高校野球編:第三話 最初の挑戦・最後の挑戦 (Page 1)
Page: 01 02 03 04 05 06 07

高校野球編:第三話最初の挑戦・最後の挑戦


PART1[喫茶店にて]
『プレイボール!』
ウゥゥゥゥゥゥ・・・
『さあ、いよいよ始まりました、ここ、甲子園球場で今日いよいよ西東京代表の豪太刀学園と福岡県代表の風林館高校による決勝戦が
 行われます!いま、風林館の高校の早乙女が振りかぶって、第一球、投げ・・・プツッ』
あたるはテレビのスイッチをリモコンで消した。リモコンをテーブルの上に置くと、手を頭の後ろで組んで横になり、天井を見上げた。
目に見える白い天井には、少しシミが付いている。いや、ヤニであろう。父親はいつもあたるが座っている場所でたばこを吸うのが、
日課となっている。
『コラァァァ!気合いいれんかい!!』
『ホームラン打たれたら殺す!』
『打たれたら俺が取ってやるからよ』
『だからその夢を2人が背負ったっちゃ!』
天井には幻聴と同時に、野球部の幻覚まで聞こえてくるようだった。
(野球・・・か。なんで野球なんか始めたんだろうか・・・。小さい頃だって野球は目に入らなかったんだがなぁ)
寝返って、横を見るとテーブルの足が規則正しく、同じ長さで立っている。
夏休み中ですることもなく、暇をもてあましていたあたるは気分直しに散歩に行こうと、家を出て、無作為に右へ向かった。
この住宅街を歩いてみると、以外と珍しいモノに見える。普段は、気にもとめないが、家に巣くっている燕や木に止まっている蝉、
蜃気楼でぼやける道の向こう。野球を止めて得られるモノを感じた気がした。
(野球やってないとこんなにも一日が長いのか・・・)
遠くでは何処かの学校の部活が校外ランニングをしているのか、ファイトファイトという声が聞こえる。
あたるは何も考えず、足の向くままに歩いていくと、商店街にたどり着いた。この商店街の近くには一刻商がある。従って、商店街には
「祝・甲子園出場」という大段幕はあった。
(一刻商が甲子園いくのはいつもの事だろうが・・・。いまさら何を祝う?)
あたるはとりあえず、本屋によってみた。昔、立ち読みすると店の主人に怒られるような店だ。幸い、そういう主人ではないようで立ち読みを
している人は何人もいた。何気なく取ったのは、音楽を専門に扱っている雑誌だ。
ぱらぱらとめくっていくと、知らないアイドルや歌手がぞろぞろいた。
(こんな歌手いたか?お、このアイドルも全然しらねえ・・・。デビューは・・・、去年の七月・・・か)
去年の七月・・・。あたるにとって人生でもっとも大きな月だった。ルパの事故による下半身麻痺だ。
(もう忘れた・・・。いまは平凡な高校生・・・。地元のスターでも、甲子園の注目選手でもなく、ただの高校生だ・・・。野球なんか忘れた・・・)
あたるはその音楽雑誌を本棚にぽいっと置くと、漫画コーナーに向かった。別に毎回買っている漫画の発売にでもなければ、
新しく集めるわけでもない。ただ、本屋に行けば漫画の立ち読みと相場は決まっていた。
あたるはランラムに漫画を手にするとあることに気付いた。ビニールで包装してあり読めない。
(最近の漫画は立ち読みができんのか?)
仕方なく、漫画コーナーから雑誌コーナーに向かった。だが、それでも漫画雑誌が目当てだ。手に取ったのは、言うまでもなく「少年サンデー」である。
そこで、三十分ぐらい立ち読みすると今度はスポーツ雑誌を手に取る。
無作為に開いたページには「甲子園のヒーロー!面堂と水之小路!!」と載っている。
「・・・」
しばらくそのページから目を離すことが出来なかった。面堂がバッドを振り切った瞬間の写真や、「水之小路、徹底解剖!」と称して
飛麿の分析表が載っている。思わず読み行ってしまった。しかし、時の流れはそれを遮る。
「あたる君?」
後ろから聞き覚えのある声がする。しのぶである。あたるはスポーツ雑誌を元の場所に置くと体ごとしのぶに方向を変える。
「なんだ?なんでこんなところに?たしか今日は甲子園の決勝戦だろ?なんで東京にいるんだよ?」(あたる)
「マネージャーは去年辞めたわよ。聞いてなかった?」
「聞いてねえよ!でもなんで本屋なんかに?」
「もうすぐ休み明けテストがはじまるの。それでちょっと参考書を・・・。あたるくんは?練習はどうしたの?」(しのぶ)
どうやらこの様子だと面堂から何も聞いていないらしい。
「ちょっとな・・・。ところでどうだ?ちょっとお茶でもしてかないか?」
「う〜ん、帰って勉強したいから三十分ぐらいね」
ちょうど、本屋の近くに喫茶店がある。すこし小さいが、この時間帯なら空いているだろう。

「いらっしゃいませ。奥の席にどうぞ」
店員が簡単な案内をした。それに着いていって座った席は表の通りがよく見える席だ。
「やだ、外から丸見えじゃない」(しのぶ)
「喫茶店は大体そう言うモンだろ?」(あたる)
「知り合いに見られて勘違いされたら困るわ・・・」
「勘違いってなんだよ?」
「言わなくても分かるでしょう?」
「まあ、そんな堅いこと言わずに・・・」

Page 2
戻る
Page: 01 02 03 04 05 06 07