友引町に哀しみの雨が降る (Page 2)
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それを受けて了子は泣き声で、
「な、なによっ!顔をぶつことないでしょっ!私は女なのよ!!
それになによ!二言目には子供、子供って!!私はお兄様が思っているほど子供じゃないわ!!大人よ!
私にだってプライバシーの権利があるのよ!秘密を持って何が悪いのよ!?誰と出かけようと私の自由でしょ!?
いくら兄だからといって、妹の私生活のことを根掘り葉掘り聞く権利なんてないわ!
それとも、そんなに私のことが信用できないの!?実の妹に頭から疑って接するなんて・・・
お兄様のいじわるーっ!!うわあああ・・・!」
とぶたれた頬を押さえながら涙声でヒステリックに叫んだ。その直後部屋を飛び出してしまった。
「待てっ、了子っ!!」
面堂がそう叫んだ矢先、足元に何かが多数転がってきた。その瞬間、すごい爆発が起こった。それは手榴弾だった。
了子は普段は面堂家の令嬢として、大変上品な振る舞いをしているのだ。身内の者に対しても、もちろん兄に対しても。
もちろん言葉遣いも丁寧な彼女だが、このときばかりは感情に支配されていた。兄に標準語で話しかけていたのが証拠だ。
よほど悲しかったのだろう。信じてもらえなかったことが・・・多分。
「りょ・・・了・・・子・・・あの・・・馬鹿・・・者・・・が・・・」
ヘロヘロの口調でそう言ったあと、面堂はその場で気絶した。
別に面堂は、了子を詰問していじめてやろうという気持ちで尋ねたわけではない。
ただ、兄として、帰りが遅いのが純粋に心配だっただけだ。ちょっとシスコンっぽい嫌いはあるが。
面堂はその気持ちが了子に届かなかったことが悔しかった。
彼はただ、窓の外をじっと見つめていた。外は雨が降っていた。その時、玄関のほうで、
「お待ちください!了子お嬢様!!考え直してください!」
そう了子の腕を掴み説得する黒子達の言葉に耳も貸さず、
「どきなさい!私はこの家を出ます!!離して・・・!!」
と言って聞かない了子の姿が見えた。了子は黒子の手を払い、スーツケースを携え、面堂邸を飛び出してしまった。
面堂はあとを追おうかと思ったが、やめた。放っておいてもすぐ帰るだろうとこのとき思っていた。
さて、雨の降る中意気揚々と飛び出したのはいいものの、了子はどこに行けばよいのか分からなかった。
友人の家にやっかいになろうかと思ったがやめた。自分の友人の両親はみな何らかの形で自分の両親と繋がっている。
たとえ友人がかくまってくれたとしても、いずれはその友人の両親の知るところとなり、彼らによって家に報告される。
そうなれば、兄の耳にも当然その情報が入り、兄はあの手この手を使って私を連れ戻そうとするに違いない・・・
そうなれば力ずくでも抵抗するまでだが、できれば自分がどこにいるのかをしばらくは知られたくない・・・
そうなると、兄が容易に思いつくようなところは避けなければならない。たとえば、諸星様の家のように・・・
しかし、そんなところはどこにあるの・・・?
そんなことを了子が頭の中で考えていると、
「ん、オヌシ・・・面堂の妹の・・・了子ではないか。何をやっておるのじゃ?こんな雨の夜更けに」
と、たまたまそこを通りかかったサクラが話しかけてきた。
どうしてこんな時間にこんなところで・・・2人の目は互いにそう言っていた。
了子はこれを奇貨として、
(そうだわ。この方のところならバレる心配は・・・)
と思い、サクラに向かって思い詰めた様子で、
「お願いです!しばらくの間で結構です。サクラ様のご自宅に私をかくまっていただけませんか?」
と申し出た。
あまりに突然の彼女の申し出に、サクラは当惑し、
「オヌシ、一体何があったのじゃ?どうしてそのようなことを?」
と答えるしかなかった。本来なら、子供の外出する時間じゃない、とっとと帰宅しろと言うところだが。
理由を問い正された了子は、ただうつむいて黙っていた。その様子にただならぬものを感じたサクラは、
「・・・訳ありのようじゃな。まあ、答えたくないというのなら、無理に答えんでもよい。
よろしい、しばらくの間、オヌシをかくまってやろう」
と了子に伝えた。それを聞いた了子は、
「本当ですか!?ありがとうございます!」
と、歓喜に満ちた声で答えた。
サクラの心の中にはまだ疑問が残っていたが、今度の連休明けにでも面堂に聞いてみればよいかと思っていた。
そう、面堂が「外出禁止2日」を言い渡した日というのは、3連休の残りの2日であった。
サクラは了子を自宅に連れて行き、玄関を開けて、
「さあ、むさくるしいところじゃが遠慮なく・・・」
と言いかけたところに、チェリーが突然、
「何の用じゃオヌシ?」
とそのむさくるしい顔で了子にアップになって迫ってきた。その瞬間、脈絡もなく爆発が発生した。
「客に向かっていきなり何をさらすっ!!」
そうサクラは叫ぶと、伯父の頭を木製のライトハンマーで強打した。
バキィッっという強烈な音とともにチェリーは顔から地面に叩きつけられた。さらに、

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