高校野球編:第三話 最初の挑戦・最後の挑戦 (Page 2)
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あたるはいきなりしのぶの手を握るが、しのぶがその手を思いっきり抓った。
「イテテテテ・・・、抓ることないだろ?」
「まだいい方よ。ホントに怒ったら机を投げつけているわよ」
「エッ・・・」
「冗談よ。私そんなに力ないもん」
冗談とは言え、そうは聞こえないから怖いモノだ。
「で、私になにを話したいの?」
「えっ?」
あたるは図星をつかれた顔をした。
「これでもあたるくんとは長い付き合いよ。そんな事ぐらい解るわよ」
あたるは鋭いしのぶの言葉に返す言葉もない。あたるは肩の力を抜いて大きく息をすると口を開いた。
「おれ・・・、野球部止めたんだ・・・」
しのぶの表情にこれと言った変化はない。
「なんだか・・・、黒川さんの重荷背負いきれなくて・・・、だから・・・」
あたるは途中で言葉が切れた。
「そう・・・」
「しのぶ・・・、俺さぁ・・・、やっぱり裏切り者なんだよな・・・」
しのぶは何も答えない。表情にもどんな想いなのかも解らない。
「さあ・・・、それは貴方がどう考えるかよ・・・。周りが・・・、ラムやコースケ君たちの態度や表情が
あなたにどう映るか・・・。それをみて判断したら?」
「でも・・・、見れない・・・。あいつらの顔を見たらもう学校にもいけない・・・」
あたるは腕にうずくまった。そしてしばらく時間が過ぎるとしのぶが急に涙を落とした。
あたるは顔を上げて、しのぶの顔をのぞき込んだ。
「なによ・・・。なんで野球部止めるのよ・・・。みんな小さいときから野球野球ってはしゃいでたじゃない!
あたるくんやラム、コースケ君も・・・。なんで夢を捨てるの!?」
「すまない・・・」
「黒川さんと何があったのよ!?」
あたるは静かに、しのぶにルパとの出来事を洗いざらい話した。しのぶはハンカチで涙を拭きながら一言一言確実に聞いていった。
一通り話し終わるとしのぶは何故か笑顔になっていく。
「・・・だから、俺・・・」(あたる)
「相変わらず鈍いのね、あたるくん」(しのぶ)
「えっ・・・」
しのぶはゆっくりと立ち上がった。
「黒川さんはそんな酷い事言う人じゃないことぐらいわかってるでしょ?」
「でも、黒川さんは・・・」
「バカね・・・。黒川さんは自立しろっていいたいのよ」
「えっ・・・」
「まあ、あたるくんも黒川さんもほんとの気持ちを伝えることが下手だから無理もないけど・・・。
わざと、きついこと言って、あたるくんを黒川さんの背中から引き離したかったのよ。だから
あたるくんにその背中を見たら倒すつもりでいくべきよ。それが黒川さんの願いでもあるんだから・・・」
あたるの心にわずかな光が差し込んできた。
「で、でも、いくら何でもそんなことは・・・」
「だったら自分で確かめてみれば?」
しのぶはひじをついて軽く微笑みながらあたるに言った。
しかしあたるは少しためらった。ルパが本当にあたるを恨んでいたら病院なんかに足を運べないからである。
「なにためらってるのよ・・・」
あたるはそのしのぶの言葉に続きがあることに気付いていた。
「ほんとは野球がしたんでしょ?」
この一言だった。この一言があたるの心をついに動かした。
この一言が高校野球界に旋風を巻き起こす源になった。そして、歴代高校野球界史上最強バッターと
同じく高校野球界史上歴代最強ピッチャーの対決に火を付けた。
PART2[復帰]
翌日
「こ、コースケ・・・」
この日、あたるは少し緊張しながらもコースケに話しかけた。実に一ヶ月ぶりだ。
「・・・あたる・・・」
コースケも驚きを隠せない。
「あ、あのさ・・・」
あたるはそう言って黙り込む。コースケが首を傾げるとあたるはあわてた。しかし懸命に口を開いた。
「あの、その・・・、またバッテリーくまねえか?」
一ヶ月前に心に刺されたあたるの矢が抜け掛けてきた。教室のカーテンがゆっくりと揺れながらコースケの返答を待つようだ。
「・・・」
あたるを見上げるコースケの顔は全く動かない。あたるの頬にも汗がたれ始めた。
「背中を・・・、黒川さんの背中を乗り越えられたのか?」
静かにコースケはつぶやいた。
「いや・・・」
コースケが顔をあげるとあたるは余裕のある、しかし純粋な顔をしてた。
「乗り越える必要もないだろ?尊敬してるんだから」
コースケからみたあたるの目はルパと似るものがあった。
「条件がある・・・」
その一言はあたるの心臓の鼓動を早くした。
「宿題、見せろ」
2人の間の壁はなくなった。この黄金バッテリーは復活したのだった。しかし、これで全て解決と言うわけでもなかった。
野球部への再入部である。
しかし、以外にもあっさりと親父は再入部を了承した。ナインも快く2人を受け入れた。ただ、入部条件も出された。
約一ヶ月、練習をしていないのだから、体はなまっているのは必定だったからだ。そこで、親父は毎日の練習メニュー+αという
形を取り、一ヶ月の遅れを取り戻せ、と2人に提案した。むろん、断るはずもなく、2人は友高野球部に復帰した。
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