友引町に哀しみの雨が降る (Page 7)
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「この分じゃと、今夜中には雨は止みそうじゃな。それにしても、すまんな。客であるオヌシに手伝わせてしまって」
恐縮だという気持ちをサクラが述べると、
「いいえ、これくらい当然ですわ。ただで泊めてもらうわけにはいきませんもの。
それに、花嫁修業にもなりますわ」
と答えた。
「ほう、花嫁修業とな。ではオヌシ、将来結婚したいと思っておる相手とかいるのか?」
サクラの質問に、
「え・・・あ、その・・・」
と顔を赤らめながらしどろもどろになった。その様子を見て、
「フッ、まあ、結婚を意識するにはまだ早いかもしれんのう。なにしろまだ子供じゃから・・・」
と言いかけると、了子はすかさず、
「しっ、失礼じゃないですか!私にだって、結婚するには早いにせよ、好きな人ぐらいいますわ!
言ってることが昨日と違うじゃないですか!私は子供じゃありませんっ!」
とぷりぷり怒った様子で答えた。サクラは笑って、
「ハハハ・・・すまんすまん。オヌシが顔を赤くしている様子があまりにもおかしくてな・・・」
と答えた。
「もう、サクラ様のいじわる・・・」
そうこうしているうちに、仕込みは完了した。
テーブルに鍋と食材を置き、準備は完了した。あとは食べるだけである。
「それにしてもオジ上は遅いのう。どこで道草食っておるんじゃ・・・了子、すまぬが・・・」
サクラがこう言うと、
「わかってますわ。もう少し待ちましょう」
と了子は返事した。その時である。
「了子!」
食卓の横の庭からこう呼ぶ声がした。
「お兄様・・・それに諸星様たち・・・何をなさってますの」
振り向くなり了子はこう言った。以外にもそれほど驚かなかった。
しかし、この無神経な言葉が面堂を怒らせた。
「了子!お前ってヤツは!!」
右手を大きく振り上げ了子の頬を昨日同様ぶとうとした瞬間、その手をあたるが掴み、首を横に振って、
「よせよ!相手は女の子なんだぞ。いきなり頬をぶつやつがあるか!文句があれば口で言えばよかろう」
と言った。それに合わせてサクラも、
「のう、面堂。私からも頼む。こんなこと言えた義理ではないかも知れぬが、これ以上厳しく了子を叱らんでやってくれぬか?
了子はオヌシから信用されず、子供扱いされたことで、心が傷ついておる。昨日ぶたれた頬の痛みより辛かったであろう。
門限破りも無断外泊も、悪いことには違いないが、そのことをとがめる前に、2人でよく話し合ってみてはくれぬか?」
と面堂に対して要求した。そう言われて、そのまま考え込んでしまった。
一方ラムは、
「了子も了子だっちゃ!終太郎、了子のこととっても心配してたっちゃよ?
了子がどこに行ったのか、もしかしたら誘拐されたんじゃないかって。
今日1日、この雨の中、あっちこっち必死に探しまわったっちゃよ。
散々心配かけておいて、ほかに言うことはないの?」
と、3人を見たときの了子のあまりにもあっさりとした態度を非難した。
了子もその場で黙り込んでしまった。しばらくして、口を開いた。
「お兄様、門限破りや無断外泊のことは私が悪かったです。ごめんなさい・・・
でも私は、本当に誰とも一緒に行っていませんわ。そのことを信じてはくださらなかった・・・
お願いです。そのことだけはどうか謝ってください・・・」
「だったらなぜ、素直に最初からそう言わなかったのだ・・・」
ラムはすかさず、
「そうじゃないっちゃよ!終太郎。了子が間違いを認めたんだから、まずはお前も謝るべきだっちゃ!」
と面堂に言った。それを聞いて、面堂はしばらく黙った後、
「了子・・・昨日はすまなかった。本当にそう思っとる。
だから頼む!うちに帰ってきてくれ・・・」
と必死に謝罪の言葉を述べた。了子はそれを聞いて、ただ黙ってうなずいた。
その横では、すき焼きがもう出来上がっていた。それをチェリーとコタツ猫がうまそうに食べていた。
「さだめじゃ・・・」
そう言って1人と1匹で全部平らげてしまった。雨はもう上がって、星空が広がっていた。
次の日、太陽がとても眩しい連休の最終日だった。面堂と了子は黒メガネも黒子も連れずに、往来を歩いていた。
すると突然了子が面堂の腕を抱き、
「ねぇ、お兄様。こうやると私たちも、恋人同士に見えますかしら?」
とささやいた。面堂は、
「バカモノ。ボクとお前とじゃ、せいぜい親子連れがいいところだよ!ガキ!」
と冗談めいて答えた。
「あーっ、ひっどーい!サイッテェー!もう、お兄様のスカタン!オタンチン!」
「バカ!お前そんな下品な言葉、どこで覚えてきた!?」
そんな会話を2人で交わしていると、痴話ゲンカの声が向こうのほうから聞こえてきた。
「ダーリン!!昨日のデートすっぽかした罰として、ウチにヴィネルのバッグ、買うっちゃーっ!!」
「バカタレ!オノレはオレに首吊って死ねというのか!?第一昨日は非常事態じゃから仕方なかろーが!」
「買わなかったら100万ボルトだっちゃよーーー!!」

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