高校野球編:夢の場所・元の場所(後編・最終話) (Page 8)
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お互いを良きライバルと認め、ここまで来るのに両者とも違う苦しみを味わっていた。それが今終わりを告げる。長い長い三年間に終止符を打つときが来た。
風が吹き、太陽の光が降り注ぎ、汗が垂れ落ちる。あたるはその汗を手の甲で吹いた。投げる先はコースケのキャッチャーミットのみ。
そのコースケはやはりラムに惚れていた。それでもあたるとラムの仲を裂こうとは思わない。2人が幸せで在れば、自分は陰にでも何にでもなる覚悟だった。
ただ、彼は確認した。甲子園に来る新幹線の中で。
「あたる、忘れるな。俺はラムちゃんに惚れている」
周りが騒がしく、トランプやこっそり持ってきたゲームで遊んでいる中、この2人は静かに会話をしていた。ラムはあたるの肩に頭を置いて、寝ている。
「ああ、知っている・・・。俺とラムの不仲を望むか?」
「いいや、幸せになって欲しいよ。ただ、甲子園に行って、プロ野球にスカウトされたとしても、ラムちゃんだけは忘れるな」
あたるは一度、コースケの横顔を見て、彼の本心を悟った。叶わなかった夢を叶えても、かなえる前の出来事は忘れてはならない。
甲子園に着いたとしても、友引高校を忘れては行けない。結局彼らの帰るべき場所は一つしかないのだ。
「甲子園が終わったら、受験勉強でもやるか、ラム・・・」
あたるはラムに静かに言った。

風は止み、静かに手の中のボールを見た。夢の甲子園で最後の時が来た。
『諸星、第一球を・・・、投げたァ!!』
この日の甲子園は、五万人を超える大観衆は運命と高校野球の歴史の瞬間を目の前にしていた。

〜終〜




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