オリジナル小説短編版 (Page 6)
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時計は午後十時を回っていた。行き先は桜島で高速で行くにはあまりにも遠い。生徒からも批判の声が挙がったが、予算節約という理由で
多額の金を払うなら飛行機でも良いと脅された。
「ったく、二日間かけて行くなんぞ、馬鹿げたことだ」
メガネはパーマの隣で愚痴をこぼした。しかし他の生徒は思ったより、はしゃいでいる。修学旅行は行くときが一番楽しいと言っても、異議を言うものは
少ないであろう。実際桜島に行ったところで楽しいものが在るだろうか。どうせ九州なら福岡県の「スペースワールド」や宮崎県の「シーガイヤ」などのほうが
生徒にとっては良かったのかもしれない。
「そろそろ就寝時間だぞ」
温泉マークがメガホンで生徒達に叫んだ。
「やかましい!んなことわーっとる!!」
あたるを筆頭に反感の声が広まっていった。温泉は言い返そうとしたが、その前に消灯であった。暗闇の中で喧嘩しても混乱するだけだ。
両者ぐっと我慢して、席に着くとある者はアイマスク、ある者は夜の景色をみる者もいた。あたるは眠れなかった。なぜならあたるは高速道路に入って来て
すぐに寝てしまったのである。そこから九時ぐらいまでラムと爆睡していたため、二人して眠れなかった。
「ん?」
「どうしたっちゃ?」
男と女が隣同士というのはあまりにも危ないが、この二人は恐らく大丈夫であろう。あたるが思わず声を出したのは、何か前にも似た感覚が急に
蘇ってきたのだ。
「何か・・・、嫌の予感がする・・・」
あたるの肩に頭を置いていたラムはその言葉に少し驚いたような顔をして、体を垂直にした。あたるの顔をみるとこわばっているようにも見えた。
「・・・」
ラムはそのまま窓の外の景色を見た。闇の中を普通乗用車よりも高いところをハイスピードで駆け抜けていく。高速道路の向こうの景色は何もない。
恐らく田んぼがある田舎の近くを通っているのだろう。ときどき古びた電柱のようなものが見える。
今度は車内を見渡した。ラムの席は後ろから二番目の席で、その後ろは最後尾のため五人が並べる席だ。中央にメガネがいて、その右横にパーマ、カクガリ、
左横にチビ、面堂がそれぞれ違った体勢をとりながらいびきをかいている。
(静かすぎるっちゃ・・・)
みんな寝ているのだから静かなのは当たり前だが、どこかに違和感があった。普通の静けさではない。異常に静かなのだ。
メガネ達はいびきをかいているが、音は殆どしない。
「何かおかしい・・・」
今度はあたるだ。あたるもこの異様な静けさに気付いたようだ。あたるはそっと席を立つと、中央の廊下を足音を立てずに歩み出した。ラムもそれに続く。
見慣れたクラスメイトがまるで他人の様な感じがした。一度足を止め、息をのんで、もう一度慎重に歩み出した。
二人とも何も喋ることが出来ず、額に汗を垂らしていた。そのときゴォォォォっと言う音と共に車内がオレンジ色に染まり上がった。
トンネルに入ったのである。そして急に二人に強烈な睡魔が襲いかかった。

目が覚めると町の中を走っていた。しかし何処の町なのだろうか、まともに建っている家などなく、ほぼ壊滅している。
そしてぞろぞろとクラスメイトが起き始めた。あくびや目をこすったりしている。
それをちらっと見ると再び外に目をやった。するとヒュゥゥと言う音があたるの耳に入ってきた。そしてバスの外が白い光に包まれ、バス内に
大きな衝撃が襲った。
「うわっ」
そしてバスは急停車した。すかさずバスから出るとそこは紛れもなく戦場であり、そしてその背景の一部にコンクリート製の友引高校が存在した。つまりここは友引町なのである
「ば、ばかな・・・」
「どないしました?お客さん」
運転手が尋ねてきた。小柄でサングラスを掛けている。もしやと思った。バスの中に入るとクラスメイトの殆どが消え失せていた。いるのは、あたるを含めラム、メガネ達、面堂、
竜之介、しのぶ、、なぜかサクラとテンの十一人であった。
「さ、サクラ先生・・・。なぜここに・・・」
「知らぬ。家出寝ておったはずなのじゃが・・・」
少し大きな声で言った。そしてしばらく沈黙が続いた。しかし沈黙はバス内に充満し始めたガスによってうち破られた。
「な、何だ!?このガスは!?」
ドアと非常ドアから白い煙が吹き出ており、地面をはうように通路を煙でいっぱいにし、気が付けば目の前が解らなくなるほど充満していた。
「ぐは!」
面堂の悲痛に近い短い叫びが聞こえた。
「どうした、面堂!」
あたるはガスが目に入らないように右腕で目を覆いながら、左腕で手探りしながら声の方へ向かった。しかし叫びは面堂だけに治まらなかった。
次々と聞き覚えのある声が聞こえ、そのたびにどさっと人が倒れる音がした。そのうちあたるの後頭部に急に激痛が走り、意識がもうろうとし始めた。


「起きろ!起きろ、あたる!」

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