時は夢のように・・・。「第二話」 (Page 5)
Page: 01 02 03 04 05 06 07

 唯はちょっと戸惑っていたが、申し訳なさげな表情で頭を下げた。
唯「ごめんなさい・・。まだ部屋の整理が終わってなくて、今日一日で何とか片付けないといけなくて・・。有休今日までで、明日から仕
  事だし・・。ホントにごめんなさい・・。」
 軽く誘ったつもりだったんだけど、唯のすごく真剣な誤り方に、なんか俺の方が申し訳なくなってしまう。
あたる「いやいや、いいんだよ。」
 いつもの俺ならば、ここで諦めずにもう一押し二押しするところだが、なぜか心の中でブレーキがかかった。
 実は昨日から気になっているんだが、彼女には不思議な力があるのだ。自慢じゃないが、俺は世界一、いや、宇宙一のプレーボーイだ。
その俺が、彼女の前に出ると、なぜか『真骨頂』が出せない! 彼女の全身を覆う不思議なオーラによって、俺の最強であるはずの煩悩
が萎縮してしまうのだ。くそっ! この諸星あたる様が翻弄されっぱなしではないか・・!
 なんて考えてて茫然自失になっていたら、ラムが思い立った様に話し出した。
ラム「そういえば、唯って、どんな仕事してるっちゃ?」
母「そういえば、聞いてなかったわね・・。」
 みんなが唯の顔を見る。
唯「わ・・わたしの仕事ですか? えと、まだまだ未熟ですけど、一応、『ウェディングプランナー』の仕事をしてます・・。」
ラム「ウェディングプランナー?」
 きょとんとした表情のラム。
 唯の方は、最初は恥ずかしそうだったが、話してるうちにだんだんと目が輝きだして、あふれんばかりのニコニコ顔だ。
唯「この仕事が憧れだったんです。憧れだった職業に就けるなんて、ホント夢のよう! もう嬉しくて嬉しくて内定が決まった夜は一睡
  も出来なかったくらい!」
ラム「へーっ、すごいっちゃね! ・・・ところでぇ、『ウェディングプランナー』ってなんだっちゃ?」
 ちょっと勢いをそがれてしまった唯、「あははははは・・。」と、から笑いした。
唯「え・・えっとぉ、『ウェディングプランナー』っていうのは、早い話が『結婚式のプロデューサー』でね。結婚する二人の心に、
  とっても素敵な思い出が残るように、結婚式を計画したり準備したりする人たちの事よ。すっごく大雑把な説明だけど・・・。」
 微笑みながらゆっくりと説明してくれた。ちゃんと理解しているのか分からんが、うんうんと頷きながら聞くラム。
ラム「とってもロマンチックなお仕事だっちゃ・・。」
 ほんの少し、勘違いしているのかな・・? ほんのりと頬を赤らめたラム。正直、そんな顔したラムは結構可愛い・・。
唯「そうかなぁ? それをしてるわたし達にしてみれば、とっても大変なお仕事なのよぉ。」
 ちょっぴりふくれっつらになる唯。男心を微妙にくすぐる仕草だ。
 話が切れると、両手で湯のみを取り口をつけて、ほっとため息をついた。そして、少し寂しそうにつぶやいた。
唯「社会人になってもう一年か・・。また桜の季節が訪れて・・・なんだか急に、桜が見たくなっちゃった。」
あたる「見に行こうか。」
唯「えっ? でも・・。」
ラム「聞いてなかったのけ? 今日、唯は引越しの片付けをしなくちゃいけないって・・!」
あたる「だから、昼間じゃなくて、夜だよ。夜!」
 ラムと唯が目をパチクリさせて見あった。
あたる「夜には片付け終わるでしょ? そしたらさぁ、友引公園行こうよ、桜が咲いてる所があるよ。桜の樹の数はそんなに多くないけ
    どさ。夜桜ってのもなかなかオツなもんじゃござんせんか。」
唯「本当ー? 嬉しい、準備するわ! 片付けもちゃっちゃっと終わらせちゃう。おにぎり作って、お茶も持っていきましょ!」
テン「ほんまかぁ! 花見やぁ花見やぁーっ♪」
 ポンポンと弾むようにジャンプしながら大喜びするテン。
ラム「あっ、そうそう。テンちゃん! 昨日おば様から連絡があって、今日、テンちゃんを迎えに来るって言ってたっちゃ。」
テン「えーっ!? お・・おかあはんが来るんかぁ?!」
 とたんに顔色が悪くなって、カチコチに固まるテン。
ラム「明日は小学校の入学式だっちゃよ。」
テン「そ・・そやったぁ〜〜・・。」
 力が抜ける様に、よろよろと床に着地した。
あたる「あっ! ジャリテンのお母さんだっ!」
 窓の外を指差して大声で叫ぶ。
テン「いぃっ!? お、おかあはん。元気にしてはりましたか? ぼ、僕は良い子にしてますぅ。」
 急にシャキっと背筋を伸ばして、まるで作文を読んでいるみたいに喋りだした。こいつ母親にはてんで弱いんでやんの。からかい甲斐が
あるよホント。
あたる「あっはっはっはっは! こいつホント面白いよなぁ。テンちゃんは良い子だもんなぁっ!」
 テンの頭をグシャグシャと力いっぱい撫で圧した。さすがにこれには頭にきたらしい。
テン「よぉもよぉも・・。馬鹿にしてくれたなぁっ! もぉ我慢の限界やぁっっ!!」

Page 4 Page 6
戻る
Page: 01 02 03 04 05 06 07