時は夢のように・・・。「第二話」 (Page 6)
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 俺の手を払い除けて、大きく深呼吸するテン。放火が来る!と、ちょっと身構えた。しかし、何を思ったのか、テンは放火を止めた。
テン「ふんっ。ワイも明日から小学生や! お前みたいなアホ相手にせぇへんわいっ!」
 な、なにおぅ! カチンときた。俺がジャリテンに挑発されている! ぬぬぬぬ・・、しかし、それに乗っちまう俺も大人気ない・・。
唯「テンちゃん、明日から小学生なのね・・。」
 優しい眼差しでテンを見て、にこって笑った。テンは真っ赤な顔でふにゃふにゃになってる。
ラム「さぁ、テンちゃん。早く支度するっちゃ。おば様が来ちゃうっちゃよ。」
テン「そやっ! それじゃあ、ワイ、UFO行って支度するさかい。またあとでなぁ〜〜。」
 茶の間の戸窓からパタパタ飛翔し、庭を横切って真っ青な空に消えていった。

                            *
 テンが去って、茶の間がほんの少し静かになった。
唯「さて、後片付けしようかな・・。」
 きりきりと唇を結んで、唯は立ち上がり、腕まくりする。
ラム「あっ、ウチがやるから大丈夫だっちゃよ。」
唯「えっ? でも・・。」
ラム「唯はご飯作ったんだから、片付けはウチにまかせるっちゃ!」
 グーをつくって小さくガッツポーズした。
唯「・・・それじゃあ、お任せしちゃおっかな・・。」
ラム「オッケーだっちゃ♪」
 テキパキと食器を片付け始まるラム。
唯「わたしは、さっさと部屋を片付けちゃいますか! じゃあ、また!」
 唯はくるりと向きを変えて、茶の間の戸を開け、部屋を出ようとした。しかし、「あっ!」と言って、歩みを止めた。
 振り返ると、突然大きな声で、
唯「思い出した!」
あたる「え? なにを?」
ラム「なんだっちゃ?」
 にこーって微笑んだかと思うと、今度は口に手をあててクスクス笑いだした。
唯「さっきの話に出てた、友引町のお騒がせ高校生、名前は『諸星あたる』クンよね!」
「・・・・・・・・・・・」
 茶の間に『ひゅううぅぅ〜〜〜・・。』という風が吹いた感じがした。
唯「・・・・・・え? あ・・あら? う・・そ? まさか? そんなぁっ?!」
 十秒くらい間を空けて、ついに気がついた様だった。俺とラムを交互に指差しながら、口をパクパクさせる。
あたる「はい。諸星あたるですぅ。」
唯「・・・・・・・」
 さぁーっと唯の顔から血の気が下がっていくのが分かった。
 よろよろと後ずさりして、
唯「きゃあきゃあきゃあぁぁーーっっ!!」
 驚いたんだか、嬉しいんだか、恥ずかしいんだか、怖いんだか、悲しいんだか、どれとも云えない悲鳴を上げながら、廊下をダッシュ
し、階段を駆け上がっていった。

                            *
友引公園。
 なんで桜が見たくなったのか、俺には分からない。
 けど、唯が見たいというから、俺たちはその夜、家の近くにある友引公園に彼女と俺とラムの三人で出かけた。テンは夕方お母さんが迎
えに来て、カチコチになりながら母星へと帰っていった。ふんっ。邪魔っかしいヤツがいなくなってせいせいしたわっ!
 公園では、桜並木が見事に咲きそろって、夜の照明を浴びて浮かび上がり、花のトンネルみたいになってる。
唯「まあ・・・・綺麗!!」
 ちらほらと舞い落ちてくる桜の花びらを手に受けて、唯は歓喜をあげた。
唯「素敵! こんな近くに、桜の咲く公園があるなんて。」
 友引公園には、人影はほとんどない。
 近所に住んでる人たちが、勤め帰りに立ち寄って、桜を見上げていくくらいだった。
 夜風に乗って、淡いピンク色の花びらが散っていく。
 季節は春、桜の季節。俺とラムと唯は、ささやかな花見を楽しんだのだった。 
 唯が喜ぶのを見ると、俺もラムも楽しくなる。どうしてだろう?
 彼女の長い髪や華奢な肩に散る、薄紅色の花びら。
 確かに夜の桜はちょっと不思議な感じがする。唯はまるで桜の精みたいだ。
 ・・・・なーんちゃって。そんなこと考えただけで歯が浮いてしまう。
 俺たちは公園のベンチに並んで座り、唯の作ったお握りを食べ、ポットに入れてきたお茶を飲んだ。
 俺やラムの話や、唯の友達の話、学校の話とか、唯の仕事の話で盛り上がった。
 ほんの少し、唯と俺たちの世界が交わった気がした。
 そして、楽しい時間はあっという間に過ぎていった。

                             *
あたるの部屋。
 夜も更けて、遠くで犬が遠吠えしてる。
 明日から四月だというのに、今夜はやけに寒くて、自然に背中が丸くなってしまう。
 俺は机に足を乗せて、椅子に身を任せて寝そべるように腰掛けていた。
あたる「うーーっ寒い寒い!」
 家が古いせいか、それとも電撃や放火等のダメージを受けすぎたのか、どこからともなく隙間風が来て、俺の耳元をくすぐっていった。
 顔がぶるぶる震えて、鳥肌が全身を駆け巡る。
ラム「そんなに寒いっちゃ?」

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