞いてくれず、無情にも時間ばかりが過ぎて行った。 その時、子狐の脳裏に三四郎の言葉が過った。
 『でも入り口は朝になると閉じてしまうから気を付けてね』
 子狐が動けなくなってから随分時間が経っていた。子狐は袋に入れた木の実を見つめ
 「この木の実を持って行かないと、しのぶさんは……」と呟くと、それまで恐怖ですくんでいた体がスッと軽くなった。子狐は、急いで枝を渡ると滑る様に下に降り全速力で洞窟に向かった。
 気がつくと周囲はうっすらと明るく夜が明け始め、洞窟の入り口もいつ閉じてもおかしくない状態だった。子狐は、死に物狂いで洞窟に向かって飛び込んだ。子狐が洞窟に入るとほぼ同時に洞窟の入り口は閉じ、周囲は闇に閉ざされた。子狐はもと来た道を戻り洞窟を抜けると、外は既に朝日が射していて三四郎が心配そうな顔で待っていた。子狐はすぐに三四郎のもとに駆け寄ると、三四郎は
 「やぁ、良かったよ。遅いから心配してしまった」と言った。すると子狐は
 「三四郎さん、遅くなってごめんなさい」と言うと、肩から下げた袋から木の実を取り出し
 「世界樹の木の実って、これでいいの?」と聞いた。すると三四郎は
 「実は、僕も初めて見るんだよ。でも、多分それでいいと思うよ。だって、世界樹の有る世界には、世界樹しか無いはずだから」と言った。すると子狐は木の実を見つめ
 「ふ〜ん。ところで、これをどうするの?」と三四郎に聞くと、三四郎は
 「それを、キツネくんが助けたい人間の女の子に食べさせるんだよ」と言った。それを聞いて子狐は
 「この木の実を、しのぶさんに食べさせればいいんだね」と、嬉しそうに笑った。しかし三四郎は
 「うん……でもね、その食べさせるって言うのが難しいんだよ」と言った。それを聞いた子狐は
 「何で?もしかして、凄く不味いの?」と言った。すると三四郎は
 「い、いや、不味いとかって問題じゃないんだよ」と言って苦笑いをした。そんな三四郎を見た子狐は
 「じゃあ、何で?」と言った。それを聞いた三四郎は
 「キツネくん。僕が言った事覚えてるかい?時間は戻せないけど、その人の魂を別の時間軸の分岐点まで戻すって言ったよね?」と言った。子狐が頷くと、更に三四郎は
 「いいかい?魂っていう物は、肉体に縛られているんだ。だから、魂が肉体から離れる時は、死んでしまった時なんだ。つまり、魂を別の時間軸に移動させるって事は……」と言い、それを聞いた子狐は
 「まさか……しのぶさんは……」と言って、言葉を止めた。すると三四郎は
 「そう……死なないといけないんだ……そして、その世界樹の木の実は毒の実なんだよ。その毒で眠る様に息を引き取るんだ。しかも、その木の実には魂を別の時間軸に移して再生する働きが有るんだ」と言った。それを聞いた子狐は
 「そんな……この木の実をしのぶさんに食べさせたら、しのぶさんは死んでしまうって事?」と言った。すると三四郎は
 「そう言う事になるね……でも、違う時間軸で生き続けるんだよ」と言った。子狐は木の実を見つめ、大粒の涙を流した。

        第三章

 4月になった。私は就職した会社で働き始めたが、車椅子での仕事は決して楽なものでは無かった。仕事は、パソコンにデータを打ち込む作業で、1日やってると肩やら首やらが痛くなる。じきに馴れるものなのだろうか?
 毎週、土曜日と日曜日は休みなので、私は良く出掛ける。
 私も年頃なので、オシャレには敏感だ。学校へ行ってる頃は、ほとんど化粧もしなかったが社会人になったら、そうも行かない。こんな私だって、綺麗になりたい欲求も有るし、恋を諦めた訳ではない。
 その日も私は洋服を買おうと出掛けたのだが、なかなかいい服が見つからず私は隣町まで足を伸ばす事にした。

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