時は夢のように・・・。「第三話(其の壱)」 (Page 5)
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あたる「だからさっきも言ったように! 手を出せんのだ!」
 面堂のヤツ、この話に人一倍のめり込んで熱くなってたくせに、今度はいち早く脱して冷めちまいやがって、鼻で笑いやがる。
 こ、このヤロウ・・。デコに青筋が出てきたが、ぐっとこらえた。
 商店街の中ほどの喫茶店の向かいを通りかかった時だ。喫茶店の入り口でたたずんでいた女の子が、こっちを見て、手を振った。
「パーマく〜ん!」
あたる「あの娘、パーマの彼女のミキちゃんっていう・・。待ち合わせてたのか。」
 パーマが掃除を早く終わらそうってったの、このせいか。
 ミキちゃんは、以前、ラムと初めてデートしてる時に出会ったんだ。ミキちゃんとパーマも初めてのデートだった。
 ラム親衛隊のパーマがメガネに内緒で付き合っている。メガネにバレた日にゃ豪いことになるだろうに・・。
あたる「いい度胸してるよなぁ、パーマ。メガネに会わない様に気を付けろよ。」
パーマ「前にも言ったろぉ、それとこれとは話が別だって。じゃあラムさん、また明日っ!」
ラム「バイバ〜〜イ♪」
 道路を渡ってミキのもとへと駆けていった。あいつめ、俺と面堂には目もくれなかった・・。
面堂「では、ラムさん、僕もここで・・。」
あたる「なんだ、面堂。お前にゃ彼女はいないだろ?」
面堂「この場で切り捨ててもかまわんのだぞ、諸星。」
 剣の鞘から刃をちらつかせて、俺を冷ややかな眼差しで睨みつけた。
ラム「終太郎。ウチらと一緒にどっかでお茶するっちゃ。」
あたる「そうだよ、面堂。一緒にお茶しようじゃないか。」
面堂「ラムさん、誘ってくださるのは光栄なのですが・・・すみません。諸星、貴様が言いたいのは、『奢ってくれ』だろ?」
あたる「さっすが面堂クン。分かってるね〜〜♪」
 言い終わった瞬間、俺の目の前には鈍く光る刀身が突き付けられていた。
面堂「残念だが、これから僕は面堂家の代表として、各界の代表が集まる食事会に出席せねばならないのだ。」
 俺を一睨みして刀を鞘に納める。それを見計らったように、俺たちの後方からピカピカに磨き上げられた黒塗りのベンツが現れ、
俺たちの真横に止まった。颯爽と運転手の黒メガネが降りてきて、後部座席のドアを開けた。
黒メガネ「遅れて申し訳ございません。」
面堂「かまわん。」
 面堂が車に乗り込むと、黒メガネは静かにドアを閉めた。そしてまた颯爽と運転席に戻っていった。
 スモーク張りの窓が開いて面堂が顔を出した。
面堂「そういう理由ですので、ラムさん・・。」
 少々申し訳なさげな表情で頭を下げる。
ラム「いいっちゃよ、気にしないで。」
あたる「行っちまえ行っちまえ。どいつもこいつも付き合いの悪い・・。」
 ってな具合にぶーたれた俺を、またしても面堂が睨みつけた。
面堂「では、ラムさん、明日学校で・・。」
ラム「さよなら〜〜だっちゃ。」
 車は静かに走り出して、交差点を右折していった。
 くっそ〜、面堂のヤロウ・・。捻じ曲がった性格はいつまでたっても治らん様だな。
あたる「ふんっ。あの守銭奴は男には奢らんのだったな。筋金入りの女ったらしだよな。まったく!」
 小さな声で言ったつもりだったのだが、あいつには聞こえていたらしくて、すごく遠くの方で、面堂の叫び声が聞こえた。
「なんだとぉおぉぉぉっっ!!!」
 曲がっていった角から、面堂の車がすごい勢いでバックしてきて目の前で急停車した。すると車が止まるより早く面堂が飛び出してき
たのだ。
面堂「もぉろぉぼぉしぃ〜〜っっ!!」
 目をつりあがらせて再び登場した面堂。鞘から刀を抜き、鞘を投げ捨てた。
あたる「よ、よおっ、面堂。どうかしたのか? やけに興奮してるじゃないか? 男前が台無しだよ?」
 一歩二歩と後ずさって間合いを計りつつ、猛獣をなだめる様に語りかけるのだが、今の面堂には全く聞こえていないみたいだ。
面堂「この僕を愚弄するとはいい度胸だな・・。そこになおれぇーっっ!! 刀の錆びにしてくれるわぁっっ!!」
あたる「お、落ち着けって面堂。」
 ズバッと俺の目の前数センチを刃が通り抜けると、前髪が数本パラパラと落ちていった。
 いかん、完全に我を忘れとる。
面堂「次はその首だぁ〜〜。」
 目が完全にイッちまってる。今日は面堂のヤツ、挑発にのってこないからと調子に乗って馬鹿にしてたけど、ここにきてストレスが爆
発したらしい。
あたる「待て面堂っ。話を聞けっ!」
面堂「聞く耳持たんわっ! 死ねぇーーっっ!!」
 刀を頭上高く突き上げた。瞬間。
 ドガシャーーーーンンッ!!!
面堂「のわあぁぁーーっっ!!!」
 けたたましい音と共に、落雷が刀に命中したのだ。
 真っ黒になった面堂が、ばったりと倒れこんだ。
ラム「終太郎! ダーリンに手を出したら、ウチが許さないっちゃよ!」
面堂「ら・・ラム・・ひゃん・・。」
 ガクっと気絶してしまった。
 するとまたしても黒メガネが車から颯爽と降りてきて、面堂を抱きかかえると、ぽいっと後部座席に放り込んだ。

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