時は夢のように・・・。「第二話」 (Page 3)
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 しかし、どこからか視線を感じて、ピクッと身体が固まってしまった。その視線の出所はすぐ分かった。
 唯が茶碗を持って、お箸を唇にあてたまま、じっと俺を見つめていた。
唯「・・・・・。」
あたる「・・・?」
 そうじっくり見られると、ちょっと緊張してしまう。茶碗を置いて、目玉焼きに箸を伸ばした。
 少々ギクシャクしながら目玉焼きを口に入れた。
 まったりとした黄身がなんとも云えなく、口の中に広がる。
あたる「うまいっ!」
 ただの目玉焼きなのに、いつもより美味しく感じられた。ついつい顔がほころんでしまう。
 唯はそんな俺の様子を見て安心したのか、ホッと胸を撫で下ろした。
唯「よかった・・。」
 と、安心して箸を進めるのかと思いきや、今度は母さんに視線を向けた。
 母さんも唯の視線を感じたのか、一瞬身体を硬直させた。
 母さんの次は父さんだった。
 そして、唯の視線がテーブルを一回りする時、今度は唯の身体が硬直した。
唯「!!!」
 唯は完璧にフリーズしてしまった。手から落ちた箸が、カラカラとテーブルの上に転がる。
 固まった唯の視線を追うと、本日は上機嫌なラム。鼻歌まで出ていた。
ラム「〜〜〜〜〜♪」
  まぁ、無理もあるまい。俺達からしてみれば何のことはないのだが、唯からしてみれば、目にした光景は尋常ではなかったのだから。
 なんと、ラムは目玉焼きの皿にタバスコの瓶を垂直に突っ立てていたのだ。もはや目玉焼は見る影もなく、タバスコ90%のスープとなっ
ていて、かろうじて、卵の黄身がタバスコの海に浮かぶ孤島の様に、頭を出していた。
あたる「あっははははは・・・、気にしない気にしない。ラムは俺達と感覚が違うから・・。」
 俺はちょっと焦って場を繕いだ。
ラム「え? あ、これ? はははははっ。気にしなくていいっちゃよ! ウチはちょっと辛党なんだっちゃ。」
 状況に気付いたラムも、皿を指さして焦った風にフォローした。
唯「は、はあ・・。辛党・・ですか。」
 ちょっといぶかしげな表情になる唯。
 ほとんどフォローになっておらんだろが! 状況がどんどん悪くなっていく。とにかく話題をそらさなければ!
あたる「そ・・そうだ! 妹がいるって言ってたよね。いくつなのかな?」
 俺は気恥ずかしいような面映さを感じながらも、唯の目を見て聞いた。
唯「姫(ひめ)っていうの。まだ小学校一年生。両親と一緒にフロリダにいるわ。」
 唯の顔が、少しかげった。
 憂いを帯びた唯の表情は、はかなげで、さっきまでの元気一杯な雰囲気とは、また違った魅力をたたえている。
 彼女に見入っていた俺は、昨夜聞いた唯の事情を思い出していた。
 父親の海外赴任が決まって、彼女の一家は今の家を引き払ってフロリダに引っ越す事になった。だけど、唯は仕事を辞めたくなかったし
、親友達と別れたくなかったから、日本に残りたいと言い出した。可愛い娘だ、当然親御さん達は心配して、一人暮らしをなかなか許して
くれない。でも、彼女の決意は固かった。頑として決心を変えない唯に、最後には、親御さん達がおれてくれた。
 日本残留が決まって、ようやく部屋探しを始めたんだけど、そう都合よく条件の良い部屋なんて見つかるはずもなくて、困っていた。
 そこで相談にのったのが、唯の父親の同僚で親友の、ウチの親父。「娘さんの一人暮らしは、さぞ心配でしょう。家に空いてる部屋があ
るから。」と申し出たのだ。
 ・・・ったく、大事なこと勝手に決めやがって。俺には相談の一つも無し。相談されても反対する訳はないんだが・・。
 ただ一つ納得いかないのは、両親の理屈だ。思いだ出すと腹が立つ。
 なーにが『考えに考え抜いた末、父さん達はお前を信用することにした。信用してはいるが、友人から預かった大切な娘さんだ。くれぐ
れも、軽はずみな行動はしないように。』だ。
 あのなぁ、全然、息子を信用してねーじゃん!
唯「あたるさん。どうかした? 何かおかしなこと言ったかな・・?」
 昨日の事を思い出してるうちに、険しい顔になっていたらしい。俺はあわてて、手を振って唯の心配を打ち消した。
あたる「いやっはははははっ! なんでもないなんでもない! そぉ〜、姫ちゃんって云うのぉ、唯ちゃんに似て可愛いんだろねぇ。」
唯「う〜〜ん、わたしはお母さん似で、妹はお父さん似だから・・。そうね、芸能人で云えば、『モーニング娘。』の・・・加護亜依ちゃ
  んに似てる。」
あたる・ラム「へぇ〜。」
 俺とラムは大きくうなずいた。
 ちょっと間をおいて、ラムが俺のシャツを引っ張って話しかけてきた。
ラム「ねー、ダーリン。」
あたる「なんだよ?」
 耳貸してと言って、ひそひそと耳打ちするラム。
ラム「『モーニング娘。』ってなんだっちゃ?」
あたる「う〜〜〜む・・・。俺にもよー分からん。どうも時代設定がメチャクチャらしいな・・・。」
 え、えーとぉ・・、この辺りあまり深く考えないよーに。(汗)

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