友引町に哀しみの雨が降る (Page 6)
Page: 01 02 03 04 05 06 07 08

(ダーリン。今日は事情が事情だから仕方ないけど、この埋め合わせは必ずさせるっちゃよ!)
賭けのことをうやむやにはさせないという決意を固めたラムは、2人とともに降りしきる雨の中、捜索を開始した。
「ちょっとお邪魔します。中を拝見させていただけませんか?」
こんな感じで、あたると面堂は一軒一軒心当たりの家を回った。そして家中くまなく探した。
中には、朝に訪ねてきたお宅の使用人に話したとおり、了子様はいらしておりませんの一点張りの家もあった。
やはり相手が知り合いとはいえ、家の中をあれこれ引っ掻き回されるのは抵抗があるのだろう。
そういう家は、こっそり忍び込んだり、その家によく出入りする人(例えば植木職人)などにそれとなく聞くなどした。
一方ラムも、面堂の作ったリストと了子の写真を手に、了子がよく行くという店をあたっていた。
さすがは良家のお嬢様である。行く店のすべてが、高級ブランド品の店や、高級レストランばかりである。
自分と同じで買い物や外食は好きなようである。どの店のオーナーも了子の顔を知っていた。
「この女の子、来なかったっちゃ?」
ラムが了子の写真を見せてこう尋ねると、どの店でも、
「ああ、この方なら存じ上げます。この方、よくこの店にいらっしゃいますから」
と判で押したように同じ答えが返ってきた。しかしどの店でも、
「今日はまだいらしておりませんが」
という答えが返ってきた。ラムは落胆した様子で、
「あーあ、せっかくの休みがこんなことでつぶれるなんて・・・ついてないっちゃ。
聞き込みってつらいっちゃねー」
と、まるでいっぱしの女刑事のようなことを言った。さらに、
「それにしても了子のヤツ、高級ブティックだの高級レストランだの、すごい店に通い詰めしてるっちゃね。ガキのくせに・・・
ウチも1度でいいから、ダーリンにこういうお店でお洋服やアクセサリー買ってもらって、
それからあっちのレストランで2人でディナー・・・なんてしてみたいっちゃ」
と聞き込みを終えたばかりのブティックを眺めながらため息混じりに言った。面堂のリストの最後の店だった。
それと同時に、どうしてここまでやらなきゃいけないっちゃというやり場のない怒りが胸の内に込み上げてきた。
「・・・ったくぅ!明日絶対にダーリンにこの店にあるものどれかひとつ、買わせてやるっちゃっ!」
ラムが思わずそう叫ぶと、周囲の人が一斉に彼女を見た。
一方あたるたちも思い当たる節をしらみつぶしにあたったものの、どこにも了子の姿はなかった。
「おい。本当にこれで全部なのか?」
あたるが面堂に尋ねると、面堂は、
「ああ、これで全部だ・・・」
と力なく答えた。
「どこかもっと遠くに行ったということは考えられんか?例えば外国とか」
あたるがこう尋ねると、面堂は、
「ボクもそう思って黒メガネたちに航空会社、それと国内の別荘などに行った可能性も考えて、鉄道会社をあたらせたよ。
だが了子が国外に出た形跡はなかった。鉄道会社のほうも、やはり・・・」
と答えた。彼が途方にくれた様子で、
「ああ、了子。お前は一体どこにいるんだ・・・」
と呟いていると、突然、
「困っておるようじゃな」
とチェリーが脈絡もなく現れ、周囲に爆発を巻き起こした。
その後あたると面堂は、
「人が落ちこんどる時に、いきなり出てくるなっ!!」
とチェリーを思い切りどついた。そこにラムが突然現れ、
「ねえ、チェリー。昨日の夜からたった今ダーリンたちに会うまでの間、了子の姿見なかったっちゃ?」
と尋ねかけた。するとそわそわした感じで、
「ワ、ワシは知らんぞ!了子が家を飛び出したなど・・・」
と言うので、面堂は、
「おい、ちょっと待て!ラムさんはただ『見なかったか?』と聞いただけだぞ。
それをなぜ、了子が家を飛び出したなどということを知っておるのだ?」
とチェリーを問い詰めた。そしてチェリーの胸ぐらを掴み、
「了子はどこだ!?知っているんだろ!?答えろ!!」
とさらに強く迫った。すると、
「さ、最近ワシゃあボケてきとるようでのう。そのせいか自分でもよく分からんことを・・・」
ととぼけてみせた。
「冗談で言っただけだというのか!意味も分からず口を滑らせただけだというのか!!えぇっっ!!?」
面堂がチェリーをさらに厳しく追求するが、何も話そうとしない。
そんな中、あたるがアイスクリームを出し、
「なあ、チェリー。これ食って頭すっきりさせたら、ボケは治るか?ん?」
と言うと、チェリーはそれをあたるの手から奪い、
「了子ならサクラと一緒に家におる。昨日の夜サクラが道で会ったのを連れて帰ってきたのじゃ」
このように急にペラペラと話した。まるで北風と太陽のようだ。チェリーを買収するには食べ物が一番だ。
それだけ聞くと、面堂たち3人は、チェリーをほっぽってサクラの家に急いだ。雨は小降りになっていた。
その頃了子は、サクラの家でサクラと一緒に夕食の準備をしていた。ちなみに今晩はすき焼きである。

Page 5 Page 7
戻る
Page: 01 02 03 04 05 06 07 08