時は夢のように・・・。「第6話〜心と心は・・・。」 (Page 1)
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 時は夢のように・・・。
 第六話『心と心は・・・。』

あたる「・・・ん・・。今・・何時だ・・?」
 どこまでも見えそうなくらい真っ青な五月晴れ。五月中旬の朝。
 俺の意識はものすごく深い所から目覚めた。
 布団の中からもぞもぞと手を伸ばして、時計を取って目の前にかざす。
 時計の針は、八時を少し回ったところ。
 見間違いじゃないかと思って、目を疑った。
 は・・・八時だとぉっ!
 学校の始業時間は八時半。
あたる「やばいっ、遅刻しちまうっ。」
 手際良く(?)一瞬でパジャマを脱ぐと、Tシャツと制服を引っ掴んで、着替えながら階段を駆け下りる。
 悠長に朝飯を食ってる暇なんて無い。
 靴紐を結ぶ手ももどかしく、玄関の戸を開けるなりダッシュする。
 その時、背後から声が聞こえた。
母「あたるっ、コレ食べなっ!」
 『ビュッ』と切れのいいモノが俺に向かって投げられた。
 こんがりといい感じに焼けたトーストだった。バターも塗られてる。
あたる「サンキューっ、母さんっ。」
 俺はトーストを頬張りながら、学校まで必死に駆けた。

                             *
 ラムたちの京都旅行から、半月が過ぎた。
 五月も半ば、街は初夏の気配でほのかに包まれていた。空が青く、高くて、日々木々の緑が色濃く力強さを増していく。木の葉をを揺ら
す風が、少しだけ優しく感じられてきていた。
 月末に、沙織ちゃんがやってるテニスの試合があるとかで、唯も練習に付き合わされて、早朝練習によく出かける。
 近づいてきた試験に備えて、UFOで勉強しているラムとも、あまり会っていない。
 そのせいで、このところすれ違いが多くなってきた。確かに、大学受験は無視できない難関だ。たまにラムと顔を合わせても、上の空だ
ったりする。最近、二人とまともに会話をしていない。
 なんとなく、二人の元気が無いような気がする。なにかあったんだろうか・・。
 俺は、唯の部屋で見かけた家族の写真のことを、ふと思い出した。
 彼女の両親と妹は、フロリダにいる。
 家族と離れて暮らすのは初めてだって言ってた。きっとすごく心細くて、寂しいだろう。
 俺にはどうする事もできないのか・・・?
 ラムもラムで、最近、根つめて勉強に勤しんでいる。たまに難しい顔して考えこんでたり、やけにイラついたりしてるし・・。
 ホント、二人ともどうしたんだろ?
 その日の放課後、俺はこの悩みを面堂達に打ち明けた。
あたる「・・・・ってワケなんだ。二人ともどうかしてるだろ?」
面堂「ふぅーん。そうだな、五月病ってやつかな。面堂邸の新人社員とかだと、新しい環境に慣れてきた頃、ちょうど五月頃になるが、
   身体の不調や精神的な疲れが出たりするっていうからな。じゃなければ、ホームシックかもしれんな。躾の厳しい、いい家庭のお嬢
   様なんだろ?」
あたる「そうか。もしだが、もしかしてなにかすごく深い悩みとかあるんじゃないかな? 身体の不調ってのはどういうふうに出るんだ? 
    なあ、面堂、どう思う?」
面堂「どう思うもナニも、おまえな。この・・・妄想権化の低脳男。」
 俺と机を向かい合わせて座っている面堂は、俺の気も知れず、ずけずけとあくたいをついた。
 カチンときて、木槌を構えた。だけど面堂は涼やかな顔をして話しを続ける。
面堂「貴様、今の状況わかってるのか? 来週から中間テストだぞ。この僕が貴様の苦手な所を見てやってるんだ、しつこくつきまとって
   『教えてくれ教えてくれ』ってせがむから、こうして付き合ってやってるのに。ラムさんや唯さんの心配もいいが、自分のことをち
   ゃんとしてからにしろ。そうでなきゃ、二人に捨てられてしまうぞ。それから、パーマ! さっきから黙ってるが、なにか質問はない
   のか?」
パーマ「それがよ・・・分かんねぇところばっかりでよ。どうすりゃいいのか、分かんねぇ!」
面堂「きっぱり言い切るんじゃないよ・・・。」
 面堂はがっくりと肩を落として、溜め息混じりにつぶやく。
 顔を上げて辺りに目配せすると、愛刀を床にガツンと突き立てた。がらんとした放課後の教室に、五人ばかりの男子生徒が残って、物理
の教科書とノートを睨んでる。俺とパーマとメガネ達だ。
面堂「それで、他の三人は、質問はないのか? なければ先に進むぞ。ここまでして追試を受ける羽目になっても、泣きつくなよ。」
チビ「そんなぁ。何を聞いたらいいのか分かんないんだよぉ〜〜。」
 パーマの隣の席に座っていたチビが、情けない声をあげた。
 これは、放課後の自主的な勉強だ。
 俺たち、成績のよろしくないメンツが揃って、放課後に机を突き合せて勉強してる。
 一人だけ抜きん出て頭のいいヤツが、みんなの相談にのってる・・・そんな状態だ。もちろん、頭のいいヤツってのは面堂のことだ。

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