高校野球編:最初の夏・最後の夏(後) (Page 3)
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あたるはマウンドの上でロジンバッグを右の手の上で転がした。
(黒川さん、俺が甲子園に連れて行くこと・・・、許してください)
そして手汗をある程度取れたところでぽとんと落とした。
(行くぞ、コースケ!行くぜ、ラム!!)
そう心の中で叫んだのがコースケとラム、ルパに聞こえた様な気がした。
バンッ!バンッ!バンッ!!
「ストライーク!バッターアウト!!」
『ひゃ、152q!?何と、友引高校の諸星!152qを記録しました!!』
急に変わったあたるの球に彰は反応した。その様子を見ていた一刻商の監督は彰に尋ねた。
「どうした、黒川?」
「いや・・・、諸星さんの球が前の回と違う様な気がして・・・」
「は・・・?何をバカなこと言っとるんだ?」
「・・・」
彰は再びあたるの立つマウンドを見た。それに釣られる様に監督もその姿を見る。
「ストライク!バッターアウト!」
大きく振ったバットが空を切ったのが見えた。
「え・・・?」
一刻商の監督が思わず声を上げる。再び三球三振なのだ。
「でしょ?」
一区商の監督は今だ驚いていた。
キン!
バットのあたる音がしたが、ほとんど真上だ。キャッチャーフライとしてコースケが確実にミットに納めた。
『キャッチャーの白井、しっかりとキャッチしてアウト。チェンジです。何とこの回、三叉凡退です。人が変わったかの様に諸星の
 球が良くなりました。一刻商手も足も出ません』
あたるはコースケがボールを取ったのを見ると足早にベンチに戻っていった。その際、ちらっと彰を見てみた。
向こうもこっちを見ている。何か笑っている様にも見えた。
「さあ、熱中高校野球の始まりだ!」
あたるはぱんぱんと手を叩いてナインを盛り上げた。
「七回の裏、友引高校の攻撃は八番、サード上谷君」
「よ〜し・・・」
パーマはバッターボックスの横で大きく素振りをしてバッターボックスに入った。
そして、大山を見る。
(来い!)
早速彼らしい速球が飛んできた。ボールかストライクか微妙な球だ。ボールが来るまでにパーマの頭の中では打つか打たぬかの判断が
目にもとまらぬ勢いで決められていた。結果は・・・。
(打つ!スライダーだ!!)
パーマの予想通りだった。球は急激に方向を変えパーマの振ったバットに自ら突っ込んでくる様な形になった。
キン!!
ボールは大きな音を立てながら高速で跳ね返った。ちょうどサード左横だ。
『これはいい当たりだ!!』
しかし、サードは彰だ。もの凄いジャンプ力で彰のグラブにボールが突っ込んだ。彰の立っていた所にはジャンプで蹴った土がぐちゃぐちゃになっていた。
「アウト!」
『ファインプレー!!サード黒川、もの凄い力を見せつけてくれました!!打ってはホームラン、守ってはスーパーキャッチ!!』
「くそ〜」
ずるずるバットを引きずりながらベンチにパーマにすれ違いざまにチビが言った。
「惜しかったな!」
「くそ〜」
チビに返事をせず、未だぼやいていた。その姿を見送って自らもバッターボックスに立った。
「九番、ライト、小山内くん」
「お〜し」
バン!「ストライーク」バン!「ボール!」キン!
『あ〜っと、小山内打ち上げてしまいました。ボールはふらふらっとライトへ・・・』
しかし、ボールが落ち始めたのはちょうどセカンドとライト、ファーストのちょうどど真ん中に落ちていった。
『これは、面白い球だ』
セカンド、ライト、ファーストは誰かが手を出すと思い、誰も取らなかった。ポンと天然芝の上に白球が落ちた。
『あっと、誰も取らない!友引高校、意外なところでランナーを出しました。しかも、次はセンター藤波です!』
「よ〜うし」
竜之介はバットを強く握った。
キン!
音は小さかった。ボールは高くバウンドした。それを見た竜之介はすかさずダッシュする。チビも二塁へ走り始めた。
『当たりは弱いですが、高いバウンドです!』
彰はボール落下地点でまで走り込み、その勢いを付けたまま一瞬、二塁へ送球しようとしたが間に合わないと思い一塁へ投げた。
『サード黒川ボールをキャッチして一塁へ送球!』
竜之介もヘッドスライディングをして見せた。しかし、一瞬遅かった。
『ぎりぎりのところでアウト!しかし、小山内を二塁へ進塁させました!得点圏内にランナーが入ります!』
「二番、ショート、因幡君」
因幡は緊張感のない顔でバッターボックスに立った。とろりとした顔には大山も気が抜けてしまった。
しかし、軽く溜息をついてボールを投げた瞬間、因幡の目が変わり、多少なり恐怖すら覚えた。
投げる途中のことだったので少し戸惑いを隠せず、ボールは大きく外側に外れた。
しかし一刻商キャッチャーは何とかそれを取って見せた。
(なんだ、いまの・・・)
帰ってきたボールを取るとマウンドの土を蹴りながら、大山の顔に焦りの表情が見えた。

友引ベンチ
「珍しく因幡が燃えとるな〜」
「わかるんですか?」
親父がぼやいたのを聞き、メガネがそれを聞き返した。

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