時は夢のように・・・。「第二話」 (Page 4)
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唯「そういえばあたるさんて、あの人に似てる・・。」
あたる「えっ? 誰に似てるの?」
 唯は少し考え込むように顔をしかめた。
唯「・・・名前は忘れちゃったけど、つい最近じゃ『キノコ騒動』の原因を作った、ほら、友引町のお騒がせ高校生よ。」
「・・・・・・・。」
 みんなの箸が同時にピタッと止まり、静けさが茶の間を覆った。
唯「二年くらい前は、地球を侵略しようとした宇宙人と鬼ごっこしてたし・・。あっ、そうそう、『石油の大雨事件』も、原因はあの人だ
  ったわ・・。それから・・・。」
 唯の話はまだ続いているが、ひじょ〜〜〜〜に耳が痛い。いまさら言うまでもないだろうが、唯の述べている人物は他ならぬ俺である。
 人間の記憶というのは残酷なもので、最悪な出来事ほど鮮明に覚えているものだ。唯の話とリンクして、次々と嫌な記憶がよび起され、
それらが重く圧し掛かってくるのだ。
 ふと見れば、父さんと母さんも、うなだれる様に落ち込んでいた。くらーい影が両親を取り巻くのが見える。
 く・・くそぉ〜、悪い状況を打破しようとしたのに、返り討ちにあっちまった・・。
 茶の間の空気が暗く重くなっていくのが目に見えるようだ。しかし、彼女の次の一言で、空気は一変した。
唯「・・・でもね、実はわたし、あの人のファンなの・・。」
あたる「なにっ?!」
ラム「にゃにぃーっ?!」
 この言葉は、俺の心を覆う分厚い雨雲を吹き飛ばしてくれた。嬉しいと言うよりは、衝撃が大きくて思考能力が停止してしまったのだ。
 一方、ガラッと表情が変わって、今にも掴みかかりそうになるラム。ギリギリのところで感情を抑えている感じだ。おっかない・・・。
唯「二人ともあの人と同じ学校だし、ご存知でしょう? だから大きな声じゃ言えないんですけど・・。」
 真っ赤な顔を隠すようにうつむく彼女。
あたる「そぉ〜、ファンなんだぁ。むっふふふふ・・。」
ラム「ダーリン!」
 ラムは目を三角にして俺を睨みつけて、太ももをぎゅーーっとつねった。
 しかし、そんな痛みよりも、俺は唯の話に夢中で内心ドキドキだった。男として、彼女の評価は気になる。
唯「あの人って、ホントは誠実な人だと思うんです。」
 と、ここまでは良かった。
唯「噂で聞くとあの人、すっっっごい女好きで、スケベで、卑しくて、だらしなくて、いつもいつも騒動を起こして・・。人間としては
  ダメ人間ね・・。」
 な・・なんだって? 俺は耳を疑った。あんたなぁ、俺のファンなんだろ? そりゃあ女好きだし、だらしないかもしれない、他の事
も認めるけどさ、でもいくらなんだって、集大成が「ダメ人間」ってのは無いだろ!
唯「あっ、でもそんな所が似てるとかって言うんじゃないのよ。雰囲気。あの人もあたるさんも可愛いから。」
テン「か! 可愛いっ!? このアホが『可愛い』言うんかぁ?!」
 珍しく大人しく食事していたテンが大声を上げ、目を大きく見開いて俺の顔を凝視する。
唯「うん。スケベとかだらしないっていうのは、男の子の可愛いところじゃない? 度が過ぎるのは困るけど・・。あたるさんも、第一
  印象は可愛い感じだったから。そんな所が似てる・・かな?」
 フォローのつもりの唯の言葉は、なおさら衝撃だった。そりゃあ確かに俺は年下だけど、憎からず思っている女性から『可愛い』なんて
言われたくないじゃないか。
唯「あらっ、あたるさん・・・・どうしたの? 気分でも悪いの?」
 うつむいてる俺を心配して、唯が近づいてきた。ショックを受けていた俺は、不意に彼女の顔が間近に迫ってきたので、焦った。
 俺は彼女の対面に座っていたからよく分からなかったが、なんと! 彼女はノーブラだったのだ! Tシャツ着てるから分からんとでも
思っているのか? 動きにあわせて微妙に揺れる胸のふくらみに、目を奪われてしまう。おまけに、サラサラとこぼれ落ちて、俺の頬に触
れる彼女のつややかな髪からはシャンプーの匂いがして、もう我慢出来ない! 頭の中の煩悩メーターの針が振り切れた。
あたる「唯ちゅわぁーーーんっ!!」
唯「!?」
 唯のピンク色の唇めがけフライングアタックするあたる。同時にラムがはじかれる様に飛び出した。
ラム「そうはさせないっちゃ! 天誅っ!!」
 両手をスペシウム光線の構えの様にクロスさせ、電撃を放つ。
 ドバババババババッッ!!!
あたる「あぎゃああぁぁぁっっ!!!」
 急激に失速し、墜落。またもや、こんがりとキツネ色に焼けてしまった。
 唯に会って、これからの生活のキツさを予感したが、早くも現実のものになっていた。

                           *

 食事が終わって、ほっと一息ついた。『親が死んでもごく休み』ってね。
あたる「ねー、唯ちゃん。今日で春休みも終わりなんだからさぁ、どっか行こうよ〜。」
 ジロリとラムに睨まれてしまった。先程の事もあり、ちょっとビビッてしまう。でも、別に唯にちょっかい出している訳ではないのだ。

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