高校野球編:最初の夏・最後の夏(後) (Page 5)
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あたるは心配そうに言った。コースケは少し口を堅く閉じたが、それでも軽い笑顔を作って見せた。
「安心しろ、今の所は痛みもなんにもない・・・」
コースケはあたるの右肩を手でポンと叩くと、そのまま歩いていった。あたるは後を振り返って、コースケの背中を見たが、何も感じ取れなかった。
「今の所は・・・」(コースケ)
コースケは歩きながら、右足の膝のを少し触った。別にこれと言った痛みや腫れもない。ただ、少し違和感があり、それがコースケの心に不安の二文字を焼き付けた。
「やっぱりあたるの球は凄いな・・・」
コースケは違和感のある右膝をちらっと見ながら、主審の前でコースケはそう呟いた。
主審にはどう聞こえたか分からなかったが、何か不思議な表情をしていた。
(どうしたんだ、コースケのやつ・・・)
あたるはボールを右手の中で踊らせて、投げるタイミングを合わしていた。
「よし、行ってみるか!」
一刻商のバッターの九番・大山にボールを投げた。弾丸のような球はそのピッチャーの大山でも驚いた。ど真ん中ながら大きな衝撃音が聞こえた。
その球を横目でちらっと見るが、直ぐに別のことで気を逸らされた。
「く〜っ・・・」
コースケがうなりを上げているのだ。
「どうした、君?」
審判が声をかけるが、コースケが心配ないと言って、ボールをあたるに投げかえした。その様子をあたるも見ていた。
「・・・」
あたるはボールをキャッチしながら少し考え事をしていた。
(なにかあったのか、あいつ・・・)
ベンチの親父も、コースケを見ることの出来る内野も何か不思議な表情で、コースケを見ていたが、何事もなかったかのような表情に少し安心した。
しかし、あたるは違った。だてに何年もコースケと組んでいたわけではない。
(あの、くそったれ!)
あたるはちらっとベンチをみて、親父と目を合わせた。親父もあたるが何を言っているのか何となく分かった。しかし、あえて動かなかった。
(いいんですか?コースケは多分怪我をしていますよ)(あたる)
(お前の球を受けられんのはコースケぐらいなのはお前も知っとるやろ?それに止めて止まるようなあいつじゃあらへん)
(それを止めるのが監督の仕事の一つでしょう!?)
(いいから、行かせてやれ・・・)
(知りませんよ・・・)
あたるは少しふてくされた表情をした。


友引ベンチ
「何話してたっちゃ?」
ラムが言った。
「ん?」
親父は何のことか分からなかった。普通他人に目で話しているなんてわからない。
「ダーリンと目で話ししてたんじゃないのけ?」
「お前も、すごいやっちゃな〜・・・。実はなコースケがもしかしたら怪我しとるかもしれんねん」
ラムは表情を変えなかった。
「でも、あえて代えない・・・、違うっちゃ?」
「・・・」
親父は少しぽかんとした顔を見せてから、一瞬我を忘れていた。
「あ、ああ・・・。なんで、分かった?」
「そんな気がしただけ・・・、それだけだっちゃ・・・」
あたるが相手から三振を取った。これで三個のバットが同じ場所で同じように空を切った。
『三者連続三振!もの凄い!諸星!前の回からの人が変わったかのような内容で七回の表を終わりました!しかし、現在リードしているのは一刻商!
 この遠い一点を超えることは出来るでしょうか!?』
マウンドを降り、いざベンチに戻ろうとするとコースケの背中が見えて、あたるは軽い怒りの表情を見せた。
「おいこら、コースケ!」
あたるはふてくされた顔をしていた。
「なんだよ」
「『なんだよ?』もくそもあるか!お前怪我しとるだろう?」
コースケはしかめた顔をした。あたるは図星だと思って、表情には出さなかったが得意げな笑いを心の中で上げていた。
「・・・。バカも休み休み言え!俺が今まで怪我したことあったか?」
しかめた表情を少し続けた後、コースケは反論の言葉を口に出した。
「今、してるだろう?一回の表でバウンドしたボールが足に直撃して・・・」
「なんてことねえよ」
「バカ野郎!お前は主砲だろうが!もし、これ以上悪化して野球出来なくなったらどうする!?甲子園で勝ち上がるにはお前が必要なんだよ!」
「・・・いいじゃないか・・・」
コースケは簡単に溜息をついた後、そう答えた。
「あー!?」
あたるは前屈みになって少し下を向いているコースケの表情を伺った。
「偶には俺も格好いいところ見せてみたいんだよ・・・」
「だれに!?」
コースケはちらっとベンチを見た。しかし、直ぐに目をそらして少量の雲が流れる快晴の空を見上げた。
「さあ・・・」
コースケがちらっと自分を見るのをラムは分かった。その目には何を意味するのか、わからなかった。
「いてえよ・・・」
「あん?」
「ずっと・・・、いてえよ・・・」
「なんだ?さっきから痛かったのか?」
しかしコースケは返事をすることもなく笑って見せた。その表情にあたるはもう何も言う気が失せた。
「仕方ないか・・・。でも、球のスピードは緩めないぜ」
「ラジャー」
「三番、ピッチャー、諸星君」

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