共に見る夜空 (Page 1)
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共に見る夜空

  
prologue
あたるはもうすぐ目的地に着こうとしていた。そこにはラムがいる。そして、「すきだ」と言うつもりである。
あたるの二年に及ぶ長い旅はもうすぐ終わろうとしていた。あたるの両手には笑っているラムの写真が握られていた。
懐かしい笑顔である。旅の間、ずっとあたるの心を落ち着けていた。あたるは現在宇宙の旅に出ていた。二年前ラムと嫌な別れ方をし、
ラムに下手な未練を残してしまった。それを消すため旅に出たのだ。
出発して二年で到着するようにオートシステムで鬼星を目指した。あえて二年という長時間を選んだのは、その二年間で、
反省をするためである。あたるがこれまでラムにしてきたことはすぐには反省できない。そこでUFOにいる間、あたるは反省し続けた。
決して、休まずではないが、それでもあたるにとって十分だった。あたるは鬼星に到着する二十分の間、地球での出来事を思い出していた。


それはあまりにも衝撃的なニュースであった。八月九日午前十一時六分、友引町に非常に小型の小惑星が落下した。
NASAからの連絡はあったため被害は最小限に抑えられたが、身動きが取れない寝たきりの老人やそれを助けようとして逃げ遅れた人々がいた。
いくらこの世界の人間の生命力が強くとも隕石による爆発は死者を出すに至った。
半径2.5kmは爆発により壊滅し、さらに半径六キロ内では至る所に地割れや地盤沈下が起き、被害総額二億六千万円になった。
そのとき友引高校は夏休みの勉強合宿を行っていた。しかし勉強合宿とは名ばかりで実際は生徒の指導強化合宿である。
ただし、ラムはその日、風邪をこじらせ、家で寝ていた。UFOではなく諸星家のあたるの部屋である。


episode1  《寝顔》
山奥なのか鳥やトンボが畑、または田んぼでじゃれ合っているのが見える。その村は殆ど百メートルおきに家がある程度の人口の少ない村だった。
その村の片隅にあるグラウンドに友引高校二年生が合宿に来ていた。その横にある古びた校舎のような物が寝泊まりをする宿舎である。
「ったく温泉の奴、いつまでこんなくだらんことやらせる気だ・・・」
あたるはグラウンドで四組のメンバーとランニングをやらされていた。いつもの乱闘騒ぎでスタミナこそ強いものの、強制的にやらされるとなるとやはり
嫌な物である。もう五周を走ったぐらいになって今だ休憩を許さない事に少しのいらだちが表面化してきた。真夏の炎天下にこのようなことをされたら
たまった物ではない。
「本当ですか?」
温泉はショックを表面に表した声で言った。温泉には隕石事件の事が伝えられた。
温泉の横にいるのは宿舎の管理人をしている老夫妻の夫の方だ。あごにはわずかに伸びたひげが伸びており、
顔をみるとしわやシミがあちこちに見られる八十代半ばの元気なおじいちゃんであった。この年になっても髪の毛は欠ける事なく健在であった。
さらにそのおじいちゃんから悲しい事実が通達された。
「な・・・」
言葉では言いようのない、もはや心でも何も言えない、そんな衝撃が温泉マークを襲った。脳には目からはいる信号が伝えられていたが、温泉の
脳はそのことを受け止めていなかった。
「そ、そうですか・・・」
温泉は我に返ってリラックスした後、やっと出た言葉がこれだ。温泉はあたるの方に視線を向けた。そこにはまだ何も知らないいつものあたるが
渋々した顔で走っていた。

「なんだ、温泉・・・」
どこかの多目的室で四組の招集が掛けられた。皆、ジャージ姿で椅子に座りながら、うちわで扇ぐ物もいれば、氷水を入れたビニール袋を頭に乗せている者がいた。
「実はな・・・」
温泉は前の教卓に右手を置き、外を見ながらゆっくりと喋った。多目的室に差し込んでくる光は、太陽が雲にかかったのか薄暗くなった。
教室の黒板には一日の予定が書き込まれてある。
「・・・先日」
温泉の口がやっと開いた。
「ラムくんが・・・、先日亡くなったという連絡があった」
あたるの目がぴくりと動いた。うちわで扇ぐ者達の手は止まり、頭に氷水を入れたビニール袋をのせている者達の氷が少しからんと音を立てた。
「ど、どういう事だ・・・」
やっと出せる声がこの一言だった。組んでいた腕がするりと解け、ぶらーんとつるされた。つるされた腕はゆらゆらと力無くゆれている。
「どういう事だ!!」
あたるは机をばんと叩きながら立ち上がった。そのまま時は止まったかのように誰も動きもしゃべりもしなかった。温泉はこれ以上このことに関して口を開きたくなかった。
だが、教師として言わなければならない。長年の教師生活でもっとも辛い時間帯だった。
温泉の口が重く開いた。説明を聞き終えたあたるはたたきつけた手を握りしめた。
「俺は・・・、信じねえぞ・・・。どうせ、何かの策略だろ・・・?」
信じたくないそんな想いを込めてあたるはかすった声でいった。
「そうなんだろ!温泉!!」

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