友引町に哀しみの雨が降る (Page 3)
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「オジ上、それに母上。今日からこの娘をしばらく預かることになったのでひとつよろしく頼む。
オジ上は知っておると思うが、名前は了子じゃ」
サクラはただそれだけ伝えると、了子を客間に案内した。サクラはそこで、
「この部屋は自由に使って構わんぞ。ところでオヌシ、風呂にはまだ入っておらんのか?
どうじゃ。一緒に入らんか?オヌシにはいろいろと聞きたいこともあるからのう」
と了子に言った。風呂の中なら了子の心もリラックスして、話しやすくなるかもと思ったサクラの作戦であった。
了子はなぜかその時、すんなりとOKした。普段の彼女なら嫌がる場面だ。
以前ホットタブパーティーで一緒になったことはあったが、そのときは水着を着ていた。
そのときのあたるや面堂たちのがっかりした表情は今でも覚えている。
正真正銘裸で接するのは今回が初めてである。なぜこんなにあっさりと承諾したのかは、今でも分からない。
そういうわけで、了子はサクラと一緒に風呂場に行った。
了子は脱衣所で服を脱いでいるとき、サクラが服を脱ぐさまをまじまじと見ていた。
その完璧なボディーラインに、見ほれていた。
特に、サクラがブラジャーを外す瞬間は、食い入るようにじっと見ていた。
その瞬間、彼女の押さえつけられていた豊かな胸が、ゴムまりのように弾ける様は、女の自分でも、惚れ惚れした。
それと同時に、激しい嫉妬を覚えた。
湯船につかりながら、了子は、
「ああ、サクラ様って、本当に豊かな胸をなさってますわね。女の私でも惚れ惚れしますわ・・・
お兄様や諸星様があなたに夢中になられるのも無理ありませんわね。
それにひきかえ私は・・・だからお兄様、私のこといつまでも子供扱いするんですわ。きっと」
と自分の胸を見ながらぼやいた。サクラはこれで大体のことが分かった。これでもカウンセラーの端くれである。
「なるほど、オヌシ、兄とケンカをしたのじゃな?それで家を飛び出してきたというわけか。
おおかたその時、オヌシの兄が『子供のくせに』といった感じのことを言ったのじゃろう?」
サクラがそう言うと、了子は図星をつかれてドキッとしたときの顔をした。
結局了子は今までのことを何もかも話した。
「お願いです!私がここにいることは誰にも、特に兄には絶対に・・・」
と了子が言いかけると、サクラは、
「安心せい。私の口は堅いほうじゃ。黙っておいてやる」
と了子を安心させるように言った。
このときサクラは、いずれは2人に仲直りをさせなければならないが、今はそっとしておこうと思った。
風呂から上がり、2人が寝巻きに着替えているとき、サクラは、
「そういえば、さっきオヌシ、胸がどうのこうのと言っておったな。まるでしのぶみたいなことを言うのう。
あやつも以前修学旅行で私と風呂に入ったとき、似たようなことを言っておった。
だがな了子、女の価値や大人として見られるかどうかなどということは、
胸の大きさやプロポーションの良さなどで決まるものではあるまい?
もしそんなことで女の価値を決めるような男どもがいたら、そやつらは最低の人間ということじゃ。
大人として見てもらえるにはどうしたらよいかについては、はっきりとした答えはないが・・・
とにかく、オヌシの兄がオヌシを子供扱いするのは、そんな理由ではないと私は思うぞ」
と了子に懇々と説教した。了子の思い込みをなくすことがとても重要だとこのとき思っていた。さらに、
「これは私の憶測じゃが、オヌシのことに兄が干渉し過ぎるのは、それは兄としてオヌシの身が心配だからではないのか?」
と言った。このときまだ兄に対して憤りを感じていた了子は、
「違います!兄は・・・私の素行を疑っているから・・・面堂家の恥だと思っているから・・・」
と反論したが、サクラは、
「そうかのう?本当にそう思っているのなら、オヌシにそこまで構ったりしないと思うがのう。
おそらく兄がそうするのは一種の兄弟愛じゃよ。あやつはきっとシスターコンプレックスなのじゃ」
とさらに言った。
懇々と説教されて了子はしばらく黙っていたが、その後、
「ではサクラ様は、私のことを大人として、女として見てくださるとおっしゃるのですか?」
と問いかけた。それに対してサクラは、
「もちろんじゃ。オヌシに風呂に一緒に入らんかと言った時だって、断られたらどうしようかと思っていたぞ」
と言って、了子の大人としてのプライドを尊重することを伝えた。
「だがな、今いったとおり、オヌシはもう子供ではないのだから、いつまでもこんな生活を続けるわけにはいかんぞ。
ちゃんとお互いの誤解とわだかまりを解いて、そのために素直になることが、本当の大人として当然のことじゃ。わかるな?」
サクラはこうも言って、了子にいずれは家に帰れということを暗に伝えた。
了子はそれを聞いたあと自分にあてがわれた部屋へ戻った。布団の中に入ると、こんなことを考え始めた。
(私がとても悲しくてイヤだったことは、お兄様に頬をぶたれたこと・・・?

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