時は夢のように・・・。「第三話(其の壱)」 (Page 2)
Page: 01 02 03 04 05 06 07 08

 ちょっとキツメだったけど、ヘルメットをかぶり、唯の後ろにまたがった。
 フルフェイスのヘルメットだから仕方ないが、周りの音がほとんど聞こえない。と、思いきや、
 『もしもし、聞こえる?』
 どういうわけか、圧迫されている耳元で唯の声がハッキリ聞こえた。
あたる「えっ? 唯ちゃん? どうして唯ちゃんの声だけがこんなにハッキリ聞こえるの?」
唯「へへへーっ、実はヘルメットの中に小型の特殊マイクとスピーカーを仕込んであるのだ。」
 ワンパクぶった口調で、誇らしげに胸を張った。
あたる「そ、そう・・、でも、急いでもらえると嬉しいんだけど・・。」
唯「オッケー♪ じゃあ、シートベルトしてくれるかな。」
あたる「は? シートベルト? バイクに?」
 唯のバイクはどこか普通ではなかった。シートベルトは付いてるし、やけにメーターやらスイッチが多くて、まるで飛行機のコックピ
ットの様だ。
 ハンドルの中央には色んなメーターがあって、メーターのカバーをパカっと開けるとスイッチがいくつか現れた。
 まず一つ目のスイッチをONにすると、バイクのボディの幅が大きくなって、後方からは小さなスポイラー(ウイング)が出てきた。
 二つ目のスイッチを入れると、ホイールの幅が大きくなって、タイヤが太くなった。
唯「このメーターに気をつけて。このメーターの針が±0から上に回る時、グンっとスピードが上がるから。」
 小さなメーターを指差しながら話す唯。
あたる「何のメーター?」
唯「ターボメーターよ♪」
あたる「ちょっと待ってよ! 何でバイクにターボが付いてんの?!」
唯「えへへ・・。」
 俺を見て微笑んでキーをONに回し、エンジンをかけた。

 ブォオォォーーンッッ!!! ウオォォン!!!

 2・3回アクセルを回し空ぶかしすると、近所迷惑な爆音が響く。
 そして最後のスイッチを入れると、「ヒュゥーン」という音と共に、唯の言った小さなメーターの針が±0から−0.5に落ちた。
唯「ヘッドホンで音楽かけてもいいかな?」
あたる「そんな事より、あのぉ、急いでくれない?」
 時間は5分も無い。もうダメだ・・。遅刻は決定か・・。
唯「シートベルト締めてる? しっかり掴まっててね。」
あたる「大丈夫!」
 唯の腰に手を回すと、今にも折れてしまいそうなくらい細くて、ちょっと驚いてしまった。
 とは言っても、べつに痩せているわけではなくて、スタイルが良いんだと思う。
あたる「(くそっ、このヘルメットがなけりゃ・・。)」
 華奢な背中にスリスリしたいという衝動が込み上げてくるのを必死に堪える。
 煩悩が活発に動き出し、頭の中が妄想でいっぱいになるまで、5秒もかからなかった。
 フルフェイスで顔が隠れてたから分からないだろうけど、ヘルメットの下では、きっと見られた顔じゃなかったと思う。
唯「じゃあ、出発進行っ!」
 腕時計のストップウォッチのタイマーを押して、アクセルを回す。

 ギギャギャギャギャギャッッ!!!

あたる「どわあぁっ!?」
 不意に急発進したもんだから、衝撃で首が変な風に曲がってしまった。
 唯のバイクの加速は凄まじく、メーターはすぐに100kmを越えた。アクセルをさらに開ける。
 猛烈なGで、俺は振り飛ばされそうになりながらも、両腕と両膝に力を入れる。
唯「近道教えて!」
あたる「じゃ、じゃあ、たばこ屋の角を右に!」
 コーナーはあっという間に近づいてきた、ブレーキングで減速するけど100kmは切れていない。
 そんなスピードでコーナーに突っ込んだら間違いなくすっ飛ぶ。
 ギャギャギャギャッッ!!!
 後輪が滑った。
あたる「や、やばっ!!」
 唯は瞬時にカウンターをあてる。アクセルを数回まわして体勢を維持しつつコーナーの出口にバイクをスライドさせる。
 コーナーの出口にさしかかると体勢を立て直し、一気にアクセル全開。メーターの針は一気に180kmまで跳ね上がった。
あたる「た・・助かった!」
 涙がちょちょぎれそうになる。
唯「そう簡単に転んだりしないから安心して。このバイク前輪も駆動してるから、後輪が滑っても大丈夫♪」
 常識というものを完全に無視しとる・・。
 こんなスピードで転んだら絶対死んじまうぞ。だけど唯は顔色ひとつ変えない。それどころか楽しんでいる様で、なおもアクセルを
回す。急なコーナーを次々とかわし、車や歩行者を神業の様に避ける度、音楽に合わせて上機嫌な鼻歌がヘッドホンから聞こえてくる。
唯「ん〜〜・・。のんびりしてたらホントに遅刻しちゃうわね。」
あたる「えぇっ?」
唯「あたるさん、ヘルメットのバイザーを閉めて。ギア比を加速モードにしてとばすから。」
 ガチッという音と共に身体にGが襲いかかった。そこいらのジェットコースターなんてぜんぜんメじゃない。
 そしてあの小さなメーターが±0から+0.5、+1.0に回ると、さらに強烈なGが身体に乗っかってきた。
 その時、スピードは実に、250kmを超えていた!

Page 1 Page 3
戻る
Page: 01 02 03 04 05 06 07 08