二年目の決戦 (Page 1)
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二年目の決戦



「ウチちょっと先に帰るっちゃ」
ラムは帰る準備をしながらあたるに言った。
「なんだ、エスケープか?」
机にうつぶせに眠っていたあたるは寝ぼけながら答えた。
「何言ってるっちゃ、大事な用事だっちゃよ」
ラムは軽くあたるの頭を殴った。あたるは叩かれた頭を撫でながらゆっくりと立ち上がると
「じゃあ、俺も連れて行け。お前一人じゃ心配だ」
と、きざったらしい声でラムの両肩に手を置いた。
「え・・・」
二年四組に未だかつて無い衝撃が襲った。さらわれたのならともかく、ただの用事で、あたるがラムの心配などしたことがなかった。こういう台
詞はどこから見ても仲のいいカップルの男側が言う台詞である。従ってあたるが言うなどと面堂が女性抜きで暗いところを恐れないのと同じくら
いの意外な物なのだ。
「なにぃぃ!?あたるが!!?」
真っ先に言葉にしたのはメガネである。そして、
「あたるくんがラムちゃんを・・・」
「天変地異だ」
「夢でも見てるのか?」
「こりゃあ、明日は雪が降るぞ」
「冬服出さないと・・・」
「明日は厚着してこよっと」
「その前に110番だ!」
と連動して悲鳴が広がった。あたるは現実逃避をしたくなった。
「ええい!やかましい!!」
あたるは怒りをぶちまけたが、衝撃波は一行に治まらなかった。ラムは自分を心配してくれたあたるに抱きつきたかったが、あたるはすぐさま囲
まれ、ラムは疎外感を感じていた。
「どうした、あたる!熱でもあるのか!」
「頭でもぶつけたか?」
「お前本物か?」
「たこ焼き食うか?」
「電撃の食らいすぎじゃねえか?」
「いやいや、きっと女の子に殴られすぎたんだよ」
「やかましいぃ!!」
あたるの叫びに周りを囲っていた生徒は吹っ飛んだ。そしてあたるは机に上に立つとまたもやきざったらしい声で
「俺はな、愛に目覚めたのさ・・・」
と薄笑いを浮かべた。ラムの目はときめいた。何のために机に上がったのか誰にもわからなかった。
(いや、そんなはずはない!何か裏がある、何か!!)
全員が全員同じ事を一言一句違わずに思った。いくら非現実的な日常を送っていても、この事態は超非常事態である。哲学者でも理解不能な事柄
を高校生程度の頭脳でわかろうはずもなかった。
「お前、心配とかいってエスケープする気だろ?」
コースケがそっけなく言った。
「鋭い・・・さすが親友だ」
ラムはときめいた目を点目にかえ、一瞬でもあたるが生まれ変わったと思ったことを激しく後悔した。
そして、頭脳をフル回転させていたメガネ、面堂、その他大勢は『え?』と声にならない声を出し、そのままフリーズを起こした。瞬きどころか
呼吸、血液の流れまでが止まっていた。目は再起動を要請していた。

十分後 保健室
「ああ、死ぬかと思った・・・」
二十人近い男子生徒がぜえぜえと息切れをしていた。
「まったく、瞬き一つせず、呼吸を止めて、さらに血液の流れまで止まるなど常識では考えられんぞ」
非常識な連中であることはサクラもわかっていたが、この事態には正直驚いたようである。
「ところであたるは?」
パーマは回復が早いのか、いずれしなければならない質問をいち早くした。
「諸星ならラムに運ばれながらとっくに帰ったぞ。まだ一時間目だというのに・・・」
「逃したか・・・」
男子生徒は悔し涙を流した。

翌日 昼休み
今日のあたるは元気が無く悩んでいると言った感じだった。
「は〜・・・」
と溜息を吐きそのたびに窓の外を見る。
「あたる・・・。説明して貰おうか・・・」
メガネがいつもの三人を連れて周りを囲った。
「何を・・・」
元気のない返事である。
「貴様、何故ラムさんを使ってエスケープした?」
「別に・・・」
机にひじをつき手の上に頭を乗せて、まるで話す気がない。
「ふざけるな!」
メガネはあたるの胸ぐらを掴み、無理矢理立ち上がらせた。
「貴様がエスケープするときは、ラムさんを使わずにいつも自分一人で逃げていたではないか!よしんばラムさんと一緒でもラムさんを使って逃
げるなど何か裏があるとしか思えん!」
「さすがメガネだな・・・。だが、この件に関わらんほうがいいぞ。これは友達としての忠告だ」
「ラムさんが危ないのか?まさか用事って命に関わる事じゃないだろうな・・・」
「いや、ラムは関係ない。あいつは親戚の結婚式にいっとる」
とあたるが言ったとたん、あたるを支えていた力がなくなり、あたるは椅子にしりもちをついた。
「なら良い・・・」
あたるが気付いたときにはメガネは背を向けていた。いてて、と尻をさすりながら目線をメガネからコースケに写した。
「コースケ・・・ちょっと・・・」
「変な気起こすんじゃねえぞ」
振り返えり様に嫌そうな顔をしていた。
「アホか!!」
二人は窓際に来るとあたるはひそひそ話でコースケにあることを伝えた。これを見たメガネはラムが関わっていないと思ったが、非常に気になっ
た。
「何!?本当かそれ!?」

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