パラレルうる星小説PART1「高校野球編:第1話最初の夏・最後の夏」 (Page 5)
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「いやー、すまんすまん。すっかり寝坊しちまった。待ってろ、ちょっと朝飯持ってくるから・・・」
階段から下りてきたあたるの目の周りには青タンが出来てる。髪の毛も起きたばかりと言うより、電撃を食らったかのようなぼさぼさぶりだ。
「毎日、どういう起こされ方してんだ?」
「さあ・・・」
コースケは首を傾げた。
今日は東東京の四回戦1日目がある。友高が順調にいけば決勝で当たる一刻商の試合である。あたる達は一応偵察のためこの試合を見に行くのだ。
「今日は一刻の三人組が全員出るって?」
「ああ、そろそろベストメンバーで行かなければならないと一刻商の監督も思い始めたようだな」
「今日の相手は、ベストメンバーで行く必要ないんじゃないか?今日は大隈工業だろ?偶然とたまたまで上り詰めてきた奴らだぜ。
一刻商にとって全員補欠でも勝てる相手だよ」
「そろそろエンジンをかけておきたいんだろ。いくら大隈工業相手だってここまで上り詰めてきたんだ。補欠だけで勝てるとは思ってないだろうよ」
「そんなもんかね?」
「そうだ」
横でラムがイヤホンを使い、小型ラジオで一刻商の試合を聞いていた。
「どうだ、ラム?何対何だ?」
「六対四で一刻商がリードしてるっちゃ・・・」
ラムはいつにない真剣味な顔をしている。
球場午後一時三十分。三回戦 一刻館商業高校 対 大隈工業大学付属高校
七回の裏六対四 ワンアウト 満塁 バッターボックスは三番の三鷹
『さあ、大隈工業ここで大きなのピンチを迎えました。四死球でも外野フライでも一点!しかしバッターボックスには一刻商自慢のクリーンアップの
切り込み隊長、三鷹です!後ろには四谷、五代とスラッガーが控えています!マウンドの岩崎、ここでどういうピッチングをみせるのか!?』
大隈工業のエース、岩崎は額からたれ落ちる汗を帽子を取って左腕で拭いた。そしてまずは一塁へ牽制球で、セーフ。そしてそのままキャッチャーミット
めがけて投げた。岩崎が投げたカーブは三鷹のバットからは逃げられず、ボールは真芯にあたり、そのままレフトスタンド。
『満塁ホームラン!一刻商ここで三鷹のホームランにより一挙四点!十対四です!』
外野スタンドではあたるがのんきにスナック菓子を食べている。
「凄いな・・・」
「ああ・・・。これは手強い相手だな」
カキーン・・・。今度は四谷だ。
『四番、四谷わずかに芯をはずれました。向かい風に阻まれセンター、フェンスぎりぎりで取りました』
「おいおい、芯からはずれてしかも向かい風でフェンスぎりぎりかよ?あいつお前より凄いんじゃないか?」
あたるはスナック菓子の袋を持った手で面堂を指さした。
「ああ、今のところはな・・・。たが、来年は必ず勝つ、絶対・・・」
面堂は膝の上にひじをついて手を組み、その上に頭を置くようにして、試合を凝視していた。あたるはその光景をじっくりと眺めていた。
「ばかやろ、来年は戦わせないぜ。俺らがあいつらを倒すんだからな。甲子園でお前らと戦うのは友高だ」
「おいおい、だったら打者としての成績を争う相手がいねえじゃねえか?」
面堂はあたるスナック菓子の袋に手を突っ込んだ。
「んなもんコースケがやってやるよ。今はレイが四番だが、来年、いや秋期大会はコースケが四番だ。お前のライバルになるぜ、きっと・・・。
【友高のエース・諸星あたると四番・白井浩介率いる友高、甲子園を制す!】こう新聞にでっかい活字で載せてやる。楽しみにしてろ」
あたるもスナック菓子の袋に手をつっけんで、中身をわしづかみで取り出した。
「馬鹿、お前らは決勝で俺たちに負けて涙を流すんだよ、【あっと一歩届かず、諸星と白井、号泣】ってな」
面堂は今度は袋ごとに取った。コースケが陰険というような面で面堂を見た。
「ほざけ!」
あたるは乱暴に袋を奪い返し、その勢いで中身が飛び出した。
「すごいっちゃね・・・」
ラムがひっそりと言った。あたるは面堂が袋を再奪取しようとしたので、面堂の顔を手で押し返しながらラムを見た。
「あ、ああ、一刻商か?そりゃあ・・・」
「違うっちゃ」
物寂しそうにいうラムに、じゃれ合っている面堂とあたるが静まった。
「あの三人に勝負を仕掛けているあのピッチャーだっちゃ」
「・・・」
「あの人、何度も打たれても絶対に逃げなかったっちゃ」
その日、大隈工業は八、九回の表、一刻商エース・五代が引っ込んだことで一挙七得点し、十一対十と逆転に成功したが、
九回の裏、五番五代のツーランによって逆転負け。その瞬間、岩崎は小雨の中マウンド上で号泣した。
「りっぱなエースだ。並の精神力じゃあ完投出来なかっただろうな・・・」

その日の試合で、準々決勝に二校進出。明日友高の試合がある。
「おい、面堂、コースケ、先に帰れ。俺はラムと話がある」
「話なら帰りながらでもできるじゃねえか?家まで三十分あるんだぞ」
前方を歩くコースケが振り向いて答えた。
「2人きりで話がしたいんだよ」

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