友引町に哀しみの雨が降る (Page 4)
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それとも、門限破りをきつく詰られたこと・・・?・・・違うわ。
私のことを信じてくれなかったこと、そして私のことを大人として見てはくれなかったこと。それだけ。
私がお兄様から信頼されるにはどうしたらいいの・・・?どうしたら私を大人と認めてくれるの・・・?
サクラ様はああおっしゃってらしたけど、私はまだ、お兄様を許せない・・・
お兄様が先に私に謝るまで、うちには絶対に帰らないわよ・・・たとえここを追い出されたとしても・・・
でも、サクラ様が言うとおり、お兄様が私のことをぶったのが、私の身を案じてのことだとしたら・・・
・・・やっぱり私が先に謝るしかないの?)
そのうち、了子は眠りについた。
次の日の朝、了子がまだ屋敷内に帰っておらず、連絡もないことから、面堂邸内、もとい面堂1人は大騒動となっていた。
そんな彼の慌てぶりとは裏腹に、邸内は静かなものだった。父も母も、顔色一つ変えていなかった。
慌てふためいている息子の姿を見て、父は、
「終太郎。どうしたのだ?そんなに慌てて」
と愛用のパイプを銜えながら涼しい顔で尋ねかけてきた。その尋ね方があまりにも能天気な様子であったので、面堂は、
「どうしたのだではないでしょう、父上!了子が昨日の夜から屋敷に帰って来てないのですよ。ご存じないのですか?」
と父をせきたてるように言った。父は、
「そうか、それは知らんかった。何しろ昨日は帰りが遅かったからねぇ。大変だねえ、そりゃ」
と人事のように煙をふかしながらのんきに言うので、面堂は、
「何人事みたいに言っておるんですか!!一大事ですよ、これは!とにかく、ボクは思い当たる節をあたってみますから。
父上も何か心当たりがあったら教えてください!失礼します!」
そう言ってその場を立ち去った。
(了子が帰って来ていない・・・なぜ・・・?家出かな。感受性の強い年頃だからなぁ・・・)
父は頭の中でものんきに呟いていた。
面堂は気が立っていた。門限破りどころか、あまつさえ無断外泊までもしたのだから、当然であろう。
廊下をせかせかと歩いていると、体格のいい黒メガネが面堂の目の前に現れ、
「若、面堂家私設警察、いつでも出動できます」
と報告してきた。しかしそれを受けて面堂は、
「キサマぁーっ!!いつからボクを差し置いてそんなことができるほど偉くなった!
そんなもの必要ない!さっさと通常任務に戻るよう指示しろ!!」
と彼に向かって怒鳴り散らした。彼は、
「はあ、しかし・・・」
とぐずぐず答えたので、面堂はさらに、
「さっさとしろォ!たかが妹一人探すのにそんな大騒ぎをしたとあっては、面堂家末代までの恥だ!!」
と叫んだ。このとき彼は、すぐに見つかるさと楽観視していた。
面堂は家を出ると、早速思い当たる節をあたってみることにした。
その頃あたるは、ラムと一緒に昨日からの雨が降り続く中、友引町のメインストリートを歩いていた。
ラムはアイスクリーム屋を見つけると、
「ねぇーダーリーン!あのアイスクリームおいしそうだっちゃ。ねぇ、買ってぇ!」
とあたるの服の袖を掴み早速おねだりを始めた。今日始めてのおねだりだったので、
「しょうがねぇなあ。わかったよ。でもダブルはだめだ!お腹こわしちまうからな」
とあたるは条件付でOKした。
「お腹をこわすから」というのはラムを心配してというよりもむしろ、財布の中身を心配しての発言だった。
ラムは、
「えーっ、イヤだっちゃ!ダブルにしてくれなきゃイヤだっちゃ!」
と駄々をこねたが、あたるが、
「わがまま言ったらもう買ってやんねえぞ!」
と言うと、ぶうぶう言いながら承諾した。
しかし、シングルでも600円もする。これからのことを考えるとあたるはぞっとした。
というのも、今日はラムがあたるに何か好きなものを買ってもらえる日なのである。
実は昨日、あたるとラムはチェスで勝負した。勝ったほうが負けたほうに好きなものを買ってもらえるという賭けをしたのだ。
もちろん勝ったのはラムだ。それでラムはあたるに欲しかった洋服やアクセサリーを買ってもらうことにしたのだ。
ラムはアイスクリームを食べ終わると、ブティックのショーウィンドウをニコニコ笑いながらのぞき始めた。
「うわぁー、あのスカートかわいいっちゃ。あっ、あのイヤリングもいいっちゃねー・・・」
こんな他愛のないことを言っているラムの後ろには、
「まさかあいつ、とんでもなく高いもん買ってなんて言わんだろうな!?」
と考えながら財布をのぞいているあたるがいた。
そのときである。あたるの全身に悪寒が走った。そのすぐ後、
「諸星ぃーっ!!」
という聞き慣れた叫び声が聞こえた。その声の主、面堂が刀に手をかけた瞬間、あたるは面堂の顔面に靴の裏で蹴りを入れた。
足跡がくっきりついた顔で面堂は、
「いきなりなにをさらすっ!!」
とあたるに向かって叫んだが、あたるも、
「それはこっちのセリフじゃ、アホッ!!毎回毎回刀振り回しながら人に話しかけおって!白刃取りももう飽きたわい!!」

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