パラレルうる星小説PART1「高校野球編:第1話最初の夏・最後の夏」 (Page 7)
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『三塁打!久能、打っても凄いが足も速い!』
「凄いな・・・。黒川さんから三塁打・・・」
あたるがあごを引き気味に言った。
「ストライク!ストライク!ストライク!バターアウト!!」
「三球三振!大垣の五番、桐山を三振!久能の三塁打を気にせず、久能を三塁に釘付け!」
友高は七番、八番、九番と三者凡退。そしてそのまま六回の裏。
『さあ、注目の久能です!唯一三振が無いのがこの久能です!五回から少し黒川の調子が落ちてきています!久能には有利な展開でしょう!』
「黒川ぁ!討ち取れよ!!」
ラムの父はメガホンでルパに大声を出したが、ルパには聞こえていなかった。
「疲れ切ってます・・・」
あたるの隣でコースケが言った。
「何を言っとるんや?ルパはコレまで何回も完投しとるんやど」
「これは俺の勝手な推測ですので確証は持てませんが風邪を引いているようです」
「風邪やと!?」
「ええ・・・。それにこの炎天下です。黒川さんの体力はもう限界です」
コースケの言うとおり、グラウンドに蜃気楼が出来ていた。もやもやと人影が揺れている。その光景をみた。
(確かにあいつはもう駄目や・・。だが、この打線を押さえられるのは黒川だけ・・・)
カキーン・・・。久能の打ったボールが球場の外に消えていき、大垣の応援スタンドから地を揺るがすほどの歓声が飛んできた。
『じょ・・・、場外ホームラン!!四番久能、特大の場外ホームラン!!ついにスコアボードが動きました!!』
その後、外野フライで討ち取り、ルパは少しふらつきながらもベンチに戻ってきた。ラムの父はルパにスポーツドリンクを手渡したが、ルパは下を向いたまま
動かなかった。
「ルパ・・・、おい、ルパ!!」
声が大きくなったラムの父にルパが気づいた。目をラムの父に会わせ無言でまた下を向いた。
「大丈夫か?」
「正直言うと・・・あと一回だけしか投げられません・・・。それ以上投げたら倒れます」
ラムの父に驚きの顔が浮き出てきた。ルパは絶対に諦めない男であった。しかし今初めて弱気を見せた。
するとルパはきつそうな目であたるを見た。その視線に気づいたあたるだったが目をそらすことが出来ない。しかしルパの方から
目線をはずし、再び下を向いた。あたるの心にエースの自覚がわいてきた。
「親父さん、俺をマウンドに行かせてください!」
後ろからラムの父に信じられない言葉が聞こえた。ラムの父は少し遅めに首を横にしてあたるを見た。
「な、なに言うてんねん!?お前はまだ・・・」
「大丈夫です」
ラムの父の言葉をあたるの声がかき消した。しばらくラムの父は考えた。確かに最近やる気を出し始めたあたるではあるが、
まだ球の速さ、コントロール、変化球の切れ味など殆どあたるに指導はしていない。指導をしているのはルパであったため、少しの
安心感はあるが、やはり自分で教えないと何か不安があるのだ。しかしラムの父は決断した。
「解った・・・。お前は次の次の回に登板じゃ。悪いが次の回は黒川にやって貰う。お前はその間ブルペンへ・・・」
「解りました!」
あたるは自分のバックから愛用のグローブを取り出すと手にはめ、ブルペンに向かった。ベンチを出たあたるをラムの父は呼び止めた。
「お前を信じるで・・・」
あたるは一瞬表情をゆるめたが、すぐに目つきをきりっとさせて言った。
任せておいてください」
一言自信を持った一言を言うとブルペンに向かった。
「完全に信じてますね・・・」
ここへ来てやっとルパがしゃべった。しかし死に際のような声だ。
「馬鹿、どんなに口で言っても完全に信じられるのは自分だけや。そやけど、あいつは大いに信じられる。そんな目をしとった」
「そうですね・・・」
そして六回の裏・ルパは披露の影響で猛打を浴びたが、それでもバックの援護もあり、なんとか無失点に押さえた。
七回の表
『さあ、友高の攻撃は三番の黒川です。ツーアウトで三塁には友高最速の藤波。しかし黒川の顔には疲労が見えます。どうする友高ナイン!』
ルパは乱れる息を止めると久能を見た。時が止まったかのように周りの音が消えた。視界にも久能しか見えない。
音のない中、久能はボールを投げているのが見えた。。
140qはあるストレートがルパの目に入った。
(なんとしても同点に・・・)
ルパの振ったバッドにボールが当たった感触は無かった。ルパの目に唯一写った久能の姿もぼやけて消えた。
耳に歓声が聞こえた。しかし聞こえてくる方向は味方の応援スタンドからだ。ルパはやっと見えるようになった視界に写ったキャッチャーミットに
ボールはなかった。
『ホームラン!ホームランです!黒川逆転のホームランです!!』
ルパは訳のわからぬまま味方ベンチを見ながら塁を回った。敵の内野手を含め、久能もあっけにとられた顔でルパを見ている。
ルパはホームランに気づくと帽子の陰で小さな笑みを浮かべた。
ホームインし、グラウンドを見渡した。夏の暑さでもやもやとするグラウンドが、普段より大きく見えた。
友高ベンチ

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