パラレルうる星小説PART1「高校野球編:第1話最初の夏・最後の夏」 (Page 4)
Page: 01 02 03 04 05 06 07 08

「え・・・。で、でも、はずれたんですよ。いくら速くたってあんな極端なはずれ方をしたら、連続フォアボールで押しだしですよ。攻撃が駄目なウチにとって
失点はどこよりもきついんですから」
体を少し前に乗り出した。今度は横に片腕をまっすぐのばしていた。
「コントロールなら走り込めば良い。お前は面倒くさがり屋だが、素質はある。だまされたと思って毎日走り込んで見ろ。
足腰さえ安定すればお前は友高始まって以来の最強ピッチャーになれる」
あたるは少しとまどった。いまさら面倒くさがり屋の癖を直すことなどできるのか。
困った表情のあたるにルパは少し目を細めて、落ち着いた口調で話し始めた。
「俺はな、あたる・・・。どうしても友高を甲子園に連れて行きたいんだ。ここ十年、ベスト8で終わるチームだと世間にののしられ、酷ければ相手監督に
なめられて・・・。それが悔しくて俺たちの先輩達は死にものぐるいで練習した。しかし、毎年ベスト8止まり・・・。長年監督をやってきた大将はそのたびに
悔しさを覚えた。だが、涙を流すことはなかった。涙は嬉しい時にこそ流すものだと・・・。だが、この年になって体はぼろぼろだ・・・。
もう監督生命は二、三年が限度だろう・・・。だから、せめて一度ぐらいは甲子園に連れて行きたい・・・」
そのときあたるの体の中で何かが動き始めた。心の中で甲子園という三文字が、浮かび上がってきた。風がグラウンドに拭いてきた。
その週の日曜日
県予選第一回戦、第2試合 「友引高校 対 尾崎山高校」
「ストライク!バッターアウト!」
『空振り三振!五回の裏、エースの黒川、五個目の三振!今日の予選一回戦、友高対尾崎高。甲子園出場は無いとはいえ、東東京の強豪「友高」。
エース黒川、今日は絶好調です!八回までノーヒットノーランです!!塁に出たのはフォアボールの一回だけ!それもきわどい判定です!』
カキーン・・・。球場に気味が良い音がして、レイの売ったボールは外野席の最上段に消えていった。
『ホームラン!ツーランホームランです!友高の四番一年生、鬼木!七回の表ここへ来て友高七点目!!7−0です!今年の友高は攻撃にも期待できます!』
「で、終わってみれば、9−0でコールド勝ち。今年はいけるんじゃないか?」
球場からのバスの帰り。あたるはコースケと前から三番目の席に座っていた。
「ムリだって、一刻商がいる限りムリだよ」
コースケがひじをついて面倒くさそうに言った。
「ばかたれ、甲子園をあきらめてどうする!何のために厳しい練習してると思ってんだ!」
コースケは、急にあたるが甲子園を夢見始めたことに驚き、ひじをついていた腕が、ずるっと横に倒れた。
「お前、熱でもあるのか?」
コースケはあたるの額に手を当てたが熱はない。あたるはその手を払いのけると再び怒鳴った。
「んなもんあるかい!!いいか、今年は、黒川さんが率いる友高なんだぞ!親父さん率いる友高なんだぞ!この調子で行けば、打倒一刻商も夢じゃない!」
あたるの右腕がコースケの前で、強く握り拳を作っている。コースケはそれがいつ自分の顔に飛んでくるかわからんっと、その拳を両手であたるの方に
押し返した。
「そ、そうか・・・」
「コースケ!明日から早朝ランニングだ!忘れるなよォ!!」
コースケはあたるの後ろに荒波が見えるような気がした。
「まあ、俺はいいけどよ・・・」
前の席で、ルパが帽子で隠した顔の下で笑みを浮かべていた。

PART3[甲子園の忘れ物]
日曜日 諸星家
「あたるー、起きなさい」
あたるの母が、階段の一番下であたるに呼びかけている。あたるはベッドの上で身を毛布で覆いながらその声から耳をふさいだ。
ぴんぽ〜ん・・・。諸星家の家中にチャイムが鳴った。
「はいはい・・・」
あたるのは母少し高めの声でサンダルを履きながら、玄関の鍵を開けると、にこやかな表情でドアを開けた。そこには豪太刀の四番、面堂修太朗その人が、
立っていた。後ろにはコースケとラムの姿も見える。
「おやまあ、面堂君にラムちゃん、それに浩ちゃん・・・」
コースケはあたるの母に浩ちゃんの愛称で呼ばれている。幼なじみの親が出来る芸当だ。外はすでに蝉がなっていて日差しも白く強い。
「あの、あたるは?」
コースケは手で仰ぎながら、爺くさくも下駄を履いている。涼しそうな格好だ。さすがに面堂は社長の息子だと言うことであまりふしだらなものはきていない。
「ああ、はいはい。今起こすからね。ちょっと待ってて・・・」
そういうとあたるの母は階段を小走りで上っていった。
「こら、あたる!!早く起きなさい!!いつまで人を待たせる気なの!!」
二階からは激しい物音がして、玄関の天井から多少なり砂ぼこりが落ちてきた。音が止むと二階から玄関を開けたときのようなにこやかな顔をしながら、
あたるの母がおりてきた。
「もうすぐ来るからね。今着替えてるから・・・」
そう言うと奥の台所に消えていった。面堂はおそるおそるコースケと目を合わせた。

Page 3 Page 5
戻る
Page: 01 02 03 04 05 06 07 08