高校野球編:第三話 最初の挑戦・最後の挑戦 (Page 5)
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母はあたるの耳をつまみ上げて、耳元で甲高いこえをあげる。
「イテテテテッ!」
「まったく・・・。まあいいわ。後悔するかしないか、あんたの勝手だし。母さんはこれからでデパートのバーゲンに行ってくるから」
あたるに返事をさせる隙を与えず、母はドアをしめた。
「ったく、心配して来た帰りにバーゲンによるとは、どういう根性の持ち主じゃ!」
再びコースケとトランプを始めるが、立て続けにメガネ、コースケ、パーマの親が飛び込んできてトンランプを再開できたのは、一時間後だった。
トントン
ドアをノックする音がした。いままで親たちがいきなりドアを開けるモノだからノックという物が新鮮に感じられた。
ごーっと低い音を出しながら、スライド式のドアがゆっくりと開いた。
「ら、ラム・・・」
ドアを開けたのはラム、その人である。頭には包帯を巻いている。ラムも頭にけがをしたらしい。
ラムは無言で、あたるのベッドの脇まで来た。
「どうした?」
手に持ったトランプのカードをベッドの上に置いて上半身をラムに向けた。ラムは今だ無言。
「・・・」
その沈黙にあたるは冷や汗を流し、息を飲み込んだ。まわりも沈黙の緊張感に自然と視線をあたるとラムに向けた。
「・・・、外に出られるっちゃ?」
その視線に気付いたのか、ラムはあたるに外に出るようにいった。
「まあ、まず松葉杖を使えば・・・」

屋上
「で、なにごとじゃ?」
あたるは屋上の柵の上に、両手を置くようにして町を見た。
「ただ・・・、話がしたかったから・・・」
ラムはあたるとは逆の方向に視線を移しながら答えた。するとあたるが笑みを浮かべて、町からラムの方を見た。
「ほんとは俺の気持ちを確かめたいんだろ?」
ラムは図星をつかれた顔をする。
「え・・・、いや・・・」
「やっぱり・・・。お前は嘘がつくのが下手じゃなの〜」
あわてふためくラムを少しからかうような目であたるはいった。ラムは負けたような気分になった。
ラムも以外と単純な性格のようである。
「まあ、俺だって悔しいワケじゃないし、出たくないってワケでもない」
あたるは夕焼けで、真っ赤になっている空を見上げた。空に二、三匹のカラスが鳴き声を上げながら、西へ飛んでいく。
「でも、後悔する必要は無かろう?」
「エッ・・・」
ラムが見たあたるの顔は優しい笑顔だった。その笑顔が西に沈む太陽と重なって、輝いて見えた。
「バスが事故を起こして、試合に出られなくて負けたとしても俺たちの実力不足でもなんでもないだろ?それにチャンスはあと一回ある」
「でも、あと一回しかないっちゃ」
あたるはあきれたかのような溜息をつく。
「そういう消極的な考えはいかんな〜。高校生活で甲子園に行くチャンスは4回しかないだから、今更あと一回だからってあわてる必要もない」
それでもラムは納得がいかないようである。
「これでも、俺は高校野球界史上最高のピッチャーを目指しとるんでな。そうでもせんと、面堂にかてない。あいつは恐らく高校野球界史上最強バター
 だ。こっちも最強にならんことには、全国制覇はあり得ん。それに・・・、なんというか・・・」
あたるは言うのが恥ずかしいのか、そこで話をつまらせた。頬を人差し指で軽く掻いている。
ラムは指を前で組んで、あたるの話の続きを待った。あたるは意を決したのか、気を付けをして少し上向けにラムに言った。
「親父さんの泣くところ見てみたいし・・・、」
本当に言いたいことを間延びにしているかのようなしゃべり方だ。しかし、本心で無いというわけでもない。
親父曰く、『男が泣くときは悲しいときではいけない。嬉しいときこそ格好いいという物だ!』である。
「やっぱり・・・、それ以上いわん」
意を決したくせに以外と気が弱い。
「じゃあ、俺は戻るぞ」
あたるはラムに背を向けて、右手を挙げた。その後ろ姿を見つめているラムには、あたるが何をいわんとしていたのか見当がついていた。
「ダーリン!」
ラムはあたるを呼び止める。あたるは顔が見えない程度に顔を横にした。
「さっきの続きはいついってくれるっちゃ?」
見当はついているが、自分でいうのはやはり気が引けるのか、あたるに続きを求めた。
「・・・」
あたるは何も言わずに、屋上のドアの中に消えていった。しかし、ドアを閉めるとき、一言聞こえるか聞こえないかの声で
「お前ならわかるだろ、そんなもん」
といっていたことに、ラムは気付かなかった。




そして、時が流れた・・・。




PART4[地区予選一回戦〜準決勝ハイライト]
あたるは野球部を辞めている時に力を付けてきた竜之介をエースにするか、昨年の大会で大活躍を見せたあたるをエースにするか。
それを確かめるかの如く、親父は一試合ずつ、交代でマウンドに上がらせた。
一回戦 矢ノ丸高校対友引高校。マウンドには竜之介、四回までパーフェクトピッチング。五回、メガネのエラーで、
パーフェクトを逃し、六回には二塁打を打たれるが、好調な打撃陣に7対0と大きくリード、コールド勝ち。

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